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「もう一度“あの場所”で遊びたいと思った」――『僕が殺した人と僕を殺した人』東山彰良さんインタビュー(前編)

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「もう一度“あの場所”で遊びたいと思った」――『僕が殺した人と僕を殺した人』東山彰良さんインタビュー(前編)

出版業界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』。

第90回目となる今回は、新作『僕が殺した人と僕を殺した人』(文藝春秋刊)が好評の作家・東山彰良さんです。

『僕が殺した人と僕を殺した人』(文藝春秋刊)は1984年の台湾と2015年のアメリカを舞台に、4人の少年たちの運命を描いたミステリーです。

2015年、アメリカで起きた連続殺人事件の犯人“サックマン”が逮捕された。そして、彼の弁護することになった敏腕弁護士は“サックマン”の正体を知っていた。その記憶は1984年夏の台湾にさかのぼる――。

嫉妬と友情、絶望と希望、そしてマイノリティの問題まで。直木賞を受賞した傑作『流』とのつながりも感じさせる本作は、かの名作『スタンド・バイ・ミー』を彷彿とさせるという声もあがる青春小説としても高い評価を得ています。

そんな『僕が殺した人と僕を殺した人』について、著者の東山彰良さんにお話を伺いました。

(インタビュー・写真/金井元貴)

『ベストセラーズインタビュー』アーカイブはこちらから

■『流』とのつながりを持った最新作『僕が殺した人と僕を殺した人』

――本作は1984年の台湾と、2015年のアメリカという2つのパートが交互に進行しながら、その2つの物語と人物のつながりが明らかになっていくという構成になっています。最初はどちらのパートから書かれたのですか?

東山:アメリカパートから書き始めて、次に台湾パートという形ですね。登場人物はまず核となるユンを作り、その次にジェイという人物を作りました。

――台湾パートでは兄を亡くしたばかりの優等生のユン(小雲)、不良だけど正義感の強いジェイ、そして牛肉麺屋の息子・アガン(阿剛)という13歳トリオと、アガンの弟であるダーダー(達達)が主人公格です。この4人を描く上でこだわりはありましたか?

東山:台湾パートは彼らが少年ということもあって、台湾の雰囲気をまとわせた魅力的な子どもたちにしたいと思っていました。それで、僕にとって魅力のある子どもっていうのはケンカが強かったり口が達者だったりするので(笑)その中でも、アガンを一番口が達者な子に描きましたね。

――口が達者な子どもたちを描きたかったのですか。

東山:僕が台湾にいた頃、周囲にいた大人たちはみんな口が達者だった気がするんです。僕自身が大人たちに物語をせびるような子で、彼らはそれに応えてあることないことを面白おかしく話してくれるわけですね。

自分もそういう大人になりたいと思っていたけれど、残念ながら口が達者ではありません。だから憧れなんですよね。

作家は一つの文章をねちねちと考えてから言葉に落とすという仕事なので、即興的にポンポン面白いことが言える人には羨望の眼差しを注いでいます(笑)。

――13歳トリオのユン、ジェイ、アガンはそれぞれ個性豊かですが、ご自身が一番近いと思う人物は誰ですか?

東山:3人の中だとユンでしょうね。台湾時代のユンはジェイに対して憧れを抱いていますが、それはジェイの不良少年らしさに対する憧れだと思うんです。僕自身も不良少年に対する憧れを持っているので(笑)、ユンと重なるんでしょうね。

――台湾パートは1984年が舞台です。この「1984年の台湾」に対して東山さんはどんなイメージを持たれていますか?

東山:そのころの僕はちょうど高校1年生で、日本に住んでいました。当時は夏休みになると台湾に帰っていたので、台湾というと夏の印象が強いんです。

**――夏の台湾ではどのように遊んでいたのですか?

東山:(笑)思春期でしたからね。この作品にも出てくるんですけど、当時違法営業の地下ディスコみたいなものがたくさんあって、年上の従姉たちに連れていってもらったことがあります。あれは大人になれた感覚がありましたね。

――それは刺激的な体験ですね。

東山:刺激的でしたよ。いつ警察の手入れがあるか分からないというドキドキ感もありつつね(笑)。

――そういった原体験を踏まえて1984年に時代背景を置いたのですか?

東山:それもあるのですが、以前執筆した『流』のストーリーが終わるのが1984年頃なんです。今作はその続きくらいから始めようというところで、構想が浮かびました。

『流』は僕が生まれ育った台北の廣州街という場所が舞台だったのですが、その街を小説のなかで遊ぶ楽しさを知ってしまったんですよ。だからもう一度あの場所で遊びたいと思った。それが元になって出来たのがこの『僕が殺した人と僕を殺した人』なんです。

ただ、『流』の主人公は17歳から始まるんですが、その年齢くらいになると女の子に対する興味など色々な要素が入り込んでくる。少年たちだけで物語を完結させたいとなると、13歳くらいがちょうどいいんですよね。それで13歳のユン、ジェイ、アガンが生まれたというわけです。

――では、この作品は『流』の続編というような感じなのでしょうか?

東山:同じ街を舞台としているし、微妙につながりを持たせてもいますが、続編という感覚はないですね。別の独立した作品です。

■『スタンド・バイ・ミー』『少年時代』などの青春小説から影響

――本作の前半は台湾パートが核になり、後半は2015年のアメリカパートが核になります。アメリカという国が本作のシンボリックな部分を受け持っているようにも感じますが、なぜアメリカが舞台なのですか?

東山:これはいくつか理由があります。まずは台湾って親戚がアメリカにいる人がすごく多いんですよ。何かあったときに海外に頼れる人がいるという保険をかけているんです。僕の家族も半分くらいはアメリカに移住しています。だから、台湾の状況を表現する手段としてアメリカがあったわけです。

もう一つは、僕らは子どもの頃から好む、好まないに関係なくアメリカの文化に触れてきています。だからイメージしやすい。実際に僕はアメリカに行ったことがないのですが、アメリカに対するイメージは浮かびます。そのイメージが正しいかどうかは関係なく、イメージで書ける場所ということで設定しやすさがありました。

――「連続殺人鬼」という猟奇的な事件もアメリカならばしっくりきます。

東山:そうですよね。そういうイメージに合致させたところはあります。

――アメリカではなく日本を舞台にすることは考えなかったのですか?

東山:なるほど。それはなかったですね。読者が日本人であると想定したときに、遠い異国で起きた設定にすれば、ある種のリアリティをもって受け止められるのではないかと思っていました。実際にフィクションであり、サックマンも存在しないわけで、日本を舞台にすると、よりフィクション性が強くなるような気がしますね。

――本作に関するレビューを読むと、物語をスティーブン・キングの名作『スタンド・バイ・ミー』に重ねる読者も多いようです。実は私も読後感が似ていると思いました。

東山:『スタンド・バイ・ミー』もそうですし、ロバート・マキャモンの『少年時代』、ジョー・R・ランズデールの『ボトムズ』、あとはスウェーデンの作家のミカエル・ニエミが書いた『世界の果てのビートルズ』といった青春小説はもともと好きなので、その影響が累積しているのかもしれません。

――『スタンド・バイ・ミー』は映画でも高い評価を得ています。東山さんは『ありきたりの痛み』というエッセイ集で映画評を書かれていましたが、映画からヒントを得ることはないのですか?

東山:作品の執筆というところでいうと、実は小説を書き始めた頃は「映画みたいな小説を書こう」と思っていたんですよ。映画化されるような小説を書きたいとか、映画に関する仕事もしてみたいということを、デビュー当時は考えていた気がします。

ただ今は心境の変化があって、映像化しやすい作品が良い作品だとはかぎらないんじゃないかという気持ちがあります。映画化するときに最初に削られちゃう部分に小説としての栄養があると思っていて、そこを丁寧に書くことがおそらくは文章にしかできないことではないかと。

――つまり、文章しか表現できないことですね。

東山:そういうことになりますね。その世界でしか通じない一言なり、突き抜ける一言が書ければ良いと思っています。

(後編へ続く)

■東山彰良さんプロフィール

1968年台湾生まれ。5歳まで台北で過ごした後、9歳の時に日本に移る。福岡県在住。2002年、「タード・オン・ザ・ラン」で第1回「このミステリーがすごい!」大賞銀賞・読者賞を受賞。2003年、同作を改題した『逃亡作法 TURD ON THE RUN』で作家デビュー。2009年、『路傍』で第11回大藪春彦賞受賞。2013年に刊行した『ブラックライダー』が「このミステリーがすごい!2014」第3位、第5回「AXNミステリー闘うベストテン」第1位となる。2015年、『流』で第153回直木賞受賞。2016年、『罪の終わり』で第11回中央公論文芸賞受賞。

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