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アメリカの白人労働者たちとエリート層の歩み寄りは可能か? 専門家に聞く

アメリカの白人労働者たちとエリート層の歩み寄りは可能か? 専門家に聞く

2016年11月。アメリカ大統領選挙は波乱を生む結果となった。

ドナルド・トランプ大統領の誕生――知識人やエリートたちはこの事態に慌てた。事前調査では民主党のヒラリー・クリントン候補が優勢と言われていたが、その予測は見事に外れた。

“Make America Great Again”というトランプの掲げたスローガンに動かされたのは、白人労働者(ホワイト・ワーキング・クラス)という人々だ。

『アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々 世界に吹き荒れるポピュリズムを支える”真・中間層”の実体』(ジョーン・C・ウィリアムズ著、山田美明・井上大剛訳、集英社刊)は、アメリカのポピュリズムを支えるホワイト・ワーキング・クラスの実体に迫る一冊。

今回はホワイト・ワーキング・クラスについて、本書で解説文を執筆している慶應義塾大学SFC教授の渡辺靖さんにお話をうかがった。その最終回である。

インタビュー前編はこちら

インタビュー中編はこちら

(取材・文/金井元貴)

■極端に走るリベラルと白人至上主義 メディア報道も一因に?

――ニュースで報じられていたのですが、先のシャーロッツビルのデモ衝突が起きたあとに、ニューヨーク市のシンボルの一つであるコロンバスサークルという円形広場のコロンブス像に対して撤去の議論が持ち上がったそうです。歴史を示す銅像に対してもそのようなことが起こるのかと驚きました。

渡辺:確かにコロンブスは英雄である一方で、侵略者でもありますからね。リベラルなエリート層が中心となり、歴史的なシンボルでも過去の差別や搾取の象徴だからと取り除くことで、社会の意識を高めていく動きがあるわけです。

ただ、ホワイト・ワーキング・クラス(以下、WWC)からはやり過ぎではないかという反発もある。また、必ずしもWWCだけではなく、エリート層の中にも「歴史の負の部分も伝えていくべきだ」と考える人は多いです。

――おっしゃる通り、「歴史を示すものとして残しておくべき」という声もあるそうですが、非常に極端な発想ではないかとも思いました。

渡辺:リベラルもWWCも両者の一部が非常に先鋭化しているんでしょうね。社会全体がリベラルに傾く中で、それに対する反発として白人至上主義が出てきて、その一部は暴力的な手段を通して訴える。さらにそれに対し、リベラルの一部がかなり過激に反応している状況です。

――これは日本でも見られる光景だと思いますが、極端な考え方の声が大きくなりがちです。

渡辺:そうですね。また、主張が極端なほど、イメージとして広がりやすいという部分は有ると思います。実体以上に社会が分断しているように見える部分があるでしょうね。

――それはメディアの報道にも原因がありそうです。この対立構造は世界的なものなのでしょうか?

渡辺:少なくとも先進国では見られます。どの国でもミドルクラスの没落が指摘されていて、anywhere(どこでも)生きていける競争力の高いエリート層と、somewhere(どこか特定の場所で)しか生きていけない競争力の低い没落したミドルクラスの差が大きくなっています。もっといえば、ミドルクラスが細分化されていると言っていいでしょう。

これはイギリスではEUからの離脱という結果で示されました。またフランスでもその傾向があります。自国第一主義、排外主義的で、既存のメディアを信じないという特徴があります。

――渡辺先生が解説で、この本で感銘を受けた点としてあげているのが、リベラルやエリート層とWWCの関係改善に対する処方箋です。

渡辺:白人だけではなく、広くアメリカ社会全体をとらえたときに、経済格差や勝ち組と負け組の断絶があって、それぞれが見えているアメリカ像が全く違うというところがあります。その断絶は非常に深刻なもので、修復を試みないといけないのですが、なかなかそこに対する処方箋を出してくれる本がなかったんです。

本書は、両者の相互理解を進めるためにWWCとエリート層が相互に誤解を解き、歩み寄るというためのいくつかの方法を書いていますから、その意味で重要な示唆を与えてくれていると思いますね。

――でも、そう簡単に歩み寄れるのでしょうか。

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