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ヒューマニズムの巨匠が戦時中に作った反日映画 『汝の敵 日本を知れ』

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政治的な見地から「反日映画」であるとか「反日的」だと批判を浴びる映画がある。例えばチャン・イーモウ監督が南京虐殺を扱った『金陵十三釵』(2011)は日本ではいまだに日の目を見ていない(2017年11月時点)。
 
イーモウがむしろ親日的な人物なのは映画ファンなら知っていて当然のことで、度々来日し、調布のラーメン屋を愛し、高倉健主演で映画も撮った人である。歴史的認識はともかく、作品自体がまるで存在しなかったかのような現状は、映画を超えて日本社会の“タブー”の問題に触れたからとしか言いようがない。日本として非難すべき内容なのだとしても、それ以前に非難される土俵にすら上がっていないのだ。
 
『素晴らしき哉、人生』(1946)の名匠フランク・キャプラが手掛けた『汝の敵 日本を知れ』は、そういう意味では清々しいほどの「反日映画」。プロパガンダの塊である。なにせ太平洋戦争の真最中に、若き米兵たちに敵国・日本と戦うべき理由を教える目的で作られた完全なる“国策映画”だからだ。ヒューマニズムの巨匠というイメージが強いフランク・キャプラが、日本は悪の組織のような島国ですよと伝えているのだから、戦時下だったとはいえ驚く人もいるのではないだろうか。
 

アリもの素材をコラージュして“悪の温床”日本を暴け!

フランク・キャプラのみならず、ジョン・フォード、ジョン・ヒューストン、ウィリアム・ワイラーといった名監督たちが、第二次大戦中にこぞって米軍に参加し、プロパガンダ映画を量産するに至ったいきさつはNetflixオリジナルのドキュメンタリー『伝説の映画監督 -ハリウッドと第二次世界大戦-』に詳しい。その中でも『汝の敵 日本を知れ』は取り上げられているのだが、愛国心に燃えたキャプラが本作の手法を思いついたのは、ナチスの御用監督として知られるレニ・リーフェニュタールの『意志の勝利』(1943)を観て「この戦争に負ける!」と戦慄したことに端を発する。
 
『意志の勝利』が喚起していた全体主義の持つ陶酔と高揚感を前にして、キャプラはビビった。ナチスドイツが国家ぐるみで創り上げるイメージのデカさと映画的興奮に圧倒された。苦肉の策として考え出されたのが『汝の敵 日本を知れ』でも活用されている「パクり戦法」だ。敵国が作った映像が驚異なのだとしたら、その映像を勝手に使って、再編集を施して、まったく別の意図を持つ作品に作り替えてしまえばいい。乱暴な話であるが、目的が「戦争」なのだから、作家性とか著作権とかが入り込む余地などないのである。
 
キャプラは手に入る日本の映像をかき集めた。ニュース映像や劇映画、説明が必要な部分はわかりやすくアニメーションで表現し、アニメの制作はディズニーに発注した。それらを組み合わせることで、天皇を戴く大日本帝国が、どれだけ狂信的な集団であり、世界征服の野望を持っている悪玉なのかを描き出そうとした。途中で中国服を着た工員が映ったり、劇映画のヤクザの出入りの場面が侍同士の合戦として紹介されるなどトンデモ描写もあるが、欧米諸国から見た当時の日本像を知る意味で、よくまとまった歴史資料にもなっている。
 
キャプラと米軍が目指したことは、米兵たちに対日戦争は「正義」であると確信してもらうことだった。紆余曲折を経て作品が完成した頃には太平洋戦争は終局を迎えており、実際にはほとんど人目に触れなかったらしいが、当時の米兵たちがどんな思想基盤を持って戦線に赴いたかは伝わってくる。
 
例えば映画『ハクソー・リッジ』(2016)でも描かれた実在の人物デズモンド・ドスは、信仰上の理由から決して武器を持たず、誰も殺さず傷つけないと誓っていたが、自ら志願して衛生兵として沖縄戦に参加した。不可解な思考回路に思えるが、そんな矛盾を抱えてもなお“日本(もしくはドイツ)を倒すべき大儀”を信じていたのである。『ハクソー・リッジ』に限らず第二次大戦映画の多くで「同世代の若者たちが命を賭けているのに、自分だけが故郷で安穏と暮らすなんて耐えられない」という志願兵が登場する。『キャプテン・アメリカ:ザ・ファースト・アベンジャー』(2011)もそういう映画だ。あの類のメンタリティは自意識の発露というだけではなく、社会的な義憤に支えられていたのだ。
 

日本への悪意と好意が入り混じる奇怪さ

さて、肝心の『汝の敵 日本を知れ』の中身だが、プロパガンダ映画とはいえ、結構ちゃんと研究されている印象だ。武士道は卑怯な裏切り行為が極意だと教えたりするので悪意のある曲解だと不快に思う人もいるだろうが、日本の歴史を紐解いて中国大陸や東南アジアに進出した思想的拠り所となった「八紘一宇」について解説する流れも、外部からの分析として興味深い。
 
そして時折「この映画の目的は何だっけ?」と不思議な気持ちになるのは、作品のテンションが微妙に統一されていないから。「ははあ、さてはこの映画、迷ってやがるな」と言いたくなる揺らぎが感じられるのである。
 
キャプラは本作の製作にあたって、共同監督としてオランダのドキュメンタリー作家ヨリス・イヴェンスに協力を要請している。イヴェンスはアジア通で知られ、日本の民衆を、悪辣な昭和天皇に操られている善良な人々として描こうとした。一方で米軍は昭和天皇を戦犯扱いしていいものか決め兼ねており、その扱いについての方針が定まらなかったという。キャプラはイヴェンスの意向を押さえつけて日本人を貶める方向に舵を切ろうとしたが、それも軍部の要請に応じてのことだった。
 
さまざまな要因が交錯した結果、完成した映画はある意味定見が失われている。大日本帝国の悪行を告発する一方で、日本研究の成果としての“事実”に即すことに重きを置いて、プロパガンダに隙ができたのかもしれない。時折、日本文化を紹介する観光ガイドのようにも見えるのである。結局キャプラは完成までに2年を費やしたが、軍は「日本に対して同情的で手ぬるい」と気に入らなかったという。
 
今の時代に改めて観ると、一本の映画の中でテンションや主張のベクトルが変わっていく右往左往を感じ取れて面白い。ナレーションはジョン・ヒューストンの父ウォルター・ヒューストンが務めているのだが、途中でダナ・アンドリュースに代わり、明らかに作品のトーンも変わる。果たしてこの映画のどこまでが事実に立脚し、どこまでが好戦的で、どこまでが好意的なのか? 政治的意図が明確なはずのプロパガンダ映画にも作り手の誠実さは宿るのか? 日本をモチーフにしているからこそ見えてくるものを、改めて検証したい貴重な一本である。
 
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イラスト:タカヤマヒサキ(http://hisabon.lolipop.jp/)
 
※『汝の敵 日本を知れ』はNetflixで配信中
 
【視聴リンク】
https://www.netflix.com/title/80119190

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