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「SNSは関係を終わらせてくれない」。そこから生まれた話題の小説について聞く

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「SNSは関係を終わらせてくれない」。そこから生まれた話題の小説について聞く

出版業界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』。

第92回目となる今回は、話題の小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社刊)でデビューした燃え殻さんです。

「1999年夏、地球が滅亡しなければボクたちは一緒に生きていくはずだった」

まだスマホがなかった頃の、「ボク」と小沢健二フリークの「かおり」の、文通から始まった不器用な恋愛模様。そしてSNSがつないだ現在と過去。

90年代後半のカルチャーを散りばめながら、大人になりきれない若者たちが必死に生きる姿と描いたこの青春小説は、ウェブメディア「Cakes」連載時から大きな反響を呼び、満を持して書籍化されました。

作者の燃え殻さんは、普段はテレビ番組の美術制作に携わるサラリーマン。

少し前まで「一般人」だった作者は、初めての著書にして自伝ともいえる本作がヒットした今、何を思っているのでしょうか。『ボクたちはみんな大人になれなかった』についてお話をうかがいました。その中編です。

「ベストセラーズインタビュー」一覧はこちらから

(インタビュー・写真/金井元貴)

■関係を終わらせてくれないSNSは人を不幸にする!?

――主人公の「ボク」の気持ちに共感する男性はかなり多いと思います。私もその一人です。自分のことが書かれているのではないかと感じました。

燃え殻:私事に引きつけられないと読んでもらえないように思ったんです。僕は学生の頃から中島らもさんや大槻ケンヂさんの本が好きだったのですが、それらの作品の中には「あ、これ俺のことだ!」とか「俺の代わりにこの人が言ってくれている」っていう体験が必ずあったんです。だから、この本を読んだ人にも、そういう経験をしてもらいたいという気持ちがありました。

――プロモーション動画の冒頭にあった「昔好きだった人をSNSで見つけてしまったことはありますか?」というキャッチコピーはえぐられました…。

燃え殻:これ、ありますよね?

――あります。まさにフェイスブックの「友達」候補に出てきたり。

燃え殻:「友達になる」ボタンを押したら大変なことになる、みたいな。まさに事件ですよね(笑)。でも今さら見なかったことにもできない。心臓に悪いので、良くないと思うんですよ。

――でも、この物語はそこが起点ですよね。

燃え殻:そうですけどね。友達候補として出てきたらやっぱり見たくなっちゃうじゃないですか。それで覗いてみるんですけど、不幸せになるだけですよ(笑)。

――昔好きだった女の子はもう結婚していて、子育ての様子をずっとアップしている、みたいな。

燃え殻:一方で自分は…というと、地獄ですよね。それと同時にセンチメンタルな気持ちも生まれて。

――そう考えると、SNSは不思議な媒体です。決して交わることのなかった2人の人生を再び交差させるわけですから、なんだか物語性があります。

燃え殻:関係を終わらせてくれないですよね。本当はだんだんと離れていって「そういえばあんな人もいたな」と、それでいいはずなんです。でも、しばらく顔を合わせていないのに「いいね」を押し合うし、「誕生日おめでとう」と言い合う。それが毎年ずっと続いていくというのは奇妙な感じがします。

最近、フェイスブックで「○年前これをしていました」という投稿が出るじゃないですか。でも、「思い出させないでくれよ」というエントリも結構あって、ずっと過去に縛られて関係を終わらせてくれない感じがしますね。

――そこに物語が生まれたのが、この小説だったのでは。

燃え殻:まさしくそうでしょうね。それが幸せなのか不幸なのかは分からないですが…。

――関係の再構築という意味では、燃え殻さんのような40代前後の方々がかなり共感されているように思いますが、若い読者はこの小説をどのように受け止めているのでしょうか?

燃え殻:実は僕らとあまり変わらないようです。「Cakes」連載時に、高校生の女の子から「私はリアルタイムではないけれど、懐かしさを感じました」という感想をいただいて、嬉しかったです。

僕がまだ若い頃、大槻ケンヂさんの著書を読んだ時に、ケンヂさんの若いときの恋愛エピソードを見て「これ、わかる!」って思ったことがあったんです。その時はまだ女性と付き合ったことがなかったんですが、「わかる!」と(笑)。

おそらくこの本を読んでくれた若い方々も、リアルタイムではないかもしれないけれど、感性や気持ちの部分で重なるところがあるのだと思います。

――起きている事象は違うけれど、感情は重なる。

燃え殻:物語を90年代に固めて、そこにあった出来事や固有名詞を散りばめているので、当時を知らない人にとっては全く関係ないことばかりなんです。六本木ヴェルファーレなんかは知らない若者も多いと思います。

でも、「ヴェルファーレは知らないけれど今でいうならここだよね」とか「事象は違うけれどこういうシチュエーションなら同じこと言うよね」とか、そういう形でリアルに感じてくれているように思いますね。

――主人公の「ボク」というキャラクターについてお話をうかがいたいです。彼はテレビ業界の美術の仕事ではサクセスストーリーを歩んでいるように見えますが、その世界にどっぷり浸かれない鬱屈したものを抱えていますよね。盛り上がっているものを追いかけられないというか。

燃え殻:そうですね。この物語が共感されるのは、多分そういう感情を今でもたくさんの人が抱えているからだと思うんです。

当時は裏原系とかが流行っていて、先端みたいな扱いをされていたけれど、そういうブームを横目で見ながら乗りきれていない自分がいるわけです。それは、今でいうならインスタに料理やおしゃれな写真をどんどんアップしていくような人たちを見て、「やってみよう」と思って手を出すけれど、やっぱり乗れない。でもちょっとまたトライしてみて…そういうサイクルと変わらないように思います。

また、今流行っているものが本当に良いものかどうかは分からない。けれどそういう空気感があるから「良い」って言ってしまうことってありますよね。

この小説にも書いたけれど、当時小沢健二は良いよねという空気感あって、実際は本当に良いかわからないけれど、なんとなく背伸びして「良いね!」って言っていた。だからこそ今、小沢健二を聞くと、懐かしさや感傷に浸れるのだと思うし、それは「良いね」と言いながらも「でも、本当にいいのかな」って真剣に思っていたからじゃないかと思うんです。

――本作には90年代のキーワードとなる固有名詞が散りばめられていますが、主人公が若いからこその「消化できない感」が伴っているように思います。固有名詞を散りばめたのは意識的なものですか?

燃え殻:これは意識的にしています。当時の匂いやカルチャーの輪郭をはっきりさせることでリアルさを上げて、「ああ、俺もあそこにいたよ」という感じを出したいと思っていました。

――もう一つお聞きしたいのが、主人公から見た女性キャラクターです。恋人のかおりは作中を通してどんな人なのか輪郭がぼんやりしているのですが、途中で出てくるスーという女性は輪郭がはっきりしていました。おそらく主人公とかなり近い感覚を持っているからなのだと思いますが、かおりよりもスーを通して主人公の姿が見えたように思いました。

燃え殻:書籍版の担当編集者は女性なのですが、かおりがどういう人間なのか見えないということは、彼女にも言われました。ただ、主人公はなぜ自分が彼女のことが好きだったのか全く把握できていなくて、だからこそ思い出として消化できていない部分があるんです。だから、彼女が何を考えていたのか書き加える議論もあったのですが、分からないままにしようという話もしました。

(後編は9月9日配信予定)

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