バー・カウンターでシャーッ……博多町家の長〜いカウンターで夏にうれしいラーメンを食す【福岡】

access_time create folderグルメ
f:id:mesitsu_lb:20170706154235j:plain

博多の総鎮守「櫛田神社」。取材した日はユネスコ無形文化遺産にも登録された博多の夏の風物詩「博多祇園山笠」の開催前で、桟敷席などの準備が進められていた。

他県のみなさん、博多という市はありません

こんにちは、ライターの兵土です。

福岡博多って他県の人にはいまだによく混同されるんですが、念のためにおさらいしておくと、行政区分で言えば、政令指定都市の名前は福岡市。博多は現在福岡市に7つある区の一つで、福岡市博多区。

でも、中世から貿易都市・商人の町として栄えたのは博多で、関ヶ原の戦いでの戦功を認められた黒田長政が父・如水(官兵衛)を伴って1601年に筑前入りし、城とともに造った武士の町が福岡です。地元の人間は市の中央を縦断する那珂川を境にざっくり西側を福岡部、東側を博多部などと呼んだりします。

交通機関で言えば、飛行機に乗れば着くのは福岡空港ですが、新幹線に乗ると博多駅に着きます。

福岡市出身者が地元のことを親しみを込めて、あるいは分かりやすく表現するために博多と言うことはありますが、テレビなどのメディアで「福岡県博多市」なんて言ってるのを耳にすると、目くじらを立てて怒ります。

貿易で栄えた博多は古くから商人が治めた自治都市で、そのため戦国期には大内・大友・龍造寺・島津など九州・山口の諸大名が争奪戦を繰り広げたため、博多は一面の焼け野原になってしまいました。

その荒廃した博多を復興したのは九州平定のためにやって来た豊臣秀吉です。秀吉としては来るべき朝鮮出兵のために博多を兵站基地にしようという構想があったのでしょうが、ともかく神屋宗湛と島井宗室の地元豪商の協力を得て博多の町を復興させます。その事業は「太閤町割」といって、このとき定められた「流(ながれ)」と呼ばれる自治単位は現在でも「博多祇園山笠」の地区分けの基本になっています。

そんな博多の下町で

博多区冷泉町の一帯は先の大戦でも空襲による延焼を免れたため、古い町並みが今でも残る風情豊かな博多の下町です。近くには博多の総鎮守で夏の大祭「博多祇園山笠」の舞台でもある「櫛田神社」や「博多町家ふるさと館」「博多伝統工芸館」などの観光名所があって、国内外の観光客が散策する姿をよく見かけます。

江戸末期〜昭和初期に建てられた商家の古民家は、多くが京都などと同様に間口が狭く奥行きが長い“うなぎの寝床”と呼ばれる博多町家です。かつては壁を共有する形で長屋のように町家がみっちり並んでいたのでしょうが、さすがに今では数が少なくなってしまいました。近年は隣が取り壊されて駐車場になってしまい、共有していた壁を応急処置で塞いだために、母屋・中庭・離れ・蔵など複雑な形をもつ“町家の断面”をさらすことになってしまった古民家をちらほら見かけます。

f:id:mesitsu_lb:20170706154513j:plain

櫛田神社の参道沿いにある「博多町家ふるさと館」。近くから移設した大きな博多町家の「町家棟」を中心に、博多の民俗・歴史を紹介している。

f:id:mesitsu_lb:20170706154600j:plain

櫛田神社の北隣りにあるのは「はかた伝統工芸館」。博多織や博多人形など、博多の伝統工芸を紹介している。

f:id:mesitsu_lb:20170706160848j:plain

櫛田神社北側から大博通りに向かって延びる櫛田通り。このあたりはまさに博多の下町といった雰囲気。

f:id:mesitsu_lb:20170706161231j:plain

「太閤町割」以来の細い通りが今も残る冷泉町。「博多祇園山笠」ではこの細い交差点を巨大な山笠が直角に曲がるため、「博多祇園山笠最大難所」とされている(建物の角にプレートあり)。

この町の老舗食堂「再来軒」も、そんな博多町家の一つ。建物の幅は5m程度なのですが、隣の敷地の駐車場から見ると、奥行きはおよそ25mと、まさに“うなぎの寝床”。手前の大きな三角屋根(切妻)の母屋の1階が店舗になっています。

近くには前述の「博多町家ふるさと館」という、大きな博多町家を移設して公開している観光施設がありますが、個人的には「再来軒」も“博多町家食堂”として文化財にしてもいいんじゃないかと勝手に思っています。

細長〜い店内には長〜いカウンターが置かれていて、ついつい「バー・カウンターでグラスをシャーッ」をやってみたいという衝動にかられるのは私だけではないでしょう。実際には継ぎ目があるので、そんなことしたらグラスがコケてしまいますが、「なじみのお客さんに灰皿を出すときは、シャーッてやることもあるけんね(笑)」といかにも下町の女将さんらしい風采を備えた平田以知子(いちこ)さん。女将さんはこの長〜いカウンターの縁の白木の部分が目立つように、毎日丹念に磨いていると言います。

女将さんと大将の平田登史典(としのり)さん夫婦はこのお店を切り盛りして48年。前のオーナーの頃から数えると、「冷泉町の再来軒」としては59年になります。

大将は山のぼせ(山笠に夢中な男衆)で、山笠期間の6〜7月(取材日は6月中旬)はほとんど寄り合いや行事に出ているため、お店を守るのは女将さんと女将さんの甥である若大将・里元伸彰さん・亮子さん夫妻。長〜いカウンターの向こうの細長〜い厨房を日がな行き交っています。

f:id:mesitsu_lb:20170706161322j:plain

前から見ると、お店の幅はおよそ5m。

f:id:mesitsu_lb:20170706161359j:plain

横から見ると、建物の奥行きはおよそ25m。手前の大きな三角屋根(切妻)の1階が長〜いカウンターのある店舗。屋根が出たり引っ込んだり庭があったりと、博多町家らしい複雑なシルエットをしている。

f:id:mesitsu_lb:20170706161418j:plain

これが“うなぎの寝床”に置かれた長〜いカウンター。椅子はゆったりと15席分置かれている。奥のアコーディオンカーテンの向こうにはテーブル席の個室がある。

f:id:mesitsu_lb:20170706161452j:plain

この辺りの地区分けである西流冷泉町五区で作ったのれん。この地区分けが“山笠”や“どんたく(GWに行われる福岡市民の祭り。動員数では日本最大の200万人を誇る)”などの祭りだけでなく、博多部の地域自治の基本単位になっている。博多部の人々の結びつきや地域性が確固たるものになっているのはそのためだ。

そろそろ料理の話をしようか

さて、食堂なのに町や建物の話ばっかりしてしまいましたが、肝心の料理の話をしましょう。

「再来軒」の人気メニュートップ3はラーメンに半チャーハンが付いた「半チャンセット」750円「チャンポン」700円「カツ丼」700円。特にラーメン(単品500円)は豚骨に鶏ガラをブレンドした昔ながらの博多ラーメンで、まろやかで素朴な味わいです。しかし今回は、それとは別に、夏場にオススメしたい珍しいラーメンがあるのです。本来なら暑い夏場に熱いラーメンはちょっと御免こうむりたいところなんですけどね。

その一つが「山かけラーメン」800円

「山かけラーメン」とは、そばのようにトロロがのったラーメンなのか? 麺は、トロロは、熱いのか冷たいのか? スープはあるのか? ぶっかけ汁か? 実はどんなものが出てくるか想像がつかないのでこれまで頼んだことがなかったのですが、今回初めて食べてみました。

正直、これはうまい!

スタイルは丼に入った普通のラーメンと共に、別皿に入ったうずらの卵付きのトロロが出てきます。このトロロにラーメンの麺をつけ麺のように入れ絡めても良し、ラーメンの丼にトロロをぶち込んでも良し。

トロロを絡めたらラーメンの味が薄くなるんじゃないかと心配したんですが、ラーメンの味がしっかりしているので、そんなことはありません。丼にトロロをぶち込んだら、スープが多少ぬるくなるのですが、夏場ならばそれもOK。トロロが絡んだラーメンがツルツルずるずると入っていきます。これで夏バテのときのスタミナ補給はバッチリですね。

そしてもう一つ、こちらは福岡の居酒屋さんでは比較的おなじみの「ラーソーめん」500円。

これはその名の通り、もともと素麺のように細くてストレートの博多ラーメンを素麺のように冷水で締めて、これまた素麺のようにダシ汁につけていただきます。お酒の後の締めに胃の負担にならないさっぱりしたものをとメニューに加えられたものですが、ひんやり冷たくて、夏に絶対オススメです。

夏限定の「冷やし中華」もあるのですが、「山かけラーメン」と「ラーソーめん」は通年のメニュー。とは言え、ぜひこの夏試してみていただきたいラーメンです。

f:id:mesitsu_lb:20170706161538j:plain

けっこう種類豊富な「再来軒」のメニュー。「山かけラーメン」はどこにあったっけ……。

f:id:mesitsu_lb:20170706161615j:plain

「皿うどん」の上に遠慮がちに貼ってありました。

f:id:mesitsu_lb:20170706161628j:plain

こちらは普通の「ラーメン」500円。今ラーメンが500円とは良心的。

f:id:mesitsu_lb:20170706161645j:plain

「山かけラーメン」800円は、普通のラーメンに小鉢のトロロが付く。

f:id:mesitsu_lb:20170706161754j:plain

まずはつけ麺のようにラーメンをトロロにつけて食べてみよう。

f:id:mesitsu_lb:20170706161815j:plain

あとはお好みでトロロをラーメンにぶち込んで。

f:id:mesitsu_lb:20170706161836j:plain

こちらは涼感たっぷり「ラーソーめん」500円。

f:id:mesitsu_lb:20170706161906j:plain

つるつるつるとあっと言う間に食べてしまえるので、男性は大盛り(600円)の方がいいかも。

f:id:mesitsu_lb:20170706161924j:plain

若大将・里元伸彰さんと奥さんの亮子さん、娘の汐帆(しほ)ちゃん、奥が女将さんの平田以知子さん

お店情報

再来軒

住所:福岡県福岡市博多区冷泉町5-22

電話番号:092-281-3549

営業時間:11:00〜21:00

定休日:日曜日・祝日

www.hotpepper.jp

※この情報は2017年6月のものです。

※金額はすべて消費税込です。

書いた人:兵土 G. 剛

兵土 G. 剛

福岡のタウン情報誌の編集部に15年勤めた後、フリーライターに。食うの好き、飲むの好き、きれいな女の人好き。マメさなし、根性なしの偏屈じじぃ。 Twitter:G(じぃ)@G3hyodo

過去記事も読む

関連記事リンク(外部サイト)

炒めちゃダメ?「ガーリックチャーハン」がパラパラに仕上がる「たった3つのポイント」
暑いからコンロ前はKEEP OUT! そんなときは「レンチン肉味噌うどん」【今週は冷たい麺】
【ヤミツキ】「コンビニチーズ」を「生ハム」と「豚バラ」で濃厚アップデートしてみた

  1. HOME
  2. グルメ
  3. バー・カウンターでシャーッ……博多町家の長〜いカウンターで夏にうれしいラーメンを食す【福岡】
access_time create folderグルメ
local_offer

メシ通

食を楽しみたいあなたのスキマ時間を、笑顔と感動と知って得する情報で満たす「グルメ情報マガジン」です。平日は休まず更新中。

ウェブサイト: http://www.hotpepper.jp/mesitsu/

TwitterID: mesitsu

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。