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音楽を愛する先生と子どもたちの物語〜リュイス・プラッツ『虹色のコーラス』

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音楽を愛する先生と子どもたちの物語〜リュイス・プラッツ『虹色のコーラス』

(a)美しい音楽によって、荒れていた生徒たちがやる気をみせるようになる
(b)熱意を持った教師によって、荒れていた生徒たちがやる気をみせるようになる
(c)熱意を持った教師が美しい音楽を指導することによって、荒れていた生徒たちがやる気をみせるようになる

 以上は、これまでに何度も映画や小説において我々が鑑賞してきた黄金パターンである。進研ゼミのダイレクトメール漫画以上に先の展開が読めるにもかかわらず、こうした映画や小説は人々の心を揺さぶってきた(少なくとも私の心は常に揺さぶられてきた)。本書の主人公は女性教師のコリニョン先生。フランス人で、「背は高くも低くもなく、太っても痩せてもおらず、醜くも美しくもなかった」。定年を目前にして、バルセロナの裕福な家庭の子どもたちが通う山の手地区の小学校から、生活水準も教育水準も低いラバル地区の小学校へ異動させられることになった。40年ほどの教師生活で、彼女が教えていたのはフランス語と音楽。つまり、この小説は(a)と(b)の複合型である(c)のパターンとなっている。黄金パターンの中でも最強のものといえよう。

 コリニョン先生が初めて新しい小学校に着任したとき、クラスはバラバラだった。生徒たちは落ち着きがなかったり、協調性がなかったり、そもそもあまり言葉が通じなかったりした(そのクラスにはいろいろな国籍の子どもがいたのだ)。それまで勤めていた山の手の小学校とは大違い。しかし、コリニョン先生はあきらめなかった。

 現在はどうなのかはっきりしたことはわからないのだが、欧米では教師の地位は概して低いものだと聞いたことがある(最近では日本もあやしいが。モンスターペアレントの急増は、教師への敬意が低下しているという要因抜きには説明しきれないと思う)。そんな状況において、移民先の風習を受け入れる柔軟さを説いたり、必要な援助が得られていない貧しい家庭のため役所に働きかけたりと、生徒のみならずその家族ごと支えようとするコリニョン先生のなんと温かく崇高なことか。そして、彼女が最も子どもたちに伝えようとしていたのが、音楽の素晴らしさ。そんな彼女の働きが、少しずつ周囲の人々に影響していく。

 初対面の子どもたちに彼らが知っている歌を歌わせ、シュトラウスやモーツァルトの曲を聴かせ、近くにある大劇場のリハーサルの音に耳を傾けさせる。そういった経験によってみるみる変わっていく子どもたち。コリニョン先生は、コーラス隊を結成することにした。さまざまな肌の色の子どもが集う、〈虹色のコーラス〉隊を。子どもたちは歌が、そしてコリニョン先生が大好きになった。しかし、順調に進み始めたかにみえた活動に、思いもよらぬできごとが…。

 私は文学を愛しているが、何ものも音楽の持つ力にかなわないことは認めざるを得ない。本は言葉がわからなければ楽しむことができないが、音楽だったらたとえ知らない国の歌でもすんなりと心に響いてくる。意味もわからないビートルズやマイケル・ジャクソンの歌詞を聞こえた通りに口ずさみ、それでも心浮き立つ思いをしたことがある人は多いだろう。決して甘いだけの物語ではないのだが(コリニョン先生のかなしい恋のエピソードもやはり、音楽に彩られた記憶である)、それでも音楽で結ばれた人々の絆は色あせることはない。出版社のサイトによれば、著者はスペイン文化省賞の受賞者であるそう。確かに教育的な内容であり文化省などのお役人方に好まれそうな本ではあるが、「堅苦しい本はちょっと」と敬遠せず手にとってみていただきたい。No music, no life.

(松井ゆかり)

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