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なぜ音楽療法でBPSDが緩和するのか

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音楽療法がBPSD軽減につながる理由

「音楽療法の後は、気持ちが穏やかになります」
「終わった後は、身体がポカポカしている」
「帰宅願望のある人が落ち着きました」

これらは、介護施設で行う音楽療法を通した利用者の変化です。音楽療法のセッションが終わると、それまで激しかった帰宅願望や徘徊が落ちつく傾向があります。一体なぜなのでしょう。今回は、音楽療法とBPSDの関係についてお伝えしたいと思います。

BPSDとは

BPSDとは、認知症に伴う行動・心理症状を表す“behavioral and psychological symptoms of dementiaを略です。具体的には、
怒りっぽくなる
妄想
幻覚
うつ
不安
異食
徘徊
帰宅願望

など多岐に渡る症状があります。多くの場合、BPSDの原因を探ることはできても、確実な原因を特定することは難しいとされています。
【関連記事】認知症の症状と種類 押さえておきたい基礎知識

しかし私は、音楽の力でBPSDが改善した例を実際にいくつも見ています。以前の記事(幻覚が消えた!音楽療法で蘇る認知症高齢者の悲しい記憶)では、戦争体験を思い出し、興奮する男性についてのお話を書かきました。彼の場合は、音楽療法の活動を通して、トラウマだった戦争体験が過去のことだと再認識できたため、幻覚が消失したと考えられます。では、なぜ音楽療法はBPSD軽減に効果的なのでしょうか?

治療するぞと気負う時ほど、BPSDは改善しない

不思議なもので「帰宅願望をなくそう」、「徘徊の気をそらそう」と思って音楽療法を実践してしまうと、狙い通りにならないケースが多いです。やはり、認知症の方の空気を察する力はすごいな、と感じます。認知症の方を対象とした音楽療法を行うとき、私は次のようなことを心がけています。
過去を回想すること
情動に働きかけること
自発的な発言や行動がでてくるように働きかけること
ご本人の成功体験につなげること
お互いに楽しむこと

この中で私が一番大事だと感じるのは、最後のお互いに楽しむことです。よく「どこで叩いたら良いのかわからない」「いつ鳴らしたらいいの?」という質問を耳にします。みなさん、最初は失敗をとても恐れるんですね。しかしそうした問いには、「いつでも大丈夫です!失敗しても恥ずかしがることはありません。嫌だったら鳴らさなくても大丈夫ですよ。」と声をかけます。

最初は控えめに音をだされているのですが、進めるうちにピアノの伴奏や他の方の演奏の勢いに乗せられ、演奏時の身体の動作が大きくなります。次第に呼吸をするタイミングが合い、歌の声が重なってきます。すごーく気持ちの良い一体感が、その場には生まれます。音楽療法の効果が発揮される瞬間です。

BPSD軽減に、なぜ音楽療法は効果的なのか

私は、音楽療法の場が治療の枠を越えた〝自分らしくいられる場〟であるからこそ、BPSD改善の効果を発揮するのだと考えます。音と音のコミュニケーションで成り立つ音楽療法では、基本的に言葉で指示することはありません。ですが不思議なことに、スタッフの合図がなくてもぴったりと揃ったり、余韻を残して演奏が終わったり・・・。時には、最後にポコっと太鼓の音が聞こえたり・・・と様々な結果が生まれます。時には感動が起き、笑いが起き、余韻にひたる・・・。

楽器を担当していた方は、ご自身の役割を果たしたように感じるでしょう。歌を歌っていた方は、勢いにのまれ、深く呼吸をして、大きな声をだし、すっきりとするかもしれません。聞いていた方、歌っていた方は、懐かしさを感じて感傷的になることも・・・。

そして、どんな思いも、どんな行動もすべてが正解です。活動に参加することは、自然と〝自分自身を解放し、表現すること〟につながります。ご利用者様が出した音や声、コメントをしっかりと受け止めて対等な立場で一人の人間として音や声、言葉で返す。だからこそ、自分を受け入れてもらった安心感が生まれます。こんな体験を共有することこそが音楽療法の本質です。

その人らしさを発揮できる経験がBPSDを抑える

認知症ケアやBPSDに効果のあるケアとして〝その人らしさ〟を尊重してケアを行おうというトム・キッドウッドの提唱したパ-ソン・センタード・ケアという考え方があります。認知症で昔と今のつながりが分からない不安が強い方に対して〝今〟が心地よく感じられるように全てを肯定して関わるという内容で、音楽療法に通じるところがあります。
【参考記事】認知症介護でパーソン・センタード・ケアを実施する方法とは

音楽療法は音楽教育ではありません。上手な演奏を目指すのではなく、その人の発する音、リズム、発言をすべて受け入れ、〝その人らしい〟音楽を目指すのです。

セッションの後、「気持ちが晴れやかになった」「懐かしかった」「また来てね」とおっしゃって下さるご利用者様の声と笑顔こそが私の原動力です。そして、その光景を見ているスタッフがつられて一緒に笑ったり、歌ったり、演奏をしたり・・・と楽しめる現場こそが相互に良い効果を生む、〝ケアの本質〟だと思います。相手を理解しようとすることこそが、お互いに笑顔でいられることにつながり、BPSDが一時的にでもなくなる糸口になるのではないでしょうか。

この記事を書いた人

小森亜希子

大学、大学院と音楽療法について学んだ後、認知症対応型グループホームに勤務。認知症の方とのコミュニケーションの取り方や終末期について多くのことを学び、音楽が様々な記憶と結びついていること、気持ちを落ち着かせるために有効であることを実感。認知症介護実践者研修、認知症介護実践者リーダー研修を終了。現在、介護老人保健施設で介護業務に携わりながら、音楽療法の効果をケアに結びつける具体的な手段を模索中。同居しているアルツハイマー型認知症の祖母(96歳)と出かけることが日課。【保有資格】日本音楽療法学会認定音楽療法士、介護福祉士

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