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『ハチミツ』で知るスピッツのバンドとしての風格

スピッツが今年結成30周年を迎えた。7月5日には、CD3枚組に新曲3曲を含む全45曲収録した大ボリュームのシングル・コレクション・アルバム『CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-』を発表。すでにアニバーサリーの全国ツアーも始まっている。その楽曲が長きに渡って多くのリスナーに愛され続けている、国民的人気を誇るバンドのひとつであるがゆえに、もはやその解説も無粋であろうとは思うが、彼らの特徴を改めて語れるのも、こうした節目の年なればこそ。ブレイクのきっかけとなった6thアルバム『ハチミツ』を題材に、“スピッツとはどんなバンドであるのか?”という、今さら聞けない話題にあえて踏み込んでみた。
『ハチミツ』(’95)/スピッツ (okmusic UP's)
15年近くアリーナ公演を行なわなかった理由

スピッツ結成30周年記念となる全国ツアー『SPITZ 30th ANNIVERSARY TOUR “THIRTY30FIFTY50”』が7月1日、静岡エコパアリーナからスタートした。スピッツのアリーナツアーはこれが初めてではなく、2009年、2011年、2014年、そして今回と、これで4度目となるが、シングル、アルバムともに数々のミリオンヒットを持つ30年選手としては、このアリーナツアーの回数は極めて少ないと言える。作品の売上、その認知度だけを考えれば、スピッツはこれまでドームツアーを行なっていても何ら不思議ではないバンドであろう。ちなみにスピッツが日本武道館公演を初めて開催したのは2014年。今から3年前である。これを知った時、意外という感慨を通り越して、唖然としてしまった。もはやデビューから2~3年で武道館公演を実現するアーティストも少なくないのに──。彼らが初めてアリーナツアーの開催を決めたのはそれ以前だが、シングル「ロビンソン」が大ヒットした1995年から数えても、実に15年近く経ってからのことだ。アリーナツアーの解禁はライヴハウス、ホールではチケットが入手困難であったという理由からだそうだが、それだけならもっと早く決定しているはずで、そこには音響技術も関係していたのでは?と筆者は想像する。彼らが頑なにアリーナを拒んできたのは、広すぎる会場では観客との一体感を上手く作り出せないからだったと聞いた。その一体感とは、生歌を聴いた会場の全員が肩を組んで一緒に歌うようなものではなく、バンドサウンドをライヴでできる限り忠実に再現することで、それをオーディエンスと共有するといったものではなかったか。その昔は聴く位置によって音が変わるなど、大きい会場での音響は必ずしも良くなかった。つまり、PA技術、スピーカー性能がアップしたことで、アリーナ級の会場でもある程度、納得のいく音が出せるようになってスピッツはアリーナを解禁したのではないだろうか。実際、ここ10年間はフェスを含めて大規模な会場でのコンサートが増え、音のクオリティーは確実にアップしているとも聞く。まぁ、スピッツの真意は分からないが、彼らの作品にあるバンドアンサンブル、サウンドアプローチを聴くと、この仮説もそう的外れではない気はする。
問答無用、高水準のメロディー

ということで、その辺のスピッツ・サウンドの特徴を含めて、以下、アルバム『ハチミツ』を探っていこうと思う。まず、歌のメロディーからいこう──とか、意気込んだような前置きをしておいて何だが、草野マサムネ(Vo&Gu)の書くメロディーに関しては、少なくとも本コラムを読んでいるような音楽ファンにはもはや説明不要だろう。メロディアスでキャッチー。シングル曲として大ヒットしたM2「涙がキラリ☆」、M6「ロビンソン」、そして、シングル「涙がキラリ☆」のカップリングにもなったM4「ルナルナ」、シングル候補であったというM5「愛のことば」は文句なしで、それ以外も良質でポピュラリティーの高い歌メロばかりである。どこかノスタルジックで日本人の琴線を刺激する旋律でありつつも、だからと言って懐古的でもなく、複雑すぎず、単純すぎず、たとえマイナーなメロディーでもしっかりと抑揚があって、その上、伸びもある。聴いていて気持ちが良い。説明不要と言いながら、クドクドと書いてしまったが、そういうことだと思う。調子に乗ったついでに加えて言うなら、草野の声質と言葉の乗せ方も、その良質なメロディーをさらに秀逸なものに仕上がっていると思う。レンジが広く、シルキーなハイトーンを聴かせる一方で、低音域では独特の揺らぎを見せる天性の声。やわらかくも凛とした表情を見せるヴォーカリゼーションが歌をさらに立たせているのは間違いない。また、音符にしっかりと日本語を乗せている歌詞も目立つ。桑田佳祐や佐野元春のメソッドとは真逆というか、詰め込んだり、間延びさせたりせずに──こういうと若干語弊があるかもしれないが、誤魔化している印象がないのだ。日本語ネイティブにはメロディーがすんなり耳に馴染むメリットがあると思われ、これもスピッツの特徴と言っても間違いないと思う。この指摘が正しいか否かはみなさんの判断にお任せするが、いずれにしても、スピッツ最大のフック=掴みはそのメロディーであることは疑いようがないであろう。
ギタリストはバンドの最重要プレイヤー

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