心揺さぶる、傑作アドベンチャー『OneShot』 唯一無二の結末が貴方を待つ

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筆者が初めて触れたゲームは、おそらく1989年にリリースされたゲームボーイのバットマンだったと思う。それから28年あまり、ゲームの魅力は未だに筆者の心を捉えて離さず、刺激的に、感傷的に、赴くままにゲームプレイを重ね、気付けばその数は1000を有に超えてしまった。

心に深く突き刺さり、生涯忘れられなくなったタイトルも多い。今回紹介する『OneShot』も、まさにその一つだ。

『OneShot』の全てを見届けた時、筆者が今までプレイしてきたどのゲームにも無かった衝撃を受けた。大仰かもしれないが、ゲーム観が変わってしまったかもしれない。それほどだった。

紹介を始める前に一つだけ言っておきたいことがある。もしも貴方がこのゲームに少しでも興味を持っているのなら、どうかこのまま記事を読まずにゲームを手に取っては頂けないだろうか。もちろんプレイヤーのスタイルはそれぞれであるし、お金を払って買う以上、慎重になって情報を集めるのも理解できる。

しかしこの『OneShot』というゲーム、知らなければ知らないほど、得られる体験は無二のものになるのだ。今初めてこのゲームを知ったというのなら、それは幸運といえるし、絶好のチャンスでもある。

貴方のゲーム体験は貴方にしか守れない。どうか大切にして欲しい。
 
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『OneShot』はLittle Cat Feet (Team OneShot)により開発されたパズルアドベンチャー。元はRPGツクール2003製のフリーゲームで、海外のインディーゲームコンテストにおいて受賞を果たしたことにより、現在の形にリメイクされた。Steamでは昨年の12月にリリースされており、現時点で3000件を超えるユーザーレビューは「圧倒的好評」を得ている。

本作はこれまで英語にしか対応していなかったが、本日9月7日、ついに日本語へ対応した。

【祝】本日9月7日、OneShotの日本語をリリースいたしました。
開発チームのNightmarginからは、日本リリースを祝う描き下ろしイラストが到着!大好きなパンケーキでニコもお祝い中です! #OneshotGame https://t.co/xKME0fokx3 pic.twitter.com/DSMMBkuAp9

— DegicaGames (@DegicaGames) 2017年9月7日

作品の性質上、魅力を語ろうとすればするほど核心に迫るネタバレになってしまうので多くは語れないが、その上で可能な限りこの作品の良さを伝えられたらと思う。

なお、筆者が記事を執筆するに当たってプレイしたバージョンは開発段階のものであり、製品版とは一部異なる部分があるかもしれないことをご了承頂きたい。

救世主は太陽を携え、世界の中心を目指す

物語は、薄暗い部屋で「ニコ」が目を覚ますシーンから始まる。暗闇で光る特徴的な黄色く大きな瞳、変わった形の帽子は頭に生えた耳をすっぽりと覆っており、まるで猫のような印象を受ける。表情にはまだあどけなさが残る子供だ。自分がなぜここにいるのか分かっていないが、それは記憶を失っている訳ではなく、目が覚めたら知らない場所にいたということらしい。
 
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プレイヤーはまず最初に、ニコを操作して無人の家を探索することになる。基本としてはマップの気になる場所を調べてアイテムを入手、それらを組み合わせて適切な場所で使用してパズルを解いていく、という脱出ゲームの要領で進行していく。
 
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やがて地下室へ辿り着いたニコは、そこで大きな電球のようなものを見つけることになる。ニコがそれに手を触れると煌々と輝きだし、周囲を照らし始めた。小さな身体で電球を抱え、ニコは無人の家を後にする。
 
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家を出てニコが辿り着いたのは、荒れ果てた大地だった。夜なのか辺りは真っ暗で、使われなくなった線路や朽ちた建物、それに動かなくなったロボットの残骸が点在している。水面にはキラキラと何かが輝いていて、まるで夜空が地上に落ちてきたかのような幻想的な光景が広がっている。

そこで「預言者ボット」と名乗るロボットに出会ったニコは、この世界が置かれている状況を詳しく聞かされることとなる。
 
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世界はかつて太陽の光があまねく照らしていたが、今や太陽は失われ、永遠の夜に閉ざされてしまったこと。

今もこの世界はゆっくりと静かに崩壊していっていること。

残された人々は太陽の代替として生物由来の蛍光物質を利用し生活しているが、それも有限であり、枯渇すれば世界も終わること。

この世界を救うには、かつて太陽が輝いていた世界の中心にそびえる塔を登り、天頂へ新しい太陽を設置しなければいけないこと。

その使命を帯びて別世界から遣わされた救世主がニコであり、あの家の地下で見つけた電球こそが新しい太陽なのだ、と。
 
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こうして世界に光を取り戻すという途方もなく大きな使命を突然与えられたニコ。太陽を復活させればニコも元の世界へ帰れるかもしれないと聞き、その自覚も自信もないまま塔を目指すことになる。

プレイヤーはそんなニコを支え、導いていかなければならない。実際、この時プレイヤーとニコの関係にもある変化が起こる。文字通りプレイヤーは自らの役割を知ることになるだろう。

ここまで綴ってきたのは『OneShot』の導入部にあたるが、取り立てて特徴のない普通のアドベンチャーゲームの印象が強いと思う。しかし筆者があえて避けただけで、これまでの時点で既に本作ならではと言えるギミックがいくつか盛り込まれている。おそらく今までどんなゲームでも味わったことのない衝撃の一旦は、自分の目で確かめて貰うしかない。

魅力的なキャラクターたち、そしてニコの愛くるしさ…!

『OneShot』に登場するキャラクターたちはどれも魅力的だ。太陽は失せ崩壊していく世界においても、多くの者は諦めることなく逞しく生きている。物語の構成上、接する機会はそれほど長くないが、その台詞の一つ一つから確かにこの世界で生きている彼らの息吹を感じ取ることができるだろう。この項では各エリアの簡単な解説と、そこで出会うことになるキャラクターたちを少しだけ紹介したいと思う。

世界は3つのエリアに別れていて、ニコが最初に降り立ったのは「不毛の地」と呼ばれる最も外側に位置するエリアとなる。不毛と呼ばれるだけあって、大地は荒れ果て、施設は遺棄され、各地で有毒ガスが発生している。事実、既に人間は誰一人残っておらず、取り残されたロボットたちがただプログラムに従い職務を全うし続けている。
 
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ニコが最初に出会うことになる「預言者ボット」。かつて存在した預言者の預言を伝える為だけに作られた。
 
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他のロボットとは明らかに違う雰囲気の「シルバー」。滅んでいく世界に対してドライなスタンス。
 
「不毛の地」から海を越えて辿り着く「峡谷」。巨大な浮島のような地形になっていて、一帯を蛍が飛び交う。鳥のような外見をした人々が住んでおり、魚を捕るなどして自給自足の生活をしているが、ここでも崩壊の兆しは現れている。
 
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はぐれた妹を探す「カラムス」。救世主の存在は子供にまで認知されているようだ。
 
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遺跡の地下で出会う「メイズ」。自分はもう手遅れで、最後に太陽を感じたいとニコに望みを告げるが…。
 
「峡谷」からゲートを通り辿り着くのが、最後のエリアである「避難所」。多くの人間は崩壊から逃れる為にこの場所へと避難している。ニコが救世主として太陽を届けなければならない塔はこのエリアの中心にそびえている。
 
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避難所各地の街灯を灯す仕事をしている「点灯屋」。仕事に一途で、エレベーターが起動せず困っている所でニコと出会う。
 
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正六面体な顔立ちの「ジョージ」。噂によると今見ているのは彼女の側面の一つに過ぎないという。 
 
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特にイベントがあるわけでもなく名前も未詳のモブキャラ、時計さん。筆者のお気に入り。
 
キャラクターの中でも飛び抜けた魅力を持っているのが、そうニコである。
ニコの可愛さといったら、全くとんでもない。ゲームキャラクターをこれだけ愛おしく思えるケースもそうそうないのではないかというくらいだ。

猫のような外見に加え、手が隠れてしまうほど長い袖に背丈ほどありそうなマフラーというゆったりコーデにも程が有るだろうと言わんばかりの身なりが相乗効果を生み出し、その佇まいはもはや可愛さの最終進化形と表現しても過言ではないだろう。

外見だけではない。素直であり、賢く、優しい心を持っていて、何にでも感動する純粋さとコロコロ変わる表情は見ていて思わず口元が緩んでしまう。一緒に行動していると「この子だけは自分が守ってやらなくてはいけない」と自然と決意させてくれる。一人称である「ミー」にも相当やられた。ああいや、安心して欲しい。筆者の頭がおかしくなった訳ではない。実際にニコと長いあいだ交流しているとこうなってしまうのだ。
 
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小さな身体で大きな電球を抱え必死に走る姿はもうすでに可愛い。
 
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初めて見るものには何にでも感動する豊かな感受性。純粋すぎて眩しすぎる。太陽だ。
 
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大好きなパンケーキを食べるニコ。もちろん施しを与えてくれた人への感謝の気持ちも忘れない。
 
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夢の中で故郷の小麦畑に佇むニコ。一刻も早く母親の待つ家へ帰してあげたい。
 
既にこれらの画像だけを見てニコの魅力に気付いてしまったのなら、断言してもいい、ゲームプレイを通して、ニコは貴方のかけがえのない存在へと昇華するだろう。
プレイヤーがニコに対して抱く愛情は、この作品のゲームデザインの要ともいえる。だからニコの可愛さに悶絶することは極上のゲーム体験を得るためにも必要不可欠なことなのだ。

没入感を高める良質な日本語翻訳

日本語翻訳にも言及したい。
本作はその評価の高さからクチコミで広がり存在が知れ渡ったが、言語は英語のみだった。しかし、その頃から既に日本のファンのリアクションは目立ち、熱心なレビューや実況動画も投稿されていた。いわばファンの熱意と愛情が此度のローカライズを引き寄せたと言っても過言ではない。

筆者は英語版を未プレイだが、日本語訳は違和感もなくとても良くできていると感じた。

例えばニコの一人称に取っても抜かりはない。言わずもがな英語版では”I”と”Me”であり、本来なら「ぼく」や「わたし」などがあてられるところだが、日本語版ではあえて「ミー」とされていた。ニコの性別に関してはゲーム内でも触れられておらず、おそらくそれは開発者の意図としてプレイヤーに委ねられた領域なのだ。だからこそその意図を尊重して「ミー」としたのだと筆者は受け取った。

またゲーム内で閲覧できる本の内容もフォント選びの段階で丁寧な仕事をしており、キャラクターの台詞の言い回しについても随所で「キャラクターを活かす翻訳」を心掛けているのが見て取れた。そこにローカライズスタッフがこのゲームを日本のユーザーの元へ届けようとする気概を感じた。
 
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ゲーム内で閲覧できる本の一つ。オリジナルの雰囲気を損ねないよう選び抜いたフォントを使い分けている。
 
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英語版ではこの羊飼いの台詞は「Good luck」となるが、一癖あるキャラクター性を出すため当意即妙な翻訳となっている。

「OneShot(一度きり)」の体験

『OneShot』というゲームは、その魅力を伝えることが非常に困難なタイトルであるのは間違いない。それは驚きに満ちた数々のギミックゆえである。心を揺さぶられるストーリーゆえである。ひとたび当事者となってしまえば、自分が味わったものと同等の感銘を受けて欲しいという欲求が口をつぐませてしまう。それは結局のところ御節介なのかもしれないが、最終的に判断するのは貴方だ。

最後にプレイ環境に関するアドバイスを。
本作をプレイする際はある程度まとまった時間を確保するといい。
あとこれはゲーム内ヘルプでも触れられるが、画面はフルスクリーンではなくウィンドウモードでプレイするのが好ましいだろう。

また、本作は3月20日に「Solstice」と称されるアップデートが実行された。それはこのゲームにとって大きな意味を持つアップデートで、ゲーム内でリアルタイムにカウントダウンされていたほどだ。

Solsticeにより拓かれた新たな可能性こそ、『OneShot』の真髄と言える。貴方とニコが出会い、共に歩んだ結末はその先にある。見届けて欲しい。そして、今までにない衝撃を受けて頂きたい。

筆者が語れるのはここまでだ。それでは。どうか良い体験を。

[基本情報]
タイトル:『OneShot』
ジャンル:アドベンチャー
製作者:Little Cat Feet
クリア時間:一応の終わりまで約5時間
対応OS:Windows Vista or later
価格:980円

購入はこちらから

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