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水をガソリンに変える!? 山本五十六を騙した稀代の詐欺師のノンフィクション

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水をガソリンに変える!? 山本五十六を騙した稀代の詐欺師のノンフィクション

「ただの水をガソリンにする方法がある」

――そんな話を聞かされたら、どう思うだろうか?

きっとほとんどの人が、「そんなバカな話があるわけがない」「信じられるわけがない」と思うに違いない。そう、それが普通だ。

だが、そんな話を本気で信じてしまった人たちがいる。

最も有名な日本の軍人の一人、第26、27代連合艦隊司令長官・山本五十六。そして、多くの権力者たちである。

そして、その途方もない話を信じ込ませたのが、本多維富(ほんだこれとみ)――稀代の詐欺師である。

「本多維富」の名を知っている人はほとんどいないだろう。また、山本五十六をはじめとした日本海軍が詐欺に遭ったという話も有名ではない。だが、この事件は「水からガソリン事件」として、戦時下の日本で本当に起こったこと。

そんな歴史の中に埋もれた、「水からガソリン事件」の顛末を、わずかに残る貴重な文献から掘り起こした一冊が『水を石油に変える人 山本五十六、不覚の一瞬』(山本一生著、文藝春秋刊)だ。

著者は、2007年に日本エッセイスト・クラブ賞受賞した近代史研究家の山本一生氏だ。

山本氏は、「特攻の父」と呼ばれる大西瀧治郎が残した「水からガソリン事件」の顛末を記した報告書を基に、様々な文献を調べ、本書で稀代の詐欺師・本多維富の足跡を辿っている。

■日本海軍はどのように騙されたのか?

「水からガソリン事件」は実際に起こった出来事だが、「なぜ、海軍は詐欺に遭ったのか」と疑問を持つ人もいるだろう。

そこには第二次世界大戦時の日本における燃料事情が深く関わっている。

当時の日本軍にとって、軍艦や戦闘機に欠かせない石油資源の不足は最大のアキレス腱だった。燃料確保に奔走する軍人にとって、「水からガソリンが作れる」という話は、にわかには信じられなくても、真偽のほどを確かめずにはいられない状況だったのである。

そんな事情を背景にしながら、本多維富の手管も周到だった。

本多は「水からガソリン事件」の前にも、「藁から真綿をつくる」という似たような手口で、多くの人を騙し、多額の出資金を集めていた経歴がある。

どちらの場合も、その詐欺対象は一定の財力や権力を持ち、世間から信頼の厚い人物だ。

「水からガソリン事件」では、まず、当時の神戸女学院の博士を巧みに信じさせ、話に信憑性を持たせた。その信用を盾に、政界の黒幕と言われた辻嘉六、政界の大物である一条実孝公爵などの権力者たちと会い、実際に水からガソリンができる様子を見せた。

当たり前の話だが、権力者は必ずしも科学に精通しているわけではない。目の前で見せられたことを信じた権力者たちは、その偽りの技術をさらに多くの人に喧伝する。

すると何が起こるのか。

その技術に疑問を持つ人間が現れても、権力の下、真っ向から非難することが難しくなるのだ。

しかも、権力者は往々にして気位が高い。「それは騙されているだけだ」と言われても、自分の目で見たことに絶対の自信があるので、反対意見を受け入れようとはしないのだ。

そうするうちに、「水からガソリン」の話はとうとう山本五十六の耳にも届くことになる。

軍内部には、本多を信じる者もいれば、断固として信じない者もいる。そこで海軍省の庁舎内で公開実験が行われることになるのだが……。

その顛末は、本書を読んで確かめてもらいたい。

■現代に至るまで続く「水からガソリン事件」

実は「水からガソリン事件」は、その後、海外でも同じように起きている。

1954年、アメリカではイリノイ州リヴィングストーン在住のグッド・フランチが「水をガソリンに変える緑の粉薬を発見した」と騙り、裁判となった。

さらにその後、経済成長が始まった1983年に中国でも「水からガソリン事件」が起こる。

一人のバス運転手が、水をガソリンに変える液体を発見したと発表し、新聞や雑誌で取り上げられ、数多くの投資が行われた。

1996年には、インドでも同様の事件が起こる。チェンマイの化学者が、地元の薬草を煎じることで「水からガソリン」が可能になったと発表し、州政府が施設建設や資金援助まで申し出た。

どの話も「どれも化学的な常識がなかった時代や地域の話だろう」と笑い飛ばすかもしれない。

だが、2012年に英・インディペンデント紙は「イギリスの小さな企業が、水と空気からクリーン燃料を作る新技術を発表した」と伝え、2014年には、インターナショナル・ビジネス・タイムズが「さようなら石油――米海軍が海水を燃料に変える新技術を開発」と報じている。

どちらも真偽のほどは定かではない。だが、最新科学の装いを身に纏ってはいるものの「水からガソリン事件」を彷彿とさせる話だ。

「そんなことはあり得ない」を信じ込ませるのが、詐欺師の真骨頂である。

どれだけ科学が進歩し、エネルギーの主役が変わろうとも、騙し騙されるのはいつだって「人」だ。

本書は、歴史ノンフィクションとしての面白さとともに、そんな警句が滲む一冊である。

(ライター/大村 佑介)

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