サラリーマンから漫画家へ、後押ししたのは一冊の漫画——アノヒトの読書遍歴:かっぴーさん(後編)

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サラリーマンから漫画家へ、後押ししたのは一冊の漫画——アノヒトの読書遍歴:かっぴーさん(後編)

かつて広告代理店に勤めるサラリーマンだった、漫画家のかっぴーさん。現在連載中の漫画「左ききのエレン」は、以前読んだビジネス書から影響を受けたといい、多くの大人の心に響く内容で高く評価されている作品です。今回は、そんなかっぴーさんが会社員から漫画家になるきっかけとなった一冊に加え、彼が魅了され現在も尊敬する謎多きアーティストの一冊をご紹介します。

——サラリーマンから漫画家に転身されましたが、どんなきっかけがありましたか?
「僕はもともと、広告会社に勤めていたんですけど、ちょうどいろいろと思うところがありまして…。実はその頃に教えてもらったWEB漫画があるんですが、それが矢島光さんの『彼女のいる彼氏』という恋愛漫画。僕が漫画家になってみようと思ったときに出会った作品です。作者の矢島さんは、広告代理店に勤めていたにも関わらず、漫画家になるぞって会社を辞めて漫画を描き始めたんですが、その経歴も自分に似ていたんで影響も受けたし憧れました。矢島さんはサイバーエージェントの元社員さんなんですが、漫画の舞台は『サイダーエイジジャパン』。なので、サイバーエージェントの話なんだってわかります。矢島さんは、漫画家をやりたくて会社を辞めたんですけど、この漫画の2巻ではサイバーエージェントの藤田社長と対談しています。前職の会社とも良い関係でいて、そこを漫画で発信するのは夢があります。会社を辞めることって悪いことじゃないなって思わせてくれました」

——この作品の魅力をぜひ教えてください!
「実際に働いていた会社の事がすごく上手く描かれているところですね。会社の本質的な良さを、きちんと漫画で作り上げています。象徴的だったのは、社会的に与える印象として、サイバーエージェントって会社には美人やキラキラ社員が多いとかチャラいっていうイメージがある一方で、漫画では実際社員が見えないところでキラキラい続けるために努力していることや彼女たちのバックボーンという、外からは見えない部分が描かれています」

——なるほど。この作品は恋愛漫画ということですが、どんな風に恋愛模様が描かれていますか?
「これは大人の恋愛漫画なんです。ちなみに僕は意外と恋愛漫画を読むんですけど、さすがに30歳の男なんで、あんまり若者向けの胸キュンとか目がキラキラとかいうのは読めなくて(笑)。話を戻すと、『彼女のいる彼氏』っていうタイトル自体がすごく意味深じゃないですか。これはつまり、すでに彼女のいる彼氏ということで2番目の女なんですよね。彼には本命がいると知っていても関係を持ってしまうというのは…辛いですよね。大人だから読める、一歩踏み込んだリアルな恋愛漫画なんです。こういうリアルな恋愛を描くうえで、舞台設定として実際に自分がいた会社をモデルにしているという点が、漫画の登場人物が実在するような気がして、一層ハラハラ感を強調させてくれていると思います。これは今僕が読んだ部分までは『彼女のいる彼氏』っていうタイトルが一番強調されるようなすごい展開になっていて、ツイッターでは見ている人が阿鼻叫喚。みんな悲鳴をあげながら読んでいる、ものすごいパワーのある作品だと思います」

——かっぴーさんも自身の経験や実在の人物を漫画に活かすことはあるんでしょうか?
「そうですね、強いて言えば…実は連載中の『左ききのエレン』には、実在する謎の覆面グラフィティアーティストが登場しているんです。『バンクシー』というグラフィティアーティストで、僕は高校生の頃に知ったんです。その頃、アート好きの先輩が『お前バンクシー知ってるか?』って言ってきて興味を持ったんですが、彼がちょうど世界的に有名になったタイミングだったと思います。彼の名前を知っている人もたくさんいるでしょうけど、バンクシーってずっと覆面アーティストなんですよ。分かるのは性別がたぶん男だろうってことくらいで、正体は誰にもわからない。それが有名になった2004年くらいからずっと謎のまま。そんな謎の覆面アーティストが、世界的に有名で、かつ作品ごとにメッセージが強くて、定期的にメディアに声明を出すというところがすごく魅力的なんです。そんな彼自身が物語の主人公みたいだなって思いましたね」

——彼の作品からも強い影響を受けましたか?
「彼の作品は視覚的にもかっこよくて魅力的で、この作品にはどういう意味があるんだろうって知りたくなるような作品ばかりなんです。彼はグラフィティアーティストを一番有名にした人物といっても過言ではないと思います。そんな彼の作品集で『バンクシーウォールアンドピース』(BANKSY Wall and Piece)という作品集があるんです。この本の何が良いかっていうと、当時バンクシーが出した声明が載っているんです。まず僕が一番好きな彼のエピソードを紹介すると、あの世界的に有名なルーブル美術館に、自分が描いたモナ・リザのパロディ作品を勝手に持ち込んでさらに展示して逃げるっていう、最高にトリッキーなことをしているんです。なぜそんなことをしたのかが彼が出した声明の中に載っていて、一つは『美術館は持ち出されることには警戒していても、持ち込むことにはほとんど警戒していない』というようなことを言っていて、その盲点に気付いたからやってみたという、子どもみたいな無邪気さがあるんですよね。僕はそんなバンクシーにリスペクトを込めて『左ききのエレン』の中で、当時のMoMAを舞台にバンクシーを登場させています」

——かっぴーさん、ありがとうございました!

<プロフィール>
かっぴー/神奈川県出身。漫画家であり株式会社なつやすみ代表取締役社長。高校生でデザイナーを志し武蔵野美術大学でデザインを学ぶ。卒業後はアートディレクター、コピーライター、CMプランナーなどの職につくが、2014年に転職。その際、自己紹介のつもりで日頃思っていることを漫画で描いて社内向けに公開すると、大ウケし話題となった。翌年2015年には、漫画を見た同僚に背中を押されて描いた漫画「フェイスブックポリス」をWEBサイトで公開し、大きな反響を呼んだ。以降「SNSポリス」を続編とし「おしゃ家ソムリエおしゃ子」「おしゃれキングビート!」「裸の王様VSアパレル店員」などWEBメディアでの多数の連載を手掛ける。2016年には、子どもの頃に憧れた映画の脚本家やテレビ番組の構成作家など、自分が考えた世界を世に広めることを夢見て、株式会社なつやすみを設立。現在は、漫画をはじめ多くのアーティスト、写真家、ビジネスマンなどの執筆するコンテンツを掲載するサイト「cakes」にて、「左ききのエレン」を好評連載中。

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