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風待町ろまん、少年の日の思い出、空から来た友だち

生活・趣味
風待町ろまん、少年の日の思い出、空から来た友だち

 僕の名前は久延丕彦(ひさのべものひこ)という。足が少し不自由で人見知り、いつもひとりで遊んでいる。その日は、海岸で「宝探し」をしていた。空に太陽がこぼれおちたような光が見えたかと思うと、遠くでどーんと低い音が響く。しかし、まわりにはだれもいない。目撃したのは自分ひとりだ!

 僕が高揚感に包まれていると、猛スピードの軽トラックが桟橋に停まり、なかから出てきた女性が一隻の漁船に飛びのると沖へ出ていった。そのひとには見覚えがあった。よくいく医院の看護婦さんだ。しかし、看護婦さんがどうして大慌てで海へいくのだろう?

 それが、不思議なできごとのはじまりだった。

『風待町医院』は五篇からなる連作集。年代は特定されていないけれど、携帯電話が登場せず、男の子の台詞のなかにアマチュア無線という言葉がふつうに出てきたりすることから、1970年前後と推定される。つまり、主人公で十歳の丕彦(僕)は、作者の藤崎さん(62年生まれ)の分身なのだ。もちろん、私小説ではないから、安易に自伝的要素を読みとってはいけない。しかし、物語の背景となる世界を構成するディテールの手ざわりや匂いは、その時代を生きてきたからこそなしうる精彩だ。

 たとえば、給食に出てくる牛乳の蓋集め、特撮ヒーローもののカード、「ヘリコプター」とは名ばかりのプラスチック製の竹とんぼ玩具、木彫りの看板を掲げた純喫茶……。

 そして、きわめつけは、陰鬱な診療所だ。

 当時の診療所というのは、なぜかコンクリートの洋館スタイルが多くて、どっしりした石の門柱があり、玄関の脇にはたいていシュロだとかヤツデ、アオキみたいな、新緑色の植物が茂っていた。 風待町医院もまさにそんな感じで、全体的に暗くて冷たい印象がある。重たい扉を開いて中に入ると待合室もまた暗い。小さな出窓はあるが、シュロの葉とブロック塀に視界を遮られていた。

 こうした特有のたたずまい。私も同じ世代の病気がちな子どもだったので、よくわかる。いまだに夢に見るほどだ。その夢のなかにいるうちは恐ろしいが、醒めてみればかすかにノスタルジックな気持ちが湧いてくる。

 さて、この風待町医院、ただの古ぼけた診療所ではない。表向きは「内科・小児科」だが、本当の専門は「異星人科」なのだ。そして、僕が海岸で見かけた看護婦さんも、この医院に勤務している。彼女の名前は須久那美迦(すくなみか)さんだ。

 沖へ向かってからおよそ一時間後、須久那さんの船が戻ってくる。そのあいだ、僕はなんとなく浜で遊んでいた。途中で、いたちのロビン(バットマンの相棒に似ているからそう呼んでいる)が出てきたので、ひとりと一匹だ。

 須久那さんは、何かを船から軽トラックへ載せ換えて走りさるが、その荷台からぷよぷよした青い塊がころげ落ちた。僕の目の前で塊はみるみる変化し、赤ん坊そっくりになる。じつはこの赤ん坊も、風待町医院の診療内容と関わっていたのだ。

 僕はいったん赤ん坊を見失うが、後日、もっと成長した姿になったそれと再会する。いや、もう、それではなく彼だ。なんと外見は僕とうりふたつ。しかし、言葉での受け答えはできない。おまけに裸だ。自分と同じ顔の相手がそんなでは居心地が悪い。「服ぐらい着ろよ」と、僕は世話をはじめる。ロビンを別にすれば、初めてできた友だちだ。ぼくは彼を「トモヒコ」と名づける。

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