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【終わった恋の忘れ方】弾丸トラベルで知り合った男性と二人で…【旅×恋愛小説】

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人気作家の「新井夕花」さんと、人気漫画家の「雨宮うり」さんのコラボレーション小説が誕生!

失恋で落ち込む主人公の小梢。傷心を癒すための旅先で、同い年の道端直樹と出会い、様々な“偶然”が二人を結びつけ、最後には……!?

登場人物

遠野小梢(とおの こずえ)

25歳。主人公。下着メーカーで働くOL。

明るい性格で、順応性あり。

仕事への姿勢は真面目だけれど、お酒も好き。

道端直樹(みちばた なおき)

25歳。旅先で出会った男性。企画会社勤務。

友人からの信頼が厚い、常識人。

ただし、女性には強引なところを見せる時もある。

STORY

大学時代から4年付き合った彼と、先週めでたく破局した。

「何言ってんの、全然めでたくないから!」

ホント、めでたくない。そんなことわかってますよーだ。

でもね、友よ。めでたくとでも言わなきゃ、このショックをどうやり過ごせばいいのかわからないの。

「お兄さん! ウーロンハイおかわり!」

終わった恋の忘れ方

空になったグラスを居酒屋のバイト君に掲げると、呆れた友達がグラスを奪い取った。

「小梢、もうやめときなって。飲み過ぎだよ」

いいの。飲み過ぎ上等、今日は飲みまくる! んで、吐きまくってやる。

吐いて吐いて、彼との4年分の思い出もついでに排水溝に流してやるんだから。

グラスを奪い取られた手を挙げたままテーブルに突っ伏す。

「あーあ、好きだったのになぁ。ひそかに結婚とか考えてたのになぁ。夏には旅行しようって約束してたのになぁ……」

今までもこれからも、ずっと一緒だと思ってたのになぁ。

「やめなよそういうの、痛々しいから」

そう痛々しいの私。自分でもわかってるんだけど、切り替え方がわからない。

だって4年も一緒にいたんだよ。彼との時間は当たり前にある日常だったから、どうやって失った時間をやり過ごせばいいのかわからなくて……。

「そうだ! 旅行に行こう!」

突然そう思い立ち、スクッと立ち上がると、友達が驚きながらも頷き。

「いいんじゃない、気分転換になって。明日から連休だし行ってきなよ。毎晩、飲み歩いてるより、ずっと有意義だと思うよ」

だよね。そう思った私は、勢いのまま行先を決めネットで予約を取った。

旅行って意外と簡単に行けるんだ。

ネットで宿の予約を取って、あとは乗り換えアプリで調べれば行き方も教えてくれる。

しかも都心から1時間ちょっとで行けるなんて、ちょっと驚き。

なーんだ、こんなことならもっと早くこうしておけばよかった。

2、3回飲みに行ったと思えば、それくらいの料金で行けそうだし。

まあ、友達が「ペンションの予約取ったの、忘れてないでしょうね」と電話をくれなかったら、二日酔いで今頃まだ寝てただろうけど……。

慌てて駆け込んだ電車はそこそこ混んでいて、とりあえず目に入った空席に座る。

窓側の席に座っていた男性が、一瞬こちらを見た。隣に座られて迷惑なのかと思い、小さく頭を下げた。

「すみません」

「いえ」

終わった恋の忘れ方

構いませんよ、という感じの声を出したその人が、持っていた文庫本を開きなおす。

チラッと横から見えた本のタイトルに覚えがあり、それ面白いですよねと言いかけてやめた。

いくらなんでも知らない人に声をかけたりしたら、怪しい女だと思われる。

そういえば最近、本とか読んでないないなぁ。大学時代はよく読んでいたのに、社会人になってからは忙しく、彼氏と時間を合わせることで精一杯だったから。

そうか、これからはまた読書とかすればいいんだ。少し忘れていたやりたいこと、好きなことをまた始めればいい。

昨日のお酒が多少残っている状態での電車の揺れは、この上なく心地よく。友達に、無事出発したことをメールで報告したあと、知らない間に寝落ちしていた。

熟睡していた私が目を覚ましたのは、隣に座っていた人が立ち上がったから。一瞬自分がどこで何をしているのかわからず慌てる。

「降ります」

そう言われて、私が邪魔で彼が通れないのだとわかり、慌ててズレると膝の上に乗っていたスマホがゴトッと音を立てて落ちた。

もう、何やってんの。熟睡はするわ、慌てるわで恥ずかしいと思っていると、彼が屈んで私のスマホを取ろうとしてくれる。自分で拾いますと言うより先に再びゴトッと音がして、今度は彼の胸ポケットからスマホが落ちた。

何となく気まずい空気が流れ、そんな状況がおかしかったのか彼がふっと笑いながら二つのスマホを拾い上げた。

「どうぞ」

「どうも……」

渡されたスマホを受け取り、今度こそ彼が降りられるように足を退けた。

頭を下げて通路を歩いていく後ろ姿をぼんやり見ながら、今どこの駅なのかと思い窓の外を見た。

ふーん、ここか。

ここって、一度は行ってみたいと思ってた場所なのよね。緑豊かで、良い所だろうなぁ。優雅な時間が流れるまさに避暑地って感じで、失恋によって荒んだ心を癒してくれるはず……。って、え、わたしもここで降りなきゃだよ!

ドアが閉まるブザーの音が鳴るから、本気で慌てた。

バッグを掴み、ダッシュで電車から飛び降りる。間一髪のところで降り過ごすのを避けられて、ホームで息をついた。

危なかったけど、とりあえず目的地に着けてホッとする。

あとは時間までブラブラして、予約したペンションに向かうだけ。となると気がラクになり、お腹が減ってくる。駅周辺の店をふらふらと見て回りながら、おすすめを検索しようとポケットからスマホを出すと……え、あれ?

見慣れないロック画面には、なぜか子猫の画像。ヤバイ、何この可愛い猫ちゃん!

クッションの上で、丸まって目を閉じている真っ白の子猫はとても幸せそうで思わず頬が緩む。

可愛い。たまらなく可愛い。嫌がられながら、ワシャワシャしたい。

いや、そうじゃなくて……。これ私のじゃない。だって私の待ち受けは、こんなに可愛い子猫じゃないもの。じゃあ誰の?

そうか、さっきの人だ!

カバーを付けていない同機種は、当たり前だけど見分けがつかない。

カバー外すんじゃなかった。だけど、彼氏とお揃いだったから、未練がましいのも嫌で外したところだったんだよね。

ロックを解除しようと思っても、他人の電話なのでできるはずもなく。

相手に連絡しようと思っても、電話もできない……。

どうすればいいのか途方に暮れていると、手の中のスマホが鳴り出した。

画面には公衆の表示。

勝手に出ることに躊躇いながらも、とりあえず出てみると。

『あの……すみません。それって俺のですよね』

その声はさっき聞いた彼のものだった。そうか、公衆電話から掛ければよかったのか。

『間違えて渡したみたいで』

「ですね」

『俺、取りに行きます。どこの駅で降りますか?』

あー、さっき同じ駅で降りたことをこの人は知らないのか。

「私も降りたんです。同じ駅で」

私がそう言うと、今どこにいるのかを聞かれ、そこで待っていてほしいと言われた。

近くにあったベンチに座りしばらく待っていると、彼がこちらへと歩いてきた。

「すみませんでした。間違えてしまって」

「いえ、私の方こそ。気づかなくて」

お互い頭を下げる。顔を上げると、笑っている彼がスマホを差し出した。

「でもどうして、紅白カマボコ?」

その言葉に、慌てて自分のスマホを取り上げた。

見られた! そりゃあ見られて当然だろうけど。私だって、可愛いネコちゃんを見て自分のじゃないって気づいたのだから。

「あの、その……好きなんです……カマボコ」

だからって、何も待ち受けにしなくてもとか思ってんでしょ。大丈夫、それ間違ってないから。私も今、すっごく思ってます。恥ずかしいことこの上ない。

「俺も好きです。カマボコ」

笑いながら言われて、馬鹿にされているのかと思っていると。

「特に白が。人に言うと紅も白も同じだって言われますけど、俺は断然白の方が美味しいと思うんですよね」

え? わかる?

そうなの私も白派なの!

「私も白が好きで、ついでに言うと犬より猫派です」

初めてわかり合える人に出会えた嬉しさから、そう言ってスマホを返すと、彼が自分のロック画面を愛しそうに見つめ。

「実家で飼ってる猫です。本当は連れて出たかったけど、今住んでるマンションがペット不可なんですよね」

あーそれね。実はうちもそうなのよね。ペットOKなら絶対猫飼うのに。

「もしよかったら、食事ご一緒にどうですか? いい店があるって友人が教えてくれて。お詫びに奢ります」

奢ってもらわなくてもいいけれど、いい店を紹介してもらえるのはありがたい。

そう思った私は、彼と食事を共にすることになった。

その店は、駅から徒歩15分ほどの場所にあった。

森の中、という言葉がピッタリの静かなカフェ風レストラン。

終わった恋の忘れ方

「じゃあ、一人旅ってこと?」

緑が一面に広がる窓側の席に着き、ここに来るまでの会話の流れで彼に聞かれて頷いた。

「はい。昨日突然思いついて、だから完全ノープランなんです。そちらは?」

「俺もノープラン……っていうのかな。実は最近失恋して、仕事以外は家に引きこもってたら、見かねた友達に腐ってないで旅行でも行って来いって、強引に予定組まれて……」

その話に思わず笑うと、向かいの席に座る彼が苦笑いを見せる。

「かっこ悪い話だよな」

「あ、そうじゃなくて。同じだったから。私も失恋して。でも、私の場合は引きこもってたんじゃなく、飲み歩いてましたけどね」

どうせ知らない相手。今だけで、この先二度と会うことないだろうと思えば、隠すのも馬鹿らしい。

旅の恥は掻き捨てって言うくらいだし。

「ノープランなら、このあとここ行きませんか。体験もできるみたいですよ」

そう言って、スマホの画面を見せて来る。

「これも友人提案のプランですけど、さすがに男一人で行くのはって思ってたんですよね」

見せられた画面は、ガラス工房のHPらしく、色とりどりのガラス細工が載っていた。

どうせノープランだし、予約したペンションの夕食まで時間もたっぷりあるし、彼とは共通点が多く気が合いそうだとは思うけど……。

「でも、いいんですか?」

いくらなんでも初対面なのに。そう思い聞くと、彼が笑顔を見せ。

「いいもなにも、ぜひ。付き合ってもらえると、調べてくれた友人にも顔が立つし、俺は助かります」

まあ、そっちが嫌じゃないならいいんだけど。

「あ、名前まだでしたよね。俺、道端です」

「遠野です。じゃあ……よろしくお願いします」

頭を下げて言うと、彼もこちらこそと笑って頭を下げた。

カマボコは白派で、猫好き。同じ失恋旅行だというだけの共通点だけど、旅先という解放感があるからか、とても自然に会話が進む。どうせなら楽しもうという心理が働くのか、気負わなくていい相手との時間は、とてもリラックスできて心地いい。

ガラス工房で作った少し歪なグラスをお互いに見せ合い、正直な感想を言って笑う。

何これ、すっごく楽しいんだけど。

偶然が重なっただけの道端さんとの時間は、さらなる偶然により夜まで続いた。

「まさか、宿泊先まで同じとは。こんな偶然ってあるんだな」

「ホントびっくりだね。実は家も近かったりして」

「それはそうだろ。同じ駅から乗ってるし、すげー遠いってことはないだろ」

「同じだったの? 先に乗ってたのかと思った」

「ギリで駆け込んできた女が、隣に座ったと思ったら、次の瞬間には爆睡してて笑ったよ」

からかうように言われたので、ちょっとした仕返しをする。

「私、犯人知ってるんだけど」

「犯人?」

「うん。あの本、読んだことあるし。誰か言おうか?」

「いや、いい。それだけはやめてくれ。ネタバレされると、この先読む意味なくなるだろ」

食事をして、ガラス工房へ行き、ここに来る途中ソフトクリームを食べただけだけど、お互い初対面の相手という遠慮がなくなりつつある。

そうは思っても、ずっと一緒というのは何となく気が引けた。さすがに、一人の時間だってほしいだろうと思うから。

「じゃあ、これで。お昼はご馳走様でした」

結局奢ってもらった食事のお礼を告げて、案内された部屋へと向かった。

宿泊とセットの夕食はビュッフェ形式だったので、時間をずらすため終わりがけに部屋を出た。

会ってしまうと無視できなくなり、また一緒にとなるのを避けるため。

私は別にいいけれど、向こうはどう思うのかわからない。気を遣いながら一緒に食べるってのも苦痛だろうし。

そう思って指定された食堂へ向かうと、ピークが過ぎ、人がほとんどいなくなっている中、ひとり席に座っている道端さんの姿があった。

これじゃあ、時間をずらした意味がない。

ふと視線が合うと、笑顔を見せた。

目が合っているのに無視するのも変なので食べたい料理を皿に取り、道端さんが座る席へと向かう。

「もう料理あまり残ってないね」

「もしかして、気を遣ったのか?」

わたしの言葉と、相手の疑問が重なる。どう言おうかと一瞬迷ったものの、まあいいかと思い。

「うん、会わないように遅めに来た」

正直にそう言うと、座れば?というように視線を自分の前の席に向け。

「俺も。遠慮したつもりが、逆効果」

どうやら同じようなことを考えて、遅めにしたらしい。意味なかったけど。

「いいの? 一人で食べたいんじゃない?」

勧められた席に座らず聞くと、こちらを見上げ。

「俺は大歓迎だけど、そっちが嫌なら遠い席行けば?」

笑いながらそう言われるので、皿をテーブルに置き向かいの席に座った。

「遠い席ってわざわざ言うの、なんとなく嫌みっぽい」

「一人でとかわざわざ言うのは、嫌みじゃないのか?」

私が言った言葉を、同じように返してくる。

「そんなつもりじゃないから。ずっと一緒とか、迷惑かなって……そういう意味で言っただけで」

「嘘だよ。冗談だ。それに、同じところで気を遣い合える相手が、迷惑なわけないだろ」

それもそうだと思った。気が合うとか合わないは、こういうちょっとしたことが重要な気がする。

「ここいいよな。静かで、料理も美味いし。部屋も綺麗だよな」

「うん。レトロな雰囲気がオシャレだし、空気もいいしね」

「ネットで評判よかったとかで、ここにしたのか?」

そう聞かれて、どうしてここを選んだのか考える。

「どうだったかな。あまり覚えてないの、酔ってたし」

「酔った勢いにしては、いい選択してるな」

そんな話の流れから、少し飲もうということになり、結局深夜まで私たちは一緒だった。

道端さんが彼女と別れた理由、私が彼と別れた理由。実家の猫の名前。お互いの仕事。歳が同じだということ。改めて聞いた、道端さんの下の名前。改めて言った、私の下の名前。

お互いについて色々な話をしたけれど、寝る前に思ったことは、明日でお別れなのだということだった。

一泊というのは、思ったより短い。あっという間に、次の日の朝が来て、あっという間に、朝食が終わり、あっという間に、チェックアウトの時間になる。

ペンションのフロントで会計をしていると、道端さんも部屋の鍵をフロントに返しに来た。

「すぐ帰るのか?」

「うーん。お土産でも買ってから、とは思ってる。友達おすすめのとこある?」

友人のプランに乗っかろうと思って聞くと、さあという顔を見せ。

「2日目は自由行動って言われてるからなぁ」

自由行動って、ずっと自由行動じゃなかったの?

いい大人の自由行動発言に笑っていると、ペンションの人がお土産を買えるところを教えてくれて、よかったらお昼にでもと、美味しいフレンチのお店を紹介された。

2人で行くことにすると予約も入れてくれる。その気遣いに、またここへ来たいと思えた。

結局のところ最後まで行動を共にすることになったけれど、嫌なんて気持ちはなく。

ブラブラと買い物をして、予約してある店でお昼を食べた頃には、帰るのが惜しくなっていた。

帰りの電車に乗り、来た時と同じように隣の席に座る。今度は私が窓側なのは、道端さんが譲ってくれたから。

「あー明日からまた仕事だ」

「嫌なこと言うなよ。一気に現実に引き戻されるだろ」

「でもそれが現実だし」

だけど、リフレッシュできたからか、それはそれで受け入れられる。

「悪くなかったよ」

電車が動き出すと、ふいにそんなことを言うので隣を見ると。

「本音言うと、友達に無理やり行かされる旅行だと思ってたから、はじめは全く期待してなかった」

それを言うと、私もだと思った。

酔った勢いってだけで、期待すら持っていなかったんだし。

「でも、楽しかった」

私も……と言いかけてやめる。

それを言ってしまうと、旅が終わる気がしたから。

だってまだ終わってない。帰りの道だって、旅のうちでしょ?

「あ、ねえ、グラス交換しない?」

別の話題をと思っただけで深い意味はなかった。

「ほら、作ったグラス。この旅の思い出にさ」

私がそう言うと、それいいなというようにバッグからグラスを取り出した。

私も同じようにバッグからグラスを取り出していると、何を思ったのかペンも一緒に出してきて、グラスの入った箱に11桁の数字を書いた。

終わった恋の忘れ方

ゼロから始まる数字は、どこからどう見ても電話の番号。

「俺は思い出だけで終わるつもりないから」

その言葉と共に渡される、携帯番号が書かれたグラスの入った箱。

えっと、これって……私も書いた方がいいの?

戸惑っていると、私の作ったグラスを取り。

「気が向いたり、また会ってもいいと思ったら電話してくれよ」

私の番号を聞くつもりはないのか、何も書かれていないままの箱をバッグに入れる。

「そうだ、こいつさ、今はもっとでかくなってて、実はこんなに可愛くないんだよ」

気まずいと思ったのか、話題を変えるようにスマホの画面を見せてきた。

「この時は飼ったばかりで、まだ小さかったんだけど」

「じゃあ、今の写真は? ないの?」

変わった話題に乗るつもりで聞くと、ロックを解除した写真アプリを開き。

「今はこれ」

見せてくれた画面には、子猫ではなく丸々太った猫が写っていた。

「大きいね」

「だろ? マジででかいんだよ」

そう言いながら、他の写真を探すようにスライドしていく。

仕事で使ったらしい資料だとか、ネットショッピングのスクショだとか、なぜか水たまりだとか、そういった写真が道端さんの指先によって送られていく。

そして、次の猫写真に辿り着く直前、女の人が一瞬見えた。

「これも。足とか太いだろ?」

「今の彼女?」

見逃さなかった私がそう聞くと、こちらを見て苦笑いになり。

「見えた?」

「うん」

「別に未練あるとかじゃなくて、消すのが面倒ってだけで、残してたわけじゃないからな」

言い訳するように言うから。

「わかるよ。私も消してない。大体、消すとなるとすごく時間かかるしね」

「そうなんだよ、それこそ全消しの方が早いんじゃねえかって」

「見せて」

どんな人と付き合っていたのか興味がありそう言うと、一瞬迷ってから諦めたように猫の写真のひとつ前に戻した。

画面に映るのは、道端さんの彼女だった人。

お花見の季節だったのか、桜を背景に自然な表情を見せている元カノは、びっくりするほど可愛かった。

あー、なんだ。こんな可愛い子と付き合ってたのか。そりゃあ、ショックで引きこもりにもなるのも頷ける。

笑顔ってわけでもないのに、可愛さが画面越しにも伝わってくる。

満開の桜に負けない彼女の存在感は、私なんか足元にも及ばない。

いや、ちょっと待って。何この気持ち。どうしてショックなわけ?

道端さんの元カノがどうだろうと、私関係ないよね。

関係ないのに、この胸のモヤモヤはなに?

この感情って、まるで元カノに嫉妬してるみたい……。

「可愛いね」

そう言った声は、明らかに沈んでいた。

これってそういうことだよね。私、道端さんのこと好きになったのかも。

たった2日、一緒にいただけなのに。でも、楽しかった2日間だったから。

私を微妙な気持ちにさせた男は、初めに乗り合わせた駅まで行くことなく、その手前の駅で立ち上がり。

「実家寄って帰るから、ここで降りる」

「あ、うん」

「じゃあ、連絡待ってる」

軽くそう言って、電車を降りた。そんな態度は、いったいどこまでが本気なのかわからなかった。

さすがに本気じゃないでしょ。

そうかな? だって気が合ったし、楽しかったよ?

私が思うってことは、向こうだってそう思っても不思議じゃない。

連絡先を教えたのは道端さんなんだし。だけど、私のは聞かなかった。それって、自分で連絡するほどじゃないってこと?

かかってくればラッキーなだけで、自分からどうこうしたいほどじゃない?

あー、何! どうして、こんなに悩むわけ。

旅から帰ったその日の夜は、自宅のベッドだというのに、なぜかよく眠れなかった。

そんなこんなで旅の余韻が抜け切れていないとしても、朝が来れば仕事が始まる。

どうせ眠れないならと、思い切って早起きした。

寝不足の顔色をメイクで隠し、いつもより早めに出勤準備を整えてマンションのドアを開ける。同時に隣の家のドアが開いた。

そういえば、隣の住人って会ったことがない。時間が微妙に違うからか。少しの違いでも会わないものなんだ。

そんなことを思いながら家の鍵を締め、何げなく隣を見ると同じく鍵を締めこちらを向いたスーツ姿の男の人と目が合った。

終わった恋の忘れ方

嘘、どういうこと?

「道端さん!? え……ペット不可ってここのこと?」

一瞬の沈黙の後思わずそう聞くと、同じく驚いた顔を見せていた彼が笑って頷いた。

「偶然が重なると、運命になるのかもな」

だとしたら、失恋もこの運命のためにあったのかもしれないと思った。

(おしまい)

この記事を書いた人

ライティング:新井夕花

「魔法のiらんど」上で発表した、最強暴走族総長と平凡少女の切ない恋を描いた『CLOUD―裂鬼15代目総長―』(魔法のiらんど文庫)でデビュー。大反響をよんだ、書き下ろし大長編『BLACK』シリーズ、『GOD―囚われの姫―』も読者を大熱狂させている。

イラスト:雨宮うり

漫画家・イラストレーター。女性向け恋愛ものを得意とする。単行本『青春カフェテリア(KADOKAWA)』発売中。その他、小説挿画、アンソロジー等を手掛ける。

雨宮うりさん

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