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大幅にアップデートされたヴィンテージ・ワインのような声の響き。テイク6が紡ぎ出す極上のヴォーカル・ハーモニーに身体を委ねる晩夏の宵

エンタメ
大幅にアップデートされたヴィンテージ・ワインのような声の響き。テイク6が紡ぎ出す極上のヴォーカル・ハーモニーに身体を委ねる晩夏の宵

 限りなく麗しい、飛び切りのア・カペラ・コーラス――。

 すでに何度目の来日になるのだろう?
 1980年の結成以来、ヴォーカル・ハーモニーの頂点に君臨する黒人グループのテイク6が、満を持して『ビルボードライブ東京』のステージに再登場した。アルバムは88年のデビュー盤から12枚を数え、オリジナルのナンバーはもちろん、幅広いジャンルのカヴァー曲も、ゴスペルをルーツとしたソウルフルなヴォーカル・ワークで“彼ら流”の色に染め上げてしまう。グラミーを何度も受賞し、その歌いまわしの鮮やかさと懐の深さは、他の追従を許さない。爽やかでありながら、ディープなフィーリングも宿した声の響きは、今夜も僕たちの身体に染み込んでいき、理屈抜きでハッピーな気分にさせてくれた。

 意外にも強烈なヒップホップ・ビートに導かれ、ラップしながら登場した6人。デニムにスニーカーというカジュアルな出で立ちで、ストリート感覚のコール&レスポンスをたっぷり仕掛けてくる。タフな躍動感を発散しながらも、色彩感豊かなコーラスとコクのあるリードが絶妙に絡み合いながら会場に染み渡っていく。その親近感溢れる佇まい。僕たちは次第に、至福な空気に包まれていった。

 彼らの心臓の鼓動がそのままヴァイブになったような、心地好いグルーヴ感が聴き手の身体を揺らし、観客は彼らの息遣いに釘付けになる。文字通り距離が近い。まるでネロリが誘う覚醒やオールド・ローズが導いてくれるくつろぎ――ふと気が付くと、そんなアロマティックな解放感に酔い痴れてしまっている。“甘く危険な現実逃避”と表現しても過言ではないほど、声の美しさに浸り、耽る時間が過ぎていく。

 ときにはコミカルに、そして別の瞬間にはジェントルな振る舞いの中に野生の薫りを漂わせる彼らのパフォーマンスは、ストリートコーナー・シンフォニーの時代から受け継がれてきた黒人音楽のレガシーを正統に継承しながらも、21世紀だからこその洗練されたスタイルにアップデートされている。特に、今回は曲ごとにリードが替わり、一糸乱れぬハーモニーだけでなく、各メンバーの個性を際立たせた演出が盛り込まれているのも楽しい。そして、ふくよかなエコー。ゴスペルやブルーズ、R&Bやジャズといったブラック・ミュージックの奥深さを再認識した。

 2010年代のポップなメロディも、スタンダード・ジャズの器楽的な響きも、ニューソウルのスピリチュアルな歌も、ヒップホップ・ソウルのビート感も、もうすぐ40年に達する長いキャリアの中で培ったスキルで、スマートにこなしてしまう。そのレンジの広さといったら! テイク6の歌声は、まるでボルドーのヴィンテージ・ワインのように滑らかな肌ざわりを持つように深くなってきた。時を溶かし込み、じっくりと熟成を重ねてきた彼らのヴォーカル・ハーモニーが、市井の人々の喜怒哀楽を麗しく表現していく。その歌は聴き手の日常に心地好いアクセントをつけてくれる。例えば、それはコーヒーメーカーから漂ってくる香りに意識が覚醒していく朝にも、1日をぼんやりと振り返るベッドルームでのリラックスした夜にも――。彼らの歌はさまざまなシーンを温もりあるものにしてくれる“日々のサウンドトラック”なのだ。

 プログラムが進行していくに従い、彼らの声にも“熱気”が滲んでくる。それに呼応するかのように観客の反応もシャープになり、多くの人が手を叩き、足を鳴らしてリズムを重ね合わせている。テイク6のヴォーカル・ハーモニーは、いつだってオープンに我々を温かく迎え入れてくれる。まるで、多感な日々を過ごしたホームタウンのように――。

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