なぜ若手社員は「指示待ち」を“選ぶ”のか?――リクルートワークス研究所主幹研究員×リクナビNEXT編集長対談<前編>

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なぜ若手社員は「指示待ち」を“選ぶ”のか?――リクルートワークス研究所主幹研究員×リクナビNEXT編集長対談<前編> f:id:k_kushida:20170711115157p:plain

若いビジネスパーソンがキャリアに確信を持てないとき、つい陥りがちな「指示待ち」の姿勢。その歴史は案外古く、現在企業で働いている人の多くが入社する前の1981年にはすでに「指示待ち族」という言葉が流行語になっていたほど。そしていま、20代の就業意識をウォッチすると、「やる気や能力があってもなぜか『指示待ち』を“選び”、成長のチャンスを逃す人が増えた」傾向にあるといいます。その背景には何があるのでしょうか。このほど著書『なぜ若手社員は「指示待ち」を選ぶのか?』を上梓した豊田義博・リクルートワークス研究所主幹研究員と、藤井薫・リクナビNEXT編集長に語ってもらいました。

「持てる力の10%」も仕事で出していない

―著書の中で豊田さんは、1991年から2004年ごろまでと、それ以降に新卒入社した層との間でキャリア志向が大きく異なると指摘されています。「04年後」の特徴とは、どのようなものでしょうか。

豊田 ひとことで言うと「“リスク回避志向”かつ“スペシャリスト志向”」ですね。転職をいとわず、自身の市場価値を高めながらキャリアアップを図ろうとした前世代(’91~’04年)とは異なり、専門性を何とか身に付けて安定した企業で勤め続けたいという意識が強いです。04年がターニングポイントとなったのは、このころニートやフリーターといった若者の雇用問題が大きくクローズアップされだしたことが影響しています。

今回本をまとめるにあたり、20代のビジネスパーソンにヒアリングしたのですが、引っかかったのは「主体的に仕事に取り組めていない人」が決して少なくなかったことです。就活時代の生き生きした表情が印象的だったある女性は「いまの仕事では、自分の力の10%も出していない。周りの同年代もそうだと思う」と本音を話してくれました。もともとクリエイター志望で、エンタメ系の部門を持つ大手企業に入って2、3年。聡明なので資質を見込まれたのでしょう、IR(投資家向け広報)に異動になったのですが、希望する部署ではなかった。それで「この仕事の何が大切か、どこが面白いのか分からない」と言っているんです。f:id:k_kushida:20170710122215j:plain

豊田 義博(とよだ・よしひろ)

リクルートワークス研究所主幹研究員。1983年にリクルート入社後、就職ジャーナル、リクルートブック、Works編集長などを経て、現在は20代の就業実態・キャリア観・仕事観、新卒採用・就活、大学時代の経験・学習などの調査研究に携わる。『若手社員が育たない。』『就活エリートの迷走』(以上ちくま新書)、『「上司」不要論。』(東洋経済新報社)など著書多数。

―毎日どんな気持ちで過ごしているのか、ちょっと気がかりですね。

豊田 ハンドメイドの趣味に没頭する休日は充実しているそうなんです。ただ一方で「早く何者かにならなければ」という焦りも抱えているようです。

私たちの世代の感覚だと、これはもったいない。「もう少し能動的に取り組めば、仕事で創造性を発揮できるのでは」と思わずにいられません。しかも、どうしても興味が持てなければ転属を申し出る選択もあるのに、そうするわけでもない。受動的な姿勢を“自ら選んでいる”ともいえるわけです。

決して、若い人が不真面目だというわけではありません。みんな会社で言われたことはきちんとやっている。彼らのマネジャーも、優秀、マジメと評価しています。さらにボランティアなど社会貢献への関心も高い。しかし、これは「誰かの役に立つリアルな実感」が、職場ではなかなか得られないことに起因しているようにも思えます。もっとも、あるNPOの方から最近聞いたところでは「入ってくれる若者はたくさんいるが、みんなすぐ辞めてしまう」とのこと。裏方的で地道な事務作業が案外多いのと、土日だけの参加者には責任を伴う大事な業務をなかなか任せてもらえないのが原因のようです。

“つながり不足”が招くパワー不足

藤井 ここまでのお話を聞いていて思うのは、今の若いビジネスパーソンが暮らす環境は、つながりが当たり前に存在した昔とはまったく違うということです。会社との安定した雇用関係、同僚との腹を割った関係、最終顧客との顔の見える関係、身近なロールモデルの存在、自分の存在を受容してくれる地域や血族の実感。かつては“信”じることも“頼”ることもできた会社縁、同僚縁、地域縁や血縁。こうした“信頼できるつながり”は、ことごとく雲散霧消しているのです。

ここで思い出すのは、セキュアベース(心理的安全)の研究※1です。ハイハイする幼児が振り返ったとき、母親の姿を確認できた幼児はさらに前進し、できなかった幼児は引き返してしまう。心理的な安全基地があるからこそ、外の世界へ冒険し発達成長できる。これは大人のキャリア開発にも適応できる概念とも言われています。

※1 英・心理学者John Bowlbyが提唱した幼児の養育行動における概念。

はたらく誰もが、新たな挑戦と少々の欠点や失敗は受け止めてもらえるセキュアベースを持っていれば、積極的なチャレンジもできるでしょう。でも今の社会では、セキュアベースを支えるつながりは、自分から求めなければ得られにくい。若手の“リスク回避志向”かつ“スペシャリスト志向”は、時代の写し鏡なのかもしれません。f:id:k_kushida:20170710123125j:plain

藤井 薫(ふじい・かおる)

「リクナビNEXT」編集長。1988年にリクルート入社後、人材事業の企画とメディアプロデュースに従事し、TECH B-ing編集長、Tech総研編集長、アントレ編集長などを歴任。2007年からリクルート経営コンピタンス研究所に携わり、14年からリクルートワークス研究所Works兼務。16年4月より現職。

―いざというとき頼れるものがないから、思い切った挑戦ができないということですね。

藤井 はい。先が見えないからこそ自身の専門性を高め、何かしらのプロになって生き残ろうと考えるのは健全な志向だと思います。しかしここで問題なのは、リスク回避志向による受動的な行動特性、その結果として “つながりの希釈化”です。現実世界との接点が少なかったり、薄かったりすると、そもそも自分の立ち位置や、持ち味、スペシャリティーが何なのかさえ分からなくなります。プライベートでの充実感やボランティアで役立っている実感も、リスク回避的で受動的なものでは、面白くないですし、得られるものも少ないですよね。

「時代」「会社」「自分」・・・どこに問題が?

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―2004年以後に働きだした人が特にリスクを避けていると聞くと、当時プロ野球球団や放送局の買収を計画していた「ライブドア」との関係が気になります。一躍時代の寵児になった堀江貴文元社長は粉飾決算などの容疑で2006年に逮捕され、その後実刑判決を受けて服役しました。

豊田 堀江さんの同世代は、事件当時から非常に同情的でしたね。04年以後の世代はもう少し若いですが、リアルタイムでニュースを見ていた人たちは既存の秩序に挑戦するようなライブドアのやり方に注目していて、結局「やっぱりダメなんじゃん」と学習した。それで手に職をつけるなど、より堅実そうな道を選ぶようになったという影響は多少あると思います。

藤井 ここ数年で働き始めた、もっと若い人たちはライブドア事件を詳しく知らないようです。2年ほど前、リクルートのグループ内で開いた事業提案イベントの審査委員として堀江さんに来ていただきましたが、その鋭い視点やグローバルな発想力が、若手にはすごく“刺さっている”のが分かりました。

ただ、そんな若手たちも「ホリエモンのようにグローバルな視点で活躍したい」と触発される感じは少ない。「勉強になりました」と、普段の仕事に戻っていく印象なのです。アタマ的な意識では“リスク挑戦志向”、カラダ的な無意識では“リスク回避行動”

という感じです。

―刺激を受けても、それで一歩踏み出すところまではいかないということですか。

豊田 「こういうふうになりたい」という全体像、実現可能性の問題をひとまず横に置いた“大きな絵”を、いま若い人はあまり描かない気がしますね。

藤井 職場の環境的な要因もあるでしょう。業務があまりにも細分化されすぎ、いま自分がやっている目の前の仕事しか見えていなければ、大きな絵は描きづらいと思います。

豊田さんの本でも紹介されている、仕事のやりがいに関する有名な研究「職務特性理論」では、モチベーションに影響を与える5つの要素(技能多様性・タスク完結性・タスク重要性・自律性・フィードバック)を挙げ、それらの関係を数式で表現しています。自分のやり方で進められるかという「自律性」と、仕事の結果に対する手応えが得られるかという「フィードバック」が特に重要ですが、単に全体の一部だけを担当するような業務では、この大事な2つがいずれも弱くなってしまいます。

つまり、自分が担当する部分の仕事が、他者が受ける全体の影響にどう繋がっているか?最終的にお客さんにどう役立つのかが分かりづらく、反響も得られないような仕事内容であれば、思うように力が出ないのも当然だということです。

豊田 仕事に関して高い理想を掲げる人を「意識高い系」とからかい、足を引っ張るような傾向があるとよく指摘されますが、実際に邪魔をされたという経験談はあまり聞きません。むしろ波風を立てまいとして、自分が目立つ行動を控えているだけなのではないでしょうか。指示待ちの態度を選ぶというのも、やはり波風を立てないための自制でしょう。それで当面のトラブルが避けられても、自分自身を抑圧して自律性を捨て、成長につながるフィードバックの機会を逃していてはモチベーションが下がる一方。賢明な選択とは思えません。

藤井 忙しそうな上司の邪魔をしそうだからと、つい声をかけるのをためらう。あるいは、せっかく学びたいことがあってセミナーに来たのに、わざわざ後ろのほうに座って質問もしない…。そんな状況から一歩でも前に出れば、見える景色は全然違ってくるはずです。

後編へ続く

【参考図書】

『なぜ若手社員は「指示待ち」を選ぶのか? 職場での成長を放棄する若者たち』

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著者:豊田義博

出版社:株式会社PHP研究所

WRITING/PHOTO:相馬大輔

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