ガジェット通信 GetNews

見たことのないものを見に行こう
「ジャスティス・リーグ」特集サイト

「家に帰りたい」は本音?帰宅願望に隠された悩みに触れた日

DATE:
  • ガジェット通信 GetNewsを≫

認知症の方と日々接していると、対応に困ってしまい、さらにはイライラしてしまうことがあるのではないでしょうか。その原因のひとつに、BPSDといわれる症状があります。今回お話する、「家に帰りたい」という帰宅願望は、BPSDのひとつです。

現在の環境や自分自身に対する不安、居心地の悪さなど、さまざまな原因が、「家に帰りたい」という言葉に隠されています。記憶障害とも深い関係性があるため、家に帰っても、またすぐに家に帰りたいという話をされることも多いでしょう。

「家に帰りたい」と訴え続ける認知症の方は多くのストレスを感じていますが、実は、対応にあたる介護者の心も疲弊をしてしまう可能性があると私は考えています。

帰宅願望の先にあるものとは…?

Aさん(女性、レビー小体型認知症)は、社交的なふるまいをされる女性で、他の方に自分から話しかけられることも多く、ニコニコとした表情が印象的な方です。しかし、突然、表情を硬くし、「中学生の子どもが待っているから帰らなきゃ」という帰宅願望が時折見られていました。

スタッフの声かけに、硬い表情のときもあれば興奮気味でやや怒っている様子を見せることもありました。ときには、スタッフがご家族に連絡したりといった対応をしていました。その案内で納得をするときもあれば、納得しないときもあります。その都度、ケアスタッフだけでなく事務所のスタッフ、リハビリスタッフ、看護師など様々なスタッフが交互に対応していました。

そんな日々を繰り返しているとき、「中学生の子どもがいるから」という妄想による帰宅願望からの変化が見え始めました。徐々にご自身が過ごしている生活の場である施設が自身の職場になっていき、「お給料をくれないから、ここを出て行きます」という妄想に変化していったのです。Aさん手伝ってもらっていたおしぼりたたみや洗い物が、ご自身の過去の生活環境と一致したようなのです。

「お給料をもらえない」という妄想に変わってからのAさんは怒りっぽくなっており、スタッフに対しても納得がいかない様子をみせています。それもそのはずです。スタッフは、Aさんからみれば上司であり、同僚なのですから。

ケアカンファレンスの中で、「ここはリハビリ施設であること」「お手伝いをしていただいているのは、リハビリの一環であるため、お給料はでないこと」を都度説明することになりましたが、Aさんはその説明に全く納得する様子はありません。そして、繰り返される「お給料問題」と「帰宅願望」に、ケアスタッフの心は疲れ果ててしまいました。

音楽療法での関わり

もともとAさんは、集団音楽療法の中では積極的にリードしてくださる方でした。集中して参加することで、帰宅願望や不安定な気持ちの消失などの変化につながっていたため、同じフロアであれば、別グループの活動に参加しても良いとしていました。看護師やケアスタッフがAさんの様子を見て、別グループの活動中に連れてくることもしばしばみられていました。

そんな中、「お給料をくれない」という妄想が始まったころから、個別で音楽療法の実践を行うことになりました。社交的なふるまいをされていたAさんですが、どことなく表情が硬く、抑圧されているような印象を受けていました。

Aさんの求めていたことは…

幸い、音楽療法の活動中は明るい笑顔を見せ、活気のある姿を見ることができました。個別の活動の目標は〝活気のあるAさん〟でいられる時間を長く持つことと設定いたしました。はじめは戦争や子供時代の回想などでしたが、徐々に即興的な活動が増えていき、その活動を通してAさんは、ご自身の思いを表出し始めました。

「あなたと友達でいて良かったよ」
「ここをやめたい。でも家に帰ってもひとりぼっちなんだ」
「あなたのそばにいるのが好き」
「(お給料をもらえない妄想について)こんな暗い話は、やめよう!」
「歌ってると気持ちがすっきりするんだから」
「あなたといると心の傷が縫われたような気がするよ」

AさんのBPSDは、「お給料がでないこと」や「家に帰れないこと」への不安ではなく、「自身の居場所」を探していたからではないでしょうか?認知症の方は、ご自身の思いや伝えたいこと、不安に思っていることをうまく言葉にすることができません。その不安な気持ちがBPSDにつながっているとも考えられています。

さいごに

施設で認知症介護をしている職員は、今までの経験や憶測でBPSDに対応しています。私たち、介護職員も人間ですから目の前の訴えを納めることや、落ち着かせることに夢中になってしまうと、その言葉の陰にある大切なことに気がつかない可能性があります。

そして、妄想や帰宅願望といった強い攻撃性を持つ訴えに、介護者自身の気持ちが飲み込まれてしまうこともあります。今回の経験を通して、相手の世界を受け入れるためには、相手のすべてを受け入れ、寄り添うことが必要だと感じました。

関連記事:夕暮れ症候群、帰宅願望はなぜ起こる?原因と対応まとめ

この記事を書いた人

小森亜希子

大学、大学院と音楽療法について学んだ後、認知症対応型グループホームに勤務。認知症の方とのコミュニケーションの取り方や終末期について多くのことを学び、音楽が様々な記憶と結びついていること、気持ちを落ち着かせるために有効であることを実感。認知症介護実践者研修、認知症介護実践者リーダー研修を終了。現在、介護老人保健施設で介護業務に携わりながら、音楽療法の効果をケアに結びつける具体的な手段を模索中。同居しているアルツハイマー型認知症の祖母(96歳)と出かけることが日課。【保有資格】日本音楽療法学会認定音楽療法士、介護福祉士

カテゴリー : 生活・趣味 タグ :
認知症ONLINEの記事一覧をみる ▶
  • 誤字を発見した方はこちらからご連絡ください。
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちらから
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。