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オルタナティブSSWを独走するマシュー・スイートの稀代の傑作『ガールフレンド』

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80年代初頭に巻き起こったデジタル革命によって、テクノやシンセポップなどに代表される打ち込みを多用したサウンドが世界の主流になった。機材が進化するまでは文字通りチープな音作りばかりで、60’sや70’sロックを聴いていた者にとってロックは終わったも同然であった。そんな中で世界各地にインディーレーベルが作られるようになり、80年代半ばまでには手作りの人力演奏サウンドが蘇った。もちろん、それらが表舞台に出るまでにはそれから数年の歳月を必要としたが。今回紹介するマシュー・スイートは、そういう環境の中で60’sポップ、70’sシンガーソングライター、80’sインディーロックの要素を兼ね備えたサウンドで、86年に大手のコロンビアレコードから『Inside』でソロデビューする。そして、91年にリリースされた3作目となる本作『ガールフレンド』で彼の才能が開花。90’sにおける屈指の名盤として未だに語り継がれる名盤中の名盤だ。
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80年代に再評価されたザ・バーズのセンス

1964年に結成されたザ・バーズは、フォークソングとロックを融合させたグループとして知られるが、実際には当時のアメリカ西海岸のヒッピームーブメントなどとも絡んで、実に多彩な音楽を作っていた。フォークロックはもちろん、グレイトフル・デッドらと同様のサイケデリックロック、ブルーグラスロックやカントリーロック、インド風のラーガロックなど、彼らが生み出した音楽は70年代にはイーグルス、リンダ・ロンシュタット、ジャクソン・ブラウンらに代表されるウエストコーストロックに引き継がれ、ザ・ローリングストーンズにも大きな影響を与えている。80年代後半に登場したR.E.M、ゴールデン・パロミノス、キャンパー・ヴァン・ベートーベンなど、オルタナティブロックやパワーポップの草分け的存在にもバーズのサウンドがベースとなっていることが少なくない。その後も、90年代から現在に至るまでバーズに影響されたグループやシンガーは数多く、そのあたりを見るとバーズの音楽がいかに時代を先取りしていたかが分かるのだ。
増えすぎたバーズの亜流グループ

80年代中期に続々登場するインディーズロッカーたちは、のちにオルタナティブロックというジャンルで成功することになるのだが、彼らのサウンドは多種多様ではあるものの、暴言かもしれないが、基本的にはパンクロック+ザ・バーズ+レッド・ツェッペリンではないだろうか。その中で全米の大学ラジオネットで知られるCMJ(カレッジ・ミュージック・ジャーナル)でモンスター的な人気を誇っていたのがR.E.Mであり、彼らの初期はバーズの亜流だと言い切れるほど、バーズ的なサウンドであった。
他にもドリーム・シンジケート、グリーン・オン・レッド、ロング・ライダース、アンクル・テュペロ、など、バーズっぽい音作りをするグループは多かったが、どれもコピーに近いもので、徐々に飽きられることになる。90年代に突入する頃に生き残っていたのは、独自の境地を開拓したR.E.Mぐらいではなかったか。
マシュー・スイートのオタク的音楽人生

マシュー・スイートももともとは、インディーズのバズ・オブ・ディライトというグループで活動していた。所属していたツイントーンというレーベルで売れていたのは、これまたバーズっぽいジェイホークスである。バーズに影響されたグループが多い中、バズ・オブ・ディライトはどちらかと言えばニック・ロウやエルヴィス・コステロに影響されたパワーポップで、もちろんバーズにも影響されてはいたが、よりキャッチーなメロディーと人力演奏で勝負するグループであった。
そもそも日本のアニメオタク(ラムちゃん命)であったマシュー・スイートは音楽の趣味もかなりオタクである。それは、2006年にリリースされたバングルズのスザンナ・ホフスとのユニット『アンダー・ザ・カバーズ』(英米の優れた楽曲をカバーするプロジェクト。現在までに3作のアルバムをリリースしている)を聴くとよく分かる。ヒット曲から隠れた名曲まで、彼がどんな音楽に影響されてきたのかが垣間見える趣味の作品となっている。『アンダー・ザ・カバーズ Vol.1』(2006)は60’s、『アンダー・ザ・カバーズ Vol.2』(2009)は70’s、『アンダー・ザ・カバーズ Vol.3』(2013)は80’sと、それぞれ時代別に分かれていて、ザ・ビートルズ、トッド・ラングレン、ザ・フー、ニール・ヤング、ロッド・スチュワートらの大物から、グラム・パーソンズ、リトルフィート、マーシャル・クレンショーなどの渋い面々までを取り上げている。もちろん、全曲ハズレなしの名曲揃いである。
ソロデビュー後

前述したように86年、ソロデビュー作となる『Inside』を大手コロンビアからリリースした。おそらくバズ・オブ・ディライトで認められたのだろう、サウンドは似ていて、彼のメロディーメーカーぶりは分かるものの抜きん出た曲がなく、まったく売れなかった。2作目の『Earth』(1989)は心機一転を図りA&Mからリリースするが、これも売れなかった。ただ、ここでバックに付いたのがリチャード・ヘルやルー・リードのバックを務めた名ギタリストのロバート・クインと元テレヴィジョンのリチャード・ロイドのふたり。これがスイートにとっては大きなターニングポイントとなる。彼らとともにツアーに出ることで、何かを掴んだのだろう。ここから、彼の音楽は一挙に成熟することになる。
本作『ガールフレンド』について

前作から2年後の1991年、本作『ガールフレンド』はリリースされた。ジャケット写真には、現代にも通用する雰囲気を持ったアメリカ女優チューズデイ・ウェルドの10代の頃の小悪魔的ピンナップが使われている。僕はレコード店でこのジャケットを見た時、「このジャケットで内容が悪いわけがない」と思った。昔の音楽ファンなら誰しもが体験した“ジャケ買い”を喚起するかのような彼の仕掛けは、この作品への自信の表れでもあったのだろう。本作を買って帰り、聴いてみると、ロックでは久しぶりの経験であったが、文句なしの出来であった。続けて何回も聴いた…というか、何日も続けてこのアルバムばかりを聴いていた。それだけ素晴らしかった。
アルバムの目玉は何だろう。サウンドはシャープなギターを中心にしたオルタナティブロック。ロバート・クインとリチャード・ロイドの刃物のようなギターワークは確かにサウンドの中心部分を占めるが、70’sのシンガーソングライター的な手作り感と温かみも感じる仕上がりになっている。収録された15曲は全てがスイート渾身の名曲群である。ハードな曲からソフトな曲まで、どれもがまったく新しいスタイルのメロディーであるにもかかわらず、どこか懐かしさのある親しみやすさを感じるのがポイントだ。バーズやブレッドにインスパイアされたと思われる曲もいくつかあり、彼の先人へのリスペクトは非常に真摯である。
本作はチャートでは全米100位どまりで、そう売れたわけでもない。しかし、内容は満点に近い仕上がりで、良い曲を味わいたい人にとっては絶好のアルバムだろう。僕が90年代に入手した作品では、ベストテンに入る充実作であることは間違いない。スイートは同時代のシンガーソングライターとしてはロン・セクスミスと双璧をなす職人的な存在なので、本作を超えるアルバムを制作してほしいと願っているのだが、2017年現在、残念ながらそれはまだ達成されていない。
このアルバムが気に入った人は、ぜひ『アンダー・ザ・カバーズ』シリーズの3作も併せて聴いてみてください。
TEXT:河崎直人
アルバム『Girlfriend』
1991年発表作品
 (okmusic UP's)

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