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「アメリカに「分断」は常に存在していた」 オマル・エル=アッカドインタビュー(2)

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「アメリカに「分断」は常に存在していた」 オマル・エル=アッカドインタビュー(2)

出版業界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』。第93回目となる今回は、デビュー作『アメリカン・ウォー』(上下巻/新潮社刊)がアメリカ国内で評判となり、邦訳版が発売、そして初来日を果たしたオマル・エル=アッカドさんが登場してくれました。

『アメリカン・ウォー』は2070年代から2080年代という近未来のアメリカを舞台にしたディストピア小説。化石燃料の使用禁止に反発した南部三州と北部州の間で勃発した「第二次南北戦争」に翻弄される主人公サラットと南部の人々が骨太な筆と巧みな構成で描かれます。

続発するテロや拷問、武装組織に強く惹かれる若者たち…。デビュー作にしてコーマック・マッカーシー『ザ・ロード』と引き比べられるほどの傑作『アメリカン・ウォー』がどのように生まれたのか。オマルさんにお話をうかがいました。その後編をお届けします。(インタビュー・記事/山田洋介、撮影/金井元貴)

【報復は国も宗教も関係ない普遍的なもの オマル・エル=アッカドインタビュー(1)を読む】

■アメリカに「分断」は常に存在していた

――「第二次南北戦争」という設定は、ドナルド・トランプを大統領に押し上げた昨年の選挙戦を経た今、単なるフィクションとして済まされないものがあります。今はアメリカにお住まいだというオマルさんですが、アメリカという国で生じている分断を感じるシーンはありますか?

オマル:私はアメリカに住まないといけない人間なので、第二次南北戦争なんて起きてもらっては困りますね(笑)。

分断自体はアメリカ国内に常に存在していたことで、今にはじまったことではありませんが、それでも今様相が違って見えるのも確かです。これまで、アメリカという国は国内にどれだけ国民同士の分断があったとしても、いざという時には団結できていました。大陸を横断する高速道路を作ったり、医療保険制度の交換所を立ち上げたりといった大きな課題に対しては、国民同士の様々な違いを乗り越えてこられたわけです。それが最近はできていないと感じています。これはすごく危険なことだと思いますね。

――アメリカにおける国民同士の分断の要因については、おもに中間層の崩壊と経済格差が挙げられます。これが本当ならば、今後も格差の上位と下位の溝は埋まりそうにないように思えます。

オマル:確かに、多くの分断や格差は経済的要因によるもので、過去20年格差は悪化しています。ただ、アメリカの分断の要因は経済的なものとばかりは言い切れません。

アメリカの場合、経済格差がたとえ完全に修正できたとしても人種間の分断が残ります。先住民の虐殺しかり、黒人系アメリカ人への差別しかり、人種間の分断はアメリカの建国以来存在しつづけているものです。

――エジプト生まれ、カタール育ちという出自を持つオマルさんにとって、今のアメリカは居心地のいい国ですか?

オマル:アメリカは住むにはすばらしい国だと思います。私は、生きている人間には未来を今より良くするために貢献する責任があると考えています。そして、その貢献の方法の一つは「批判すること」です。

アメリカの分断や格差の話をしましたが、それはアメリカが嫌いだから言っているのではなくて、アメリカはもっと良くなると思うから言っています。私が生まれたのは政府を批判すると投獄されるような国ですが、アメリカは自由にものが言えます。私はその自由を気に入っています。

――作中では現在のアメリカと中東の状態が逆転していて、アメリカが分裂し、逆に中東の国々が統合して「ブアジジ帝国」という民主化された一大帝国になっているのがユニークでした。アラブ世界で生まれ育ったオマルさんですが、「アラブの統合」は希望としてお持ちなのでしょうか。

オマル:統合はあくまでフィクションの話ととらえていただきたいですが、民主化は望んでいますね。

「アラブの春」が起きた時は、中東地域の未来は明るいものに思えました。これで民主的になるんだろうと。ただ、その後の経過を見ると、そうはいきませんでした。

自分にはエジプトの血が流れていますから、常に中東世界の未来がいい方向に向かうだろうという期待は持っていますし、持っていたいと思います。現状を考えるに10年後すべての地域が民主化しているかというと厳しいものがありますが、それでも期待はしたい。3人か4人の少数が支配するのではなく、真の意味での国民主権の国になってほしいです。

表紙

――「アラブの春」は現状、成功したとはいえない状況ですが、まだ「道半ば」だと。

オマル:本当にそうだと思います。自由を求める気持ちは人種も宗教も国も変わりません。作中では「ブアジジ帝国」ができるまでに「アラブの春」が二回、三回と起こった設定なのですが、現実に目を移しても、人々が自由を欲する限り、それを手にするまではこうしたことは起こり続けるんだと思います。

ただ、本来なら自由を手にするためにここまで暴力的なことが起こったり、痛みをともなう必要はないはずで、その過程で多くの人が命を落とさなければいけないのはとても残念なことですが。

――アメリカと中東地域の両方を知っている方ということで、アメリカの中東政策についてもお聞きしたいです。たとえばシリア内戦について、アメリカは当初シリアの「穏健な反政府勢力」を支援していましたが、トランプ政権下ではそうした支援を絞ったりやめたりしています。こうした一貫性のなさについてはどのような感想をお持ちですか。

オマル:おそらく、シリアの紛争を解決できたかもしれないタイミングは5年ほど前の、紛争初期の頃だったでしょう。今となっては、解決するというよりはどんな手を打つのが被害を少なく留められるかという議論しかできません。

アメリカの中東政策は常に同じで、その時々でもっとも安定を維持できそうなところをサポートします。たとえば独裁者によって国民の血が流れたとしても、その独裁者によって地域の安定が維持できるのであれば、支援してきました。今回のシリア内戦もそのやり方は変わっていないと思います。

一番問題だと感じているのは、シリア内戦にしてもアメリカとロシアという大国の代理戦争になってしまっていて、その地で生きるシリア人の命があまりにも軽く見られていることです。これがアメリカのど真ん中で起きていたら、対応策はまったくちがったでしょうし、もっと様々な案が出ていたはずです。そこに悔しさを感じたことも、この本を書いた動機になっています。

――次の作品の予定などがありましたら、教えていただきたいです。

オマル:実はもう執筆を始めていて、50ページくらいまで進んでいます。今はあちこち回って取材をしないといけないこともあって止まってしまっているのですが、できたら今年の年末か来年にはドラフトを書き終えていたいですね。

――最後になりますが、日本の読者にメッセージをお願いします。

オマル:アメリカン・ストーリーとしてだけでなく、もっと普遍的なものとして読んでもらえたらいいなと思います。

今回、日本にきていくつかインタビューを受けていますが、みなさんすごく考えながら読んでくれています。そのことがわかっただけでもうれしいですね。

(インタビュー・記事/山田洋介、撮影/金井元貴)

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