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【映画を待つ間に読んだ、映画の本】第45回『シネコン映画至上主義 -メルマ旬報の映画評555−』〜製作・配給・興行関係者は、恭しく拝読しなければならない本。

● ふつーの人が、お金を払って見た映画について書いた本。

 柴尾英令さんとは「メルマ旬報」で、映画のことを書いている者同士だ。会えば映画のことを話すし、映画館についても色々と意見交換をしたりする。その柴尾さんが、「メルマ旬報」の連載「シネコン至上主義!」(現在では「シネコン”最速批評”至上主義 ~現在上映中~」)に掲載された映画評555本をまとめた1冊の本を上梓した。これは快挙だ。なぜなら柴尾さんはプロの映画評論家でもなければ、映画の製作・配給・興行に絡んでいる人でもない。つまり「仕事の都合で映画を見る」立場ではなく、あくまで本業の傍ら、自分でお金を払ってシネコンで映画を見る。つまりはふつーの人が、ふつーの観客としてのスタンスで書いたことの蓄積が、この電話帳みたいに分厚い本になったのである。

●タイトルについて、ちょっと思うこと。

 ただ、ちょっと気になることがある。それは本書のタイトルが「シネコン映画至上主義」と、連載時から変更されたことだ。

 あの、「シネコン映画」ってどんな映画を指すのでしょうか? 少なくとも本書の中で、柴尾さんはシネコンで見た映画だけを扱っていて、ミニシアターや名画座は登場しないし、自宅でパッケージ・メディアや配信で見た映画は、対象外とすることを言明している。別にいちいち「シネコン映画」とする必要はないんじゃないだろうか。これだったら「シネコン至上主義」のほうが分かりやすい。というのは、これまで世に出た多くの映画評が「試写室至上主義」的スタンスに基づいているから、「すべてシネコンで、自分のお金で見た映画」について書いた本だということをどどーんと出したほうが、インパクトがあると思うのだ。

 蛇足ながら説明しておこう。多くの読者は、1冊の書籍はタイトルや内容、装丁や価格に至るまで、すべて著者の意向が反映されていると思っているようだが、それは違う。全然違う。我々書き手にあるのは著作権だけで、つまり書籍の内容である文章については、著者の了解を経なくては変更することは出来ない。ただしカバーや表紙をどういうレイアウトにするか。あるいはタイトルをどうするかは、著作物を商品化する権利を著者と契約した出版社が決定する。もちろんそのプロセスで、著者の意向や希望を聞き入れてくれることもあるが、そうでない場合もある。かくいう筆者はかつて、9割がた執筆し終えた書籍について「タイトルを変更する」と迫られ、反対したら「我々は出版のプロである。我々の言うとおりにすれば売れる。もし反対であれば、企画練り直しとして刊行を中止する」とまで言われ、やむなく出版社サイドの支持するタイトルを受け入れたのだが、さっぱり売れなかった経験を持つ。その上「売れないので絶版にする。余っている在庫は3割引で売ってやるから、欲しければ連絡してこい」との通知が届き、その封書を怒り狂ってビリビリに破いたことがある。

 著者が長い時間をかけて必死になって考えたタイトルであっても、編集者が「これって分かりづらいっすねえ。変えましょう」と、その場の思いつきだけで、いとも簡単に変更されることも珍しくない。柴尾さんの本が、そういうプロセスで改題されたかどうかは分からないけど、やっぱり「シネコン映画」という言葉には違和感しか感じないなあ。

●この人の頭の中には、インスピレーション即時言語化ソフトが入っているのか?

 さて本書の内容についてだが、これはもうシンプル。柴尾さんが日々の生活の中で、自分の時間と入場料金を投じてシネコンで見た映画に関する批評なのだが、こうして書籍になって大量の作品評を読み続けても、不思議と疲れない。自分も見ている映画について「ああ、そういう風に捉えたのか」「いや、それはちょっと違うと思うけど・・」「さすが!! 分かってるなあ!!」と、様々な感想が頭に浮かぶのは、著者が的確な言語選択で読みやすい文章を紡いでいるからだ。

 それにしても、この人の脳味噌の中には、映画を見て感じたことを、即時に言語化・・それも第三者が読んで分かりやす文章に出来るようにする・・ソフトか何かが組み込まれているのだろうか。そう思ったのは、2つの『スター・ウォーズ』についての評を読んだ時だ。本書の335ページから8ページ強に渡って展開される『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』にまつわる思いと批評。そして484ページから約9ページに渡って繰り広げられる『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』についての長い記述、作品論。筆者と同じく”最初の『スター・ウォーズ』”を学生時代に映画館で見たジェネレーションの、特別な思いをベースにしながらも、作品の特徴を巧みに捉えて適切な言葉に翻訳し、決して独りよがりにならずに伝える姿勢は素晴らしい。

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