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メガストラクチャーの宇宙、遠未来の悪夢

メガストラクチャーの宇宙、遠未来の悪夢

 伊藤計劃の原作をアニメ化する「Project Itoh」とのタイアップが成功したせいかどうかわからないけれど、早川書房のSFラインがいろいろ面白いコラボレーション企画を仕掛けている。本書は、弐瓶勉の漫画『BLAME!』の設定を借りて、5人の作家がオリジナル・ストーリーをつくるという、シェアード・ワールド・アンソロジーだ。『BLAME!』は弐瓶さんのデビュー作(もとは短篇として描かれた)にして、初期の代表作(長篇化して全十巻、現在は新装版で全六巻)であり、今年5月に劇場アニメが公開された。無秩序かつ無限に増殖しつづける遠未来の超構造物(メガストラクチャー)世界を舞台にしている。

 通常のだんどりなら、まず、おおもとの漫画を読んだうえでこのアンソロジーに取りかかるところだろう。しかし、あえて原作にふれず、いわば白紙の状態で収録各篇を鑑賞してみようと思いたった。そのほうが物語の強度やSFとしての堅牢性をただしく計れるからだ。

 ……というのは建前で、まあ、座興のようなものですね。作者のみなさんのお手並み拝見くらいの軽い気持ち。

 しかし、読み進むうちに、そんな座興気分は吹きとんでしまった。5人の作家はまったく手加減をしていない。活字SFを読みなれていない漫画読者向けに、語彙や表現を緩和したり、アイデアや設定を感覚的にわかるように調整するのではなく、ガチで小説書いている。それぞれの持ち味を思いきり発揮している。

 酉島伝法「堕天の塔」は、例によって異様語彙・異様生態系・異様景観の三拍子揃ったテキストで、描かれているものごとだけではなく空間そのものが歪んでいるかのような、独自のゴシック宇宙を創出してしまう。この作風をいいあらわす言葉はないものかといつも考えるのだけど、なかなか適当なのが見つからない。崇高美(サブライム)と鳥肌(サブイボ)のあいだくらいの感じなんだが。

 これは、月の発掘に携わっている作業員たちの物語だ。「月での発掘」ではない、「月の発掘」だ。メガストラクチャーに囲まれている月を掘りおこすのだ。「俺さ、三日月ってのを、いつか発掘してみたいんだ」「三日月? それは満月の中に収納されているんじゃないのかな」なんて会話がさらりと出てくる。

 伝説によれば、太古の無階層空間には、満月や三日月など形態の異なる十二の月が存在し、極大の見えない円周上に並んで、茫洋とした時空の流れに刻みをつけていたという。

 さて、発掘作業中に事故が起こり、十七階建ての作業塔が十三階で分断されて上層四階が、大陥穽と呼ばれる竪穴に吸いこまれて落下をする。生存者五十人は底に激突する前に脱出しようと試みるのだが、うまくいかない。そのうえ、竪穴の壁面(メガストラクチャーによって構成されている)を観察していると、無限にループしているようなのだ。

 作業員たちは記録用に緊急保存パック(「モリ」と呼ばれる)を携えている。モリは失われたテクノロジーの産物であり、何度もデータを上書きしてリサイクルされていた。そのうちの一台がたえず意味不明の独り言を呟いている。物語が進むうちに、それがじつは語りかけであり、モリには会話性能があるとわかってくる。

 そのモリはいう。

「何を言っているんだい。君だって僕じゃないか「覚えているだろう? 僕は当時のありとあらゆる階層に足を踏み入れたものじゃないか「歩き渡ったものじゃないか「それらはまだ目の前に広がっているよ「ほら、構造物たちの定礎数列だって感じられるだろう?」

 モリの初期人格は地図測量師だったらしい。ちなみに、引用した台詞で文節に”「”が挟まるのは、異常な空間のなかに声が響いているからだ。

 モリの正体(君だって僕じゃないか)と地図測量の記憶が、謎を解くカギとなる。もちろん、この世界全体がすべてわかるわけではない。一端がちらりと見えるだけだ。その一端から、世界の途方もないスケールや複雑な成りたちが実感できる。

 メガストラクチャー世界において地図作成が重要な事業であることは、飛浩隆「射線」でも言及される。

 厄災のあと、全地球を覆い尽くした無秩序な建設と、超構造体(メガストラクチャー)による遮断のため、世界の地理は失われた。人間社会は分断され小さな局所世界に蟄居させられている。人類の再興を期すならば、ネットスフィアの回復とともに、地理と交通を掌握しなければならない。
 その両方を達成するためには、サイボーグ探査体は悪くないツールだ。推定耐用年数はゆうに一千年を超える。その時間こそが武器になる。世界を徒歩で移動したほうが、基底現実の立体的な地理と生活情報を収集できる。

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