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Fiction Issue : Interview with Satomi Yamauchi

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Fiction NeoL Photography : Satomi Yamauchi | styling Yumi Nagao | Hair : Takao | Make-up : Yousuke Toyoda | Edit : Ryoko Kuwahara Fiction2 NeoL Photography : Satomi Yamauchi | styling Yumi Nagao | Hair : Takao | Make-up : Yousuke Toyoda | Edit : Ryoko Kuwahara

写真家・山内聡美による写真展「Post Palmtree」が開催されたのは2017年4月。幼少期を過ごしたフロリダの街を撮影した「This must be the place」(2015)、同じくフロリダ州にあるウォルトディズニーによって作られた”理想”の住宅街を撮影した「Celabration」(2015)に続く最新作はヤシの木に見る、人々のトロピカルへの憧れを捉えた作品だ。”作られた街”という過去作から続くテーマに、その象徴であるヤシの現状を切りとるというレイヤーを加えた示唆に富んだものだった。彼女が見ている世界とはどういうものなのかーー撮りおろしの写真とともにインタビューをお届けする。

———トロピカル/パラダイスの象徴としてのヤシの木の写真を展示した先日のエキシビション「Post Palmtree」は、実にユニークな視点で素晴らしかった。幼少期をフロリダで過ごしたことが着想のヒントになっているんでしょうか。

山内「そうですね。8歳まで過ごしたフロリダには当然ヤシの木があり、日本でも祖母が住んでいた伊東にヤシの木があったので、子どもの頃はヤシの木はどこにでもあるものだと思っていたんです。実家がいわゆる川崎のニュータウンにあるんですが、そこにも唐突にヤシの木が植えられていて。段々成長するにつれ、『あれ、何でこんなところにヤシの木あるんだろう?』とふと疑問に思うようになって。色々調べてみて”南洋幻想”と言う言葉に辿り着きました。海も無い寒い地方の人々が南国という自分たちから一番遠い土地、環境、境遇へ強い憧れを抱いていたことが、元々の語源のようです。そこから南国=楽園という幻想を見て、その楽園を手に入れるべく自分たちで創り出す行為に出たのだと思います。これはとても興味深いものを見つけてしまったなと(笑)。
私が思うに、この”南洋幻想”を象徴するのがヤシの木で、ヤシの木1本だけでもそこに植えたらその場がトロピカルでポップになるとみんなが何となく思っている。それくらい強いモチーフとして成り立っているのはすごいことですよね。遠い暖かい場所から知らない土地に派遣され、ただそこに佇む。トロピカルの象徴を一身に背負ったヤシはどこか哀愁と共にイナたいイメージがつきまとっているというか(笑)。
そしてそのイナたさが自分とリンクしているなと思ったんです。
『アメリカに住んでいました』と言うものの、やはり花形はNY、LA。フロリダでなんかすみません、みたいな意識があって(笑)日本で帰ってきたところも郊外のニュータウンだし、常に自分の背景にはなにかイナたさがある。どちらも都市開発で作られた街で、何故かそういうものが付きまとう人生なんだなと。そしてそこで培われたアイデンティティである“ダサかっこいい”が自分の中のセンスとしてある。その象徴としてのヤシの木というか」

Fiction3 NeoL Photography : Satomi Yamauchi | styling Yumi Nagao | Hair : Takao | Make-up : Yousuke Toyoda | Edit : Ryoko Kuwahara Fiction4 NeoL Photography : Satomi Yamauchi | styling Yumi Nagao | Hair : Takao | Make-up : Yousuke Toyoda | Edit : Ryoko Kuwahara Fiction5 NeoL Photography : Satomi Yamauchi | styling Yumi Nagao | Hair : Takao | Make-up : Yousuke Toyoda | Edit : Ryoko Kuwahara

——コンプレックスの象徴でもあったわけですね。そこに向き合おうと思ったきっかけはなんだったんですか。

山内「祖父母が趣味でやっていた影響で小学生時代に写真を撮り始めて。そこから中高と写真部で、その流れで写真家になったものの、自分自身ではなにを撮りたいかがずっとわからなかったんです。なにかあって写真に目覚めるような方は、きっと自分の意識が強くて撮りたいものもはっきりしていますが、自分にはそれがない。写真に差がつくのは結局そこなんですよね。その人が何を撮りたいかに尽きる。技術も大事だけど、その人が撮りたいものやヴィジョンが鍵。それを見つけるために、自分の過去に目を向けようと思ったんです。家族を撮る、故郷を撮る、恋人を撮るというような自分を晒す行為は正直小っ恥ずかしかったのですが、思い切って行ってみたら、やはり自分のことがよくわかっていろんなことが腑に落ちました。

フロリダの私が住んでいた街はどこか寂しいんですよ。いつも青空で晴れてるし、建物はパステルカラーだし、至る所にドルフィンモチーフが溢れていて、美しいビーチがある。でもなんか賑わってない。表向きは明るいのにあまり上手く行っていない、そんな哀愁があるところが、やっぱりものすごく撮りたい衝動にかられるんです。それでやっと見えてきたし、自分自身を認められるようになったんです。

もっと若い時は、どうせアメリカに住んでいたのなら、LAでスケーターでも撮ってたかったわ。そのほうがかっこいいし、みたいな思いがずっとあったんですけど(笑)、結局グッとくるのはフロリダのようなどこか哀愁ある、アイロニックな世界観なんだなって」
 

——その故郷に戻った際の写真展がギャラリー360°で行われた「This must be the place」。そこからの世界観がヤシに続いている。

山内「21年ぶりにフロリダに戻ったんですが、戻るにあたり色々調べていたら、フロリダにあるヤシの木は自生してなくて人工的に植えられていたことがわかったんです。子供の頃住んでいた私としては結構びっくりの事実でした。元々沼地でなにもなかった場所を、ヨーローッパ人たちにアメリカでバカンスをさせるための場所としてリゾート開発したんですよ。
ヤシの木が元々自生しているのはポリネシアやバリ島とか熱帯アジアらしいのですが、どうやら18世紀頃のバリ島では、当時の富裕層の西洋人向けにリゾート化するために野生のヤシの木をきれいに配置して植え替えていたそうなんです。その時代で既にそのような事が行われていた。美しいビーチに等間隔で植えられたヤシの木。こうして私たちが漠然とイメージする”南国”の美しい景色は作り上げられた。この配置というのが重要で、野生のまま生え散らかされていると私たちが知っているヤシの木じゃなくなる。均等に間隔をとって点在していなくてはいけないという。 つまり私たちが思い描くいわゆる南国の景色は、理想の楽園として作り上げられたフィクションそのものだったんですよ。しかも相当昔から。
バリ島、ハワイやLA、ヤシの木をイメージする観光地のほとんどが同じように植林されて作り上げられています。そういう意味では日本に見るヤシの木達とあんまり変わらない」

——アメリカも人工なのに、展示を日本のヤシでまとめたのはなぜ?
 

山内「単純に日本のほうがどこか無理があって面白かった。今回の作品は、埼玉の深谷市でヤシの木の卸売をしている植木屋さんで撮影したのですが、海もない日本のど真ん中で、南国の象徴であるヤシの木を大量に育てて販売している。まさにこれが全てを物語ってます」

———日本でヤシが南国の象徴として広まったのはいつからなんですか?
 


山内「色んな説があるのですが日本では、第二次世界大戦後にアメリカの文化が入ってきたのが大きいと思います。日本に一番近いアメリカとしてのハワイがあり、お金持ちが旅行に行くようになり、ハネムーンはハワイ! 一生に一度は行きたい地上の楽園としてのハワイ! ということになった。恐らくその憧れはとてつもなく強いものだったのでしょう、常磐ハワイセンターを作ってしまうんですから。
日本は人工的に南国を作っても、土地がないのでどうしても周りの景色が見えてすぐ不自然さに気付くんです。
でもアメリカは広すぎてその境がわからないんですよね。ディズニーの話に繋がるんですけど、60年代にウォルト・ディズニーがフロリダの広大な土地を買い占めてディズニー帝国を作ったわけですが、その広さたるや異常で山手線の約1.5倍相当。テーマパークエリアとは別に、そこに辿りつくための道のり=プロローグを確保するためでもあったんです。建物も何も見えないハイウェイをひたすら車で走らせて、ディズニーとは関係ないホテルや遊園地から、ディズニーワールドという別世界への時間と距離を作るための土地になっている。その中に1994年にディズニーが作ったセレブレーションという街があって、端から見たら本当に取って付けた撮影セットのような嘘みたいな場所なんですけど、普通にそこで暮らしている人がいて、小中学校もあり、そこで生まれ育った子ども達にとってはそれが揺るがない日常になっている。フィクションのような場所でも私たちが地元を想う気持ちと全く変わらないんです」

Fiction6 NeoL Photography : Satomi Yamauchi | styling Yumi Nagao | Hair : Takao | Make-up : Yousuke Toyoda | Edit : Ryoko Kuwahara Fiction7 NeoL Photography : Satomi Yamauchi | styling Yumi Nagao | Hair : Takao | Make-up : Yousuke Toyoda | Edit : Ryoko Kuwahara Fiction8 NeoL Photography : Satomi Yamauchi | styling Yumi Nagao | Hair : Takao | Make-up : Yousuke Toyoda | Edit : Ryoko Kuwahara

——なるほど。フィクションであってもあまりにも自分の中に根ざしていたらそれは現実になりますしね。

山内「漠然とある私のテーマは、『その人が見て知っているものが世界の全てである』ということ。そこには共通するものもあれば、かなり個人差もあり、それが面白い。その極端なケースがディズニーの中で暮らしている人たちだなと思って撮っていきました」

——そのテーマは興味深いし、真理だと思います。自分が見ているものを、他の人も見ているとは限らない。視点が違うから同じ被写体でも違う写真が撮られるし、個々の違いが生まれる背景をわかっていれば違いを認め合えることができる。

山内「自分の地元が、70年代に山を切り拓いて、同じようなマンションが30棟くらいあってという場所なんです。小中学校があって、スーパーがあって、きれいに設計されている遊歩道や公園もあって、植物もちゃんと配置されていて。私はその中に放たれた子どもたちのひとりだったんです。箱の様なマンションを出入りして、設計士さんたちが『ここの子どもたちはこの公園に遊びに行くでしょう』という風にデザインした通りのところにまんまと遊びに行っていた。ディズニーが絡んでいるかいないかくらいで、フィクションの街であるということはあまり変わらない(笑)。作られているというとネガティヴにも聞こえるけど、コントロールされている分それだけ守られているから一定の平和もある。ハワイもフィクションの部分があるからきっと居心地がよくて、バカンスの地となり、そこからパラダイスの記号になるというのは合点がいく。リアルな大自然な場所で過ごすのはとても過酷なこと。整理された道があって、きれいに作られた景色やホテルがあって。だからこそのパラダイスというか。18世紀という大昔からパラダイスはフィクションであるということに行き着いたんです。    
私は、フィクションという作られたものと現実の狭間みたいなところに興味を持ってしまってますけど、もっと何も知らなかったら単純に幸せだろうなって思うときもある。そんなところに見向きもしないで、騙されながらも疑問もなくコントロールされている側の良さもあるなと」

Fiction9 NeoL Photography : Satomi Yamauchi | styling Yumi Nagao | Hair : Takao | Make-up : Yousuke Toyoda | Edit : Ryoko Kuwahara Fiction10 NeoL Photography : Satomi Yamauchi | styling Yumi Nagao | Hair : Takao | Make-up : Yousuke Toyoda | Edit : Ryoko Kuwahara

——“Post Palmtree”もまさにそういう展示でしたよね。作られた幸せを俯瞰から眺めるというレイヤー。人工物に対しての考察と肯定は、個人的に驚きと気付きをもらえました。

山内「ありがとうございます。そのパラダイスを象徴するヤシの木がいて、一つのモチーフとなり、私たちが追い求めるパラダイスが成立してしまう。一種の植物以上の役割を持っている、ヤシの木のそんな意味を込めて”Post Palmtree”というタイトルにしました。まぁ、パッとヤシの木の写真見て『なんかかわいい~』という風に見てもらえるだけでも充分嬉しいんですけどね(笑)」

——今回のシュートも箱の中と外の違和感を俯瞰で見て楽しんでいるような作品でした。

山内「そういう感覚は小さい頃からあって。今回のロケ場所は、都内のしかも駅前に作られた”外国の街並み”がコンセプトのハウススタジオなのですが。この場所も以前から個人的にとても興味深くて。NY風の壁、パリ風の建物、この角はロンドン風、というように所狭しとワールドワイドなセットが並べられていて、その1m真後ろにはもう東京の街並みがバレちゃっていて(笑)。でもこのほんの一角だけを切り取って外国が舞台のストーリーを作ろう! という感覚がとても面白いし、それはある意味とても写真らしいと思います。その一瞬だけを切り取って、その前後の実際は解らない。切り取った写真一枚から人は色々なことを想像して、その中の世界は無限に自由に広がっているというイメージ。目の前の出来事を、表舞台と舞台裏みたいな感じで俯瞰で見て想像するのが好きなんです。子供のころずっとプレイモービルで遊んでいたし、今もその感覚かもしれないです。世界を俯瞰で見ながらも、私自身もフロリダのアジア人Aだったし、川崎のニュータウンでも箱の中のひとりの子供だった。今も確実に自分に内在しているその視点を自覚しながら撮っていくんだと思います」

——作られたものと現実の狭間ということで言えば、最近のSNSに関しても同じことを感じるのですが、山内さんはSNSをどう見ていますか?

山内「みんなのリアルな日常をシェアするツールというていではあるけど、人に見せるという時点でリアル=ドキュメンタリーではなくなる。その人の視点があり、意図があり、編集があるから最終的にドキュメンタリーは存在しないと思ってます。モキュメンタリーですね。これはSNSに限らず、自分の作品にも言えることですし意識しています。しかもそれを世界中の誰しもが日常的に発信しているのがすごいことですよね。そしてそれは作品でもないのだから、終わりがない。更に日々のかなりパーソナルな感情が巧妙に絡んでいて、SNSはポップに見えてとても複雑で難解なモキュメンタリーだと思ってます」

Fiction11 NeoL Photography : Satomi Yamauchi | styling Yumi Nagao | Hair : Takao | Make-up : Yousuke Toyoda | Edit : Ryoko Kuwahara

photography Satomi Yamauchi
style Yumi Nagao
hair TAKAO
make-up Yousuke Toyoda
model Risa Bellak (Zucca Models)
interview & edit Ryoko Kuwahara

Fiction Photography : Satomi Yamauchi | styling Yumi Nagao | Hair : Takao | Make-up : Yousuke Toyoda | Edit : Ryoko Kuwahara
tank-top ¥18,000(without Tax) TARO HORIUCHI / Sister
jacket ¥81,000(without Tax) HYEIN SEO / MATT.
boots YOHEI OHNO

Fiction4 Photography : Satomi Yamauchi | styling Yumi Nagao | Hair : Takao | Make-up : Yousuke Toyoda | Edit : Ryoko Kuwahara
dress TARO HORIUCHI / HIRAO.INC
belt TARO HORIUCHI / HIRAO.INC
pants R.Y/S.H

Fiction6 Photography : Satomi Yamauchi | styling Yumi Nagao | Hair : Takao | Make-up : Yousuke Toyoda | Edit : Ryoko Kuwahara
brassiere SIRLOIN / MATT.
corset ¥48,500(without Tax) HYEIN SEO / CANDY
gloves YOHEI OHNO
accessories YOHEI OHNO
boots YOHEI OHNO

Fiction11 NeoL Photography : Satomi Yamauchi | styling Yumi Nagao | Hair : Takao | Make-up : Yousuke Toyoda | Edit : Ryoko Kuwahara
blanket ¥85,000(without Tax) BLESS / Sister
dress HIDAKA
belt Stylist’s own
boots YOHEI OHNO

Sister
http://sister-tokyo.com
CANDY
http://www.candy-nippon.com
HIRAO.INC
http://hirao-inc.com
R.Y/S.H
http://www.r-y-s-h.com
YOHEI OHNO
http://yoheiohno.com
MATT.
http://the-matt.com/

山内聡美
写真家。神奈川県生まれ。幼少期の8年間をアメリカで過ごす。2006年より都内スタジオ勤務/フォトグラファーアシスタントを経て、2009年よりフリーランスフォトグラファーとして活動開始。精力的に作品を発表する傍ら主にカルチャー、音楽、ファッションの雑誌/WEB媒体にて活動中。
Satomi Yamauchi
Photographer /Born in Japan, my early childhood years were in the United States. After completing a degree in studio work and working as an assistant photographer in Tokyo for 3 years, I started my career as an independent photographer. My work mainly appears in culture, music and fashion magazines as well as online media.
http://satomiyamauchi.net

celebration photography Satomi Yamauchi postpalmtree_02
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