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全米1位に輝いたリンダ・ロンシュタットの『悪いあなた』はウエストコーストロックの最大の成果のひとつ

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『悪いあなた(原題:Heart Like A Wheel)』がリリースされたのは1974年の終わり頃。当時はロックとポップス、R&Bとカントリー、フォークとジャズなど、違うタイプの音楽は互いに牽制し合い、複数のジャンルをまたいで聴くリスナーはまだまだ少なかった時代である。リンダ・ロンシュタットはシンガーソングライター・ブームの真っ只中にいたのだが、珍しく自分では曲を書かないタイプのシンガーであった。しかしながら、彼女の“良い音楽”を聴く耳は素晴らしく、カントリーであろうがR&Bであろうがフォークであろうが、カバーした曲は多岐のジャンルにわたる。今でこそアメリカーナ音楽の認知度は高くなっているが、本作こそ70年代に登場したもっとも初期のアメリカーナ作品である。そんなわけで、今回はリンダ・ロンシュタットの名前を世界中に知らしめた『悪いあなた』を取り上げる。
『Heart Like a Wheel』(’74)/Linda Ronstadt (okmusic UP's)

70年代に誕生したウエストコーストロック
72年、イーグルスのデビューシングル「テイク・イット・イージー」は、カントリー風味を効かせた新たなスタイルのロックとしてリリースされた。それまでにもアメリカ西海岸を中心に活動していたバーズをはじめ、フライング・ブリトー・ブラザーズ、ニュー・ライダース・オブ・ザ・パープル・セイジ、ニッティ・グリッティ・ダート・バンドなど、カントリーとロックをミックスした所謂カントリーロックのグループやシンガーはいたのだが、熱心なファンを除いて世界的な注目を集めることは少なかった。それがイーグルスの「テイク・イット・イージー」の世界的なヒットによって、カントリーロックは大きな脚光を浴びることになる。
僕がこの曲を最初に聴いたのは中学3年生だった。みのもんた(彼はその昔、ラジオでロックのDJをやっていた)の『カムトゥゲザー』という番組で、イーグルスがニューカマーとして紹介されていて、めちゃくちゃ好きになった。次の日、レコード店でこのシングルを入手し来る日も来る日も聴き続けた。さわやかでアーシーなそのサウンドは、紛れもないカントリーロックであったのだが、それまでのものと比べるとロックフィールにあふれているというか、明らかに新しいサウンドであった。彼らのサウンドセンスの良さもあって、イーグルスのデビューアルバム以降(もう少しあとかもしれない…)、アメリカ西海岸産のカントリーロックを“ウエストコーストロック”と呼ぶようになる。

リンダ・ロンシュタットのバックバンドとしてのイーグルス
イーグルスが結成されたのは、リンダ・ロンシュタットの3rdソロアルバム『リンダ・ロンシュタット』(‘72)のバックを務めるために集められたことがきっかけであった。もちろん僕は「テイク・イット・イージー」が好きになって、それから後追いでイーグルス前史を調べ始めたのだが、その時に出会ったのがアルバム『リンダ・ロンシュタット』で、さかのぼって彼女のアルバムを2枚目…1枚目と買っていった。特に3枚目はジャクソン・ブラウン、ニール・ヤング、エリック・カズ、エリック・アンダースンなど、当時注目されていたシンガーソングライターだけでなく、カントリーとR&Bの著名曲を取り上げるなど、冒頭でも述べたように、当時は珍しかったジャンル超えを軽々とやってのける彼女の選曲には驚いたものである。
イーグルスがバックを務めた『リンダ・ロンシュタット』は、それまでの彼女のどの作品よりもロック感覚に満ちていて、それはやはりイーグルスの力量に負うところが大きかったのだと思う。そして、彼女はキャピトルレコードから新興レーベルのアサイラムレコード(以前、このコーナーで紹介したジャクソン・ブラウンの『レイト・フォー・ザ・スカイ』にアサイラムレコードについて触れているので併せて読んでください。http://okmusic.jp/topics/111236)へと移籍、イーグルスのデビューアルバムに勝るとも劣らないウエストコーストロックの名作『ドント・クライ・ナウ』(‘73)をリリースする。友人のイーグルスやジャクソン・ブラウンらが開拓した新たなサウンドを、ロンシュタットはこの作品で自分のものにしている。収録されたナンバーは、ウエストコーストロック・クラシックの「ラブ・ハズ・ノー・プライド」をはじめ、イーグルスの「デスペラード」、フライング・ブリトー・ブラザーズの「コロラド」などで、歌も演奏もゴキゲンなものだった。このあと、このアルバムを超える作品を生み出すことができるのか、僕はそんなことを心配していたが、そんな心配は無用であった。
以前在籍していたキャピトルレコードはロンシュタットがアサイラムに移籍する条件として、もう1枚キャピトルからアルバムをリリースすることになっていたので、次のアルバムは変則的にキャピトルから出されることになった。その作品こそが、彼女のキャリアの中でもベストの出来栄えとなる『悪いあなた』(‘74)なのである。

本作『悪いあなた』について
本作はロンシュタットの5枚目のソロアルバムで、初の全米1位を獲得している。前作の『ドント・クライ・ナウ』も秀作であったが、本作はより黒っぽく、サウンドプロデュースが緻密になった分、アルバム全体がパワーアップしている。シングルカットされた「悪いあなた」(これも全米1位で、ソウル曲のカバー)が強力だというのもあるのだが、ウエストコーストロックにとどまらず、ポップス感覚に富んでいるのも大きな人気を博した理由だろう。
また、オールディーズヒットの「When Will I Be Loved」や「It Doesn’t Matter Anyhow」、サザンソウルの「Dark End Of The Street」に新たな息吹を加え、これらをリバイバルヒットさせることで、新たなファンを獲得したことも大きい。もちろん彼女の出自でもあるカントリーの名曲「I Can’t Help It」や「Keep Me From Blowing Away」を取り上げることで保守的なカントリーファンにも支持されるなど、黒人音楽のファンに白人音楽を紹介し、白人音楽ファンに黒人音楽を紹介するという、これまでにない取り組みが当たったのだ。これも、レコード会社が提示した小賢しい策略などではなく、ロンシュタット自身が本当に好きな歌を歌っているという、ストレートな気持ちがリスナーに伝わったと見るべきだろう。
収録曲の白眉とも言えるのはカナダのフォーキーな姉妹グループ、ケイト&アンナ・マクガリグルの「Heart Like A Wheel」(これが本来のタイトルトラック)とカントリー系のソングライター、ポール・クラフト作の「Keep Me From Blowing Away」の2曲で、彼女の表現力がこのアルバムで最高を迎えたことが分かるほどの名唱だ。また、リトル・フィートの代表曲のひとつで、故ローウェル・ジョージが書いた名曲「Willin’」での演奏、ウエストコースト・カントリーロックのひとつのテンプレートになっているぐらい、素晴らしいアレンジになっている。
バックを務めるのは、後にソロシンガーとしてブレイクするアンドリュー・ゴールドをはじめ、イーグルスからグレン・フライとドン・ヘンリーが参加。他にも、エミルー・ハリス、マリア・マルダー、デビッド・リンドレー(ジャクソン・ブラウンの相棒と呼んでもいい名ギタリスト)など、西海岸を代表するミュージシャンばかり。
本作は以降の女性ロックシンガーのお手本になったばかりか、ボニー・レイットやマリア・マルダーなどの大物シンガーにも影響を与えている。このアルバム以降、ロンシュタットはアメリカを代表する歌手のひとりとなり、多くのメガヒットを生むことになる。ただし、僕の考えでは彼女の絶頂期は70年代で、6th『哀しみのプリズナー(原題:Prisoner In Disguise)』(‘75)、7th『風にさらわれた恋(原題:Hasten Down The Wind)』(’76)、8th『夢はひとつだけ(原題:Simple Dreams)』(‘77)、9th『ミス・アメリカ(原題:Living In The U.S.A)』(’78)までは文句なしの出来である。80年代に入るとニューウェイヴを意識し、プロフェッショナルさを求めるあまり、僕には彼女のしたいことが見えなくなってしまった。まだリンダ・ロンシュタットを聴いたことがないという人は、ぜひこのアルバムを聴いてみてほしい。

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