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緊急上映会直前!ハル・ハートリーロングインタビュー

HARTLEY HFT SALES 028

『ヘンリー・フール』を三部作にするつもりはなかった

 
『ヘンリー・フール』より――『ヘンリー・フール』(1997)以降、一度映画作りをやめてしまったそうですが、なぜまた映画に戻る気になったんでしょう? 
 
ハートリー あの時はとにかく映画作りから離れたかったんだけど、いつか映画に戻ってくるだろうってことは自分でもわかってはいたんだ。僕ができる唯一の得意なことだからね。僕の初期の作品はどれも、恋に落ちた若者たちを主人公にしたメロドラマだった。最近は、腐敗した社会の中で葛藤する善人を描くことが中心になっていると思う。今も昔も道半ばな主人公を描くのが好きなのは変わってないけどね。
 
――それは、以前よりも社会や世界情勢に興味を持つようになった、ということでしょうか?
 
ハートリー そうだね。もっと意識的に描くようになったよ。とはいえ世界情勢のことはずっと気にかけていた。特に1998年からは、社会そのものに行く手を遮られたり、立ち向かったりするキャラクターを描くようになった。
 
――1998年というと、現代のNYに現れたキリストが葛藤する『ブック・オブ・ライフ』からでしょうか。
 
ハートリー うん。でも、くっきりとした境目があるわけじゃないんだ。『ヘンリー・フール』でも現実世界における政治や文化ビジネスのトリッキーな側面についても触れていたしね。
 
――『ヘンリー・フール』はあなたが続編を作った唯一の作品です。しかも2回も。あなたにとって特別な作品だったのでしょうか? なぜ、そしていつ三部作になると思ったんでしょうか。
 
ハートリー 『ヘンリー・フール』を作った時にはシリーズにするつもりはなかった。3年くらい後になって、僕はまたパーカー・ポージーと映画を撮りたいと思ったんだけど、僕も彼女もフェイのキャラクターをすごく気に入っていて、フェイを主人公にした映画を作ろうと決めたんだ。その頃の僕は、9/11以降のおかしくなってしまった世の中についても語ろうとしていて、その二つの要素が組み合わさった結果が『フェイ・グリム』(2006)だね。その時には、パート2を作るならパート3も作るだろうと考えていた。そして3作目はヘンリーとフェイの息子ネッドの話になるだろうとね。ネッド役の子役だったリーアム・エイケン(『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』)が成長して役者を目指してくれたことはラッキーだったね。
 
――もしリーアムが役者の道に進んでいなければ、3作目では演じる俳優が変わっていた?
 
ハートリー たぶん新しい誰かをキャスティングにしないといけなかっただろうね。でもリーアムとは一年に一度は会っていて、彼の成長も見守っていた。その頃には確か21歳になっていて、プロの俳優を志していたんだ。
 
――『ヘンリー・フール』のラストシーンで、ヘンリーはヨーロッパ行きの飛行機に向かって、自分の原稿を抱えて全力疾走します。今にしてみると、あなたが2000年代に一時期ヨーロッパに拠点を移すことを暗示していたようにも思えますが、ただの偶然でしょうか?
 
ハートリー うん、それはただの偶然だよ。あの頃の僕は、とにかく映画作りから離れて、新婚だった二階堂美穂とニューヨークで暮らしたいとばかり考えていたからね。
 
HARTLEY HFT SALES 015――どうして3作目のタイトルを『ネッド・ライフル』(2014)にしたのですか? ネッド・ライフルといえば長らくあなたのミュージシャン名でしたよね。ヘンリーとフェイの息子もネッドという名前だったわけですが、『ヘンリー・フール』の時からネッドを自分の分身のように思ってましたか?
 
ハートリー いいや。でも『フェイ・グリム』を書いた時に、3作目のタイトルは「ネッド・フール」でも「ネッド・グリム」でもなく、まったく新しい名前になるべきだと思ったんだ。
 
――「ネッド・ライフル」という名前をタイトルに選んだことにはどんな意味がありましたか?
 
ハートリー 結果的に、僕にとって一番パーソナルな作品になったよ。ネッドが持つ二面性、地に足を付けた人間でありながら、暴力的で反動的な思想家という特質は、僕自身のことでもあるなと思いながら脚本を書いていた。
 
SM003――『シンプルメン』(1992)でも“父親”のキャラクターは過激な社会活動家でした。その頃からあなたの二面性は作品に反映されていたのでは?
 
ハートリー そうかも知れない。僕は昔からラジカルな活動家たちの大ファンなんだけど、自分自身は暴力ってものにまったく耐えられない人間なんだよね。
 
――ある時期からネッド・ライフルという変名を使わなくなったのは何故ですか?
 
ハートリー ようやく自分の作る音楽に自信が持てるようになったんだよ!
 
――そもそもネッド・ライフルという名前はどこから思いついたんでしょうか。
 
ハートリー ネッド・ライフルは、学生時代に作文の授業のために生み出したキャラクターだったんだ。どの課題にもいつも同じキャラクターを登場させていた。同じ時期に西洋の映画史を学ぶ授業も取っていて、その授業のどこかにも彼が生まれる着想があったんだと思う。
 
――『ネッド・ライフル』にはマーティン・ドノヴァン、ロバート・バーク、ビル・セイジにカレン・サイラスまで出演していて、まるであなたのチームが再結成したみたいなキャスティングですね。
 
ハートリー 『ネッド・ライフル』は僕が30年間にわたってフィルムメーカーやストーリーテラーとして興味を持ってきたことの集大成なんだ。だから最初から一緒にやってきた人たちに関わってもらうのは、すごく自然な選択だったし、僕にとって大きな意味があったよ。
 
緊急上映会直前!ハル・ハートリーロングインタビュー――『フェイ・グリム』『ヘンリー・フール』とはまったく違うジャンルの作品です。体裁としては世界を股にかけたスパイ映画になっている。スパイ映画を一度やってみたいという気持ちがあったんでしょうか? それともジャンルはあくまでも描きたいテーマのためのツールだったのでしょうか。
 
ハートリー 僕の狙いは、2006年の時点での、最も平均的なアメリカ人像と世界の在り方について描くことだった。フェイのように善良あり、でも世界の情報に目を向けることがない一般市民を主人公にしてね。そのためにグリム一家を利用したとも言えるだろうね。
 

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