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再現されたデータの断片、ファイルの向こうに立ちあがる大きな謎

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再現されたデータの断片、ファイルの向こうに立ちあがる大きな謎

 小説の翻訳なのに横組み、そしてこの厚さ(四センチ近い!)。パラパラとめくると、図版あり、天体写真あり、黒字に白ヌキのページあり、タイポグラフィあり、文章の形式も日記、チャットの記録、組織内のメール、閲覧制限の印が捺されたドキュメント、なにかの機器のパネル……と、じつに雑多だ。なかには延々七ページにわたって死亡者のリストがつづいている箇所もある。それにつづくのが、その死亡者の顔写真の一覧だ。

 小説としては破格だが、そのタイトルのとおり、これはひとつの「ファイル」である。読者はそのファイルを通して、ひとつの大きな物語を再構成していく。

 冒頭に「イルミナエ・グループ」と署名のある送り状が掲げられている。宛名はプロビッシャー専務となっているが、もちろんこの時点ではどんな人物かは明らかにされない。ただ送り状の内容から、このファイルはゲレンザという惑星の惨劇にかかわる情報をまとめたものであり、さまざまなソースに埋もれていたテキストデータ、音声データ、映像データから書きおこされたことがうかがえる。データの多くは破損していたが、できるかぎりの修復をほどこしてある。

 時系列に並べられているものの、生のデータだけに、できごとを記述する視点も異なり、すべてが真実とはかぎらない。憶測や誤解、虚言や隠蔽もあるだろう。自動記録された映像データにしても、映っているものの解釈は、いかなるコンテクストに置くかによって変わってくる。

 ──そうやって紹介すると、非常に複雑な小説に思われるかもしれないが、読者がファイルから掬いとる物語はむしろ単純なものだ。視点がつぎつぎ移りかわり、叙述に(意図的に)ノイズがまじっているものの、ほぼ一本道をたどっていける。

 惑星ゲレンザは、恒星間にまたがる企業抗争のあおりを受け、軍事的侵攻にみまわれた。あわや全滅というところだったが、何千人かの住民が三隻の宇宙船によって脱出。戦闘艦アレグザンダー、科学調査艦ハイペイシャ、補給艦コペルニクスである。

 最寄りのジャンプステーションまでは半年の行程だが、無事に行きつく公算は低い。最大の危険は、敵戦艦による追撃だ。相手のほうがスピードに優り、このままでは確実に追いつかれてしまう。いっぽう、船内にも大きな不安の種があった。新種のウイルスによる伝染病が発生したのだ。治療の手だてはない。凶暴化した罹患者が健常者を襲う事態まで起こっている。さらに悪いことに、宇宙船を管理している人工知能AIDANに不具合が生じる。

 AIDANに組みこまれた至上目的は、できるだけ多くの住民を生き延びさせることだ。そのためには少数の犠牲は厭わない。そして、人工知能は躊躇をしない。コペルニクスがウイルス禍に冒されたとき、AIDANはその破壊をアレグザンダーに乗り組んでいた兵士に命ずる。また、AIDANは「自分が停止してしまえば人間はひとりも救えない。ゆえに最優先すべきは自分の生存(?)である」と判断する。

 生き延びるのに必死な多くのひとたちは、AIDANの脅威に気づかない。しかし、疑問を抱くひとにぎりの人間がいた。アレグザンダー搭乗と同時に少尉に任命された青年エズラ・メイスンもそのひとりだ。彼は、ハイペイシャに収容された元恋人ケイディ・グラントとひそかにコンタクトを取り、事態を打開する手だてを講じる。すべての交信は検閲されているが、腕利きのハッカーであるケイディは巧みにすり抜ける。

 物語が進むにつれて、読者はケイディの判断・行動に寄りそうようになる。謎を解きあかすのも、事態を打開するのもすべてケイディだ。いっぽうでエズラとの恋の再燃というロマンスがあり、もういっぽうで狂った人工知能、ウイルス禍、敵の追撃──という危機的状況をくぐり抜けるサスペンスがある。

 そして、彼女を待っていたのは衝撃的な事実だった。AIDANの狂いかたは彼女の予想を超えており、その狂った相手と一時的にでも共闘する決断を余儀なくされるのだ。このあたりを詳しく書くと怒られてしまうが、さらにその先があって、すべての謎が解決したあとに「もっとも大きな謎」が立ちあがる構造になっている。

 なぜ、ひとつの惑星が滅びなければなかったか? その罪を負うべき人物はだれか? それはいかにして贖われるのか? 読みおわるまで息つくこともできない。

(牧眞司)

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