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「社会的意義がない」と、3カ月準備した新規事業案をボツにされる【20代の不格好経験】~株式会社ispace COO 中村貴裕さん

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今、ビジネスシーンで輝いている20代、30代のリーダーたち。そんな彼らにも、大きな失敗をして苦しんだり、壁にぶつかってもがいたりした経験があり、それらを乗り越えたからこそ、今のキャリアがあるのです。この連載記事は、彼らの「失敗談」をリレー形式でご紹介。どんな失敗経験が、どのような糧になったのか、インタビューします。

リレー第23回:株式会社ispace COO 中村貴裕さん

トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社代表取締役 中西敦士さんよりご紹介)

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1980年生まれ。東京大学大学院で惑星科学を修了後、大手外資系コンサルティング会社に就職。コンサルタントとして6年間活躍した後、大手情報サービス会社に転職し、新規事業開発を担当。2015年2月、世界初の民間による月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」に日本から唯一挑戦しているチーム「HAKUTO」を手掛ける株式会社ispaceに参画。

(会社概要)

ispaceは、民間月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」に日本から唯一参加するチーム「HAKUTO」を運営。同レースのミッションは、まず月面に純民間開発の月面探査機を着陸させること。そして着陸地点から500m以上走行し、指定された高解像度の動画や静止画データを地球に送信すること。これを最初に達成したチームに優勝賞金2000万ドルが与えられる。ispaceでは2017年12月にロケット打ち上げの予定。

失敗を機に、「宇宙ビジネスで新しい産業を作ろう」と考えるように

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ispaceで現在挑戦しているのは、「Google Lunar XPRIZE」という民間月面探査レース。「HAKUTO」というチームを組み、このレースでトップを取ることを目指しています。そしてその後は、宇宙に関する知識とノウハウ、そして優勝賞金2000万ドルを元手に「宇宙ビジネス」にチャレンジ、全く新しい産業を創出することを目標としています。

私は大学、大学院と惑星科学を専攻し、ずっと宇宙に関する研究に没頭していたのですが、当時は宇宙を「ビジネス」として捉えたことはありませんでした。

周りの大半が、そのまま研究者の道に進みましたが、私は社会に出てさまざまな学びを得たいと思い、コンサルティング会社に入社。コンサルタントとしてがむしゃらに働く中で、いつしか宇宙のことは頭から消えていました。

再び「宇宙」に関わるようになったのは、2010年のこと。大学時代の友人の紹介で、ボランティアとして「HAKUTO」に参加したのがきっかけです。コンサルティングの仕事だけに没頭していた日々でしたが、宇宙への思いが呼び起され、気持ちが高揚しましたね。ただ、当時はまだ、「宇宙ビジネスにチャレンジしよう。新しい産業をこの手で生み出そう」などとは思っておらず、「プロジェクトをいかに成功させ、レースに勝つか」ばかりを考えていました。

そんな私の考えが変わったのは、2011年に転職した大手情報サービス会社での失敗経験がきっかけでした。

配属先は新規事業開発部門。「テーマは何でもいいから、新しい事業を生み出す」がミッション。ビジネスの芽を見つけては、調査を進めて企画を練り上げる…という日々を送っていました。

しかし、3カ月もの間、準備に準備を重ねて役員にプレゼンした企画案が、あっけなくボツになったんです。そのとき言われた言葉が、「お前の事業プランはきれいにまとまりすぎている。マネタイズはできるかもしれないけれど、大義や社会的意義が感じられないし、お前の思いも伝わってこない」

この言葉に、私は衝撃を受けました。6年間のコンサルタント経験から、データ分析は得意でしたし、論理的思考や合理的な判断、そしてプレゼンテーション能力にも自信を持っていました。そして、ニーズがありそうで、かつマネタイズができるのであれば事業として十分成り立つと思っていました。自分では気づかなかった穴をズバリ指摘され、目が覚める思いでしたね。

「社会的意義」を第一に考えるようになったのを機に、新規事業が軌道に

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このときに出した企画案は、住み替えをしようとしている人たちに、新居で必要になるものをまとめて提供するというサービス。住まいを変えるタイミングでは、家具や家電、自動車などを買い替える人が多く、社内に蓄積されたデータを見ると支出金額も大きい。ここにビジネスチャンスがありそうだと考え、データ分析を何度も重ねたうえでプレゼンしたのですが、このサービスで何が解決できるのか、顧客にどう喜んでもらえるのか、社会に与える意義は何か…という視点はありませんでした。そもそもカスタマーヒアリングすらしていなかったのです。

それからは、大義や社会的意義を第一に考えるようになり、いくつかの新規事業を立ち上げることができました。

思い出深いのは、介護関連ビジネス。何百人という高齢者、介護をする家族にヒアリングを行い、高齢者住宅や有料老人ホームに対して当事者が「負」のイメージを持っていることに気付き、これらのイメージを改善することで、「高齢者住宅や老人ホームに入居するのはライフサイクルの一つと捉えてもらいたい」との思いを大事に、事業化を進めました。

ある高齢者にヒアリングしていたところ、「老人ホームに入ったら、もう年賀状が出せなくなる」とぽつりとこぼしました。自分の住所を、書きたくないからです。高齢者の方々に、そんな悲しい思いはさせたくない、第二のステージとして捉えられる世の中を作り出したい…と心底思いました。

その思いを、メンバーに共有することで、プロジェクトのモチベーションが向上。結果、上司や会社はもちろん、顧客やクライアントにも支持していただける事業を開発することができました。

宇宙資源の開発と、宇宙生活基盤の確立で、人々の生活を豊かにする

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今の私の目標は、宇宙をテーマに新しい産業を生み出すこと。実現を目指している世界観は、大きく2つあります。

一つは、「資源開発」。月には貴重な鉱物資源のほか、最大約60億トンもの水が存在すると言われています。水は、水素と酸素に分解することでロケットや気象衛星や通信衛星の燃料の燃料になるため、将来の宇宙開発に欠かせない貴重な資源です。宇宙輸送が容易になるうえ、測位情報や通信情報などを供給するインフラも安定します。

また、月にあるシリケートというケイ酸塩は、ソーラーパネルの原料になります。太陽のエネルギーは無限。宇宙空間に太陽光発電の装置を設置できれば、エネルギー問題は地球規模で解決することができます。

宇宙に燃料ステーションができると、宇宙輸送にイノベーションが起こります。例えば、衛星は地球から約3万5000キロにある静止軌道を回っています。月から静止軌道までは約35万キロありますが、地球の重力が強すぎるため、地球から燃料などの資源を持っていくより、月から持っていくほうが、コスト的には100分の1で済みます。月の資源開発を進めることは、経済合理性も高いのです。

もう一つは、「宇宙を人類の生活圏にする」こと。将来的には、月は誰でも気軽に行ける旅行先になるでしょう。そのためには、月面に生活基盤を作ることが求められます。

夢物語に思われるかもしれませんが、地球上で行っていることをそのまま月で行えばいいのです。例えば石油や天然ガスは、地質調査や重磁力調査などで場所を探査し、発掘して貯蔵して販売するという流れになっていますが、これらは月での資源発掘にそのまま転用できます。ゼネコンやプラントメーカー、総合商社など、ノウハウを持っている日本企業は多く、宇宙資源開発において優位に立てるはず。

その宇宙資源開発の発端を、ispaceという日本のベンチャーが担う。我々の働きにより、新しい産業が生まれ、「日本の存在」をグローバルにアピールすることに意義を感じています。

どんな仕事でも社会的意義と思いを大切にすれば、成功確度も上がる

私は2035年~40年には、月に生活基盤ができていると予測しています。宇宙資源開発が進み、人々の生活がより便利に、潤うようになる。週末に、誰もが気軽に、月に旅行に出かけられるようになる。「月で生活し、月で働く」が当たり前になる…そんな未来を想像し、ワクワクしています。

こういう思いや視点を持ち、自分の仕事にワクワクできるようになったのは、前職での失敗のおかげ。この経験から、どんな仕事をするにしても、社会的意義と自身の思いは一番大切にすべきだと思っています。仕事に対するモチベーションが高まり、決して途中で心折れることはありません。上司や会社はもちろん、周りの人を巻き込み、協力を仰ぎやすくなるので、成功する確度も上がります。

また、選択に迷ったときには、経済的リスクと、精神的リスクを考えて、「どちらのリスクならば取れるか」を考えれば、おのずと道が見えてくる、とも思っています。

私は1社目、2社目と大手企業を経験しました。私は幸いにして、やりたい仕事に思う存分没頭することができましたが、大手は経済的に安定している一方で、任される範囲が狭まる、何をやるにしても上司の承認が必要になりスピード感に欠ける、などのリスクもあるでしょう。

ispaceはまだ小さなベンチャーであり、経済的リスクはあるかもしれません。しかし、宇宙の果てしない魅力に触れながら、新しい産業をこの手で作れる喜びは何物にも代えがたいもの。ジョインしなければ精神的リスクが大きいと考え、大手の安定を捨て、2015年にispaceに飛び込んだのです。

経済的リスクと、精神的リスク、どちらを取るのが正解ということはありません。どちらを取るにせよ、岐路に立ったときには自分の思いに忠実に、次の一歩を踏み出してほしいですね。

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭

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