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信じられるものがなくなった時代に必要なこと ブロガー・ちきりん<インタビュー「3.11」第6回>

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ブロガーのちきりん氏

 おちゃらけ社会派ブロガーとして、オリジナルな視点から、主に時事問題について意見を発信しているちきりん氏。ブログ『Chikirinの日記』は月間150万PVを超えるほどの人気を博している。2011年は『ゆるく考えよう』(イースト・プレス)、『自分のアタマで考えよう』(ダイヤモンド社)の2冊を上梓し、さらには『BLOGOS Award 2011』大賞に選ばれるなど大活躍の年だった。

 ちきりん氏は自らを”混乱ラバー”と称しており、昨年3月11日の東日本大震災直後のブログエントリーで「これは日本が変わるチャンスだ」と語り、ネットでも話題となった。そのブログの真意、あるいは震災によって我々日本人が直面したこと、これから直面せざるを得ない問題などについて話を聞いた。

・東日本大震災 3.11 特集
http://ch.nicovideo.jp/channel/311

(聞き手:神田桂一)

■東日本大震災は「東京」を当事者にした

――東日本大震災は日本にどんな影響を与えたのでしょうか?

 今回の震災について、明治維新や終戦と並ぶ日本の大きな転換点なのかどうかという命題があります。転換点だと捉えている方には猪瀬直樹・東京都副知事がいらっしゃいますし、違うという意見もあります。私も猪瀬副知事と同様に、日本の社会が曲がり角だという意味では、タイミングとして、そうかなって思うんです。個人の生き方とか、エネルギー問題とか、働くということとか、今までの価値観がひっくり返った部分もあるという意味では確かに、この震災は明治維新以来、終戦以来かもしれない。

ブロガーのちきりん氏

 一方で、明治維新はもう二度と起こりませんよね。まぁ、違う形では起こるかもしれないけど、あれはあれで一回ですよね。終戦も一回性の出来事です。だけど今回起こった震災・津波・原発事故は、10年20年以内にもう一回同じことが起こったとしても、別に全然不思議じゃない。日本は地震国なんだから、むしろ地震に関して言えば、起こると思っておいた方がいいだろうと。

 だとすると、「もう一回起こるかもしれないことを、そのほかの出来事と同じように捉えるのはどうなの?」とも思います。つまり、「震災がまた起こるかもしれない。その時に向けて、私たちはどう生きるの?」的なことが問われていると言えるんです。「もう一回起こるかもしれない」って考えたとき、人間の生き方って変わるんですね。それに備えて、それを前提として「この人生どうしよう?」って考え始めますから。

 特に今回、非常に意味があると思ったのは、東京に大きな影響が出たことなんです。これは阪神淡路の震災を含め今までの災害と大きく違うところで、東京の人みんなが歩いて帰らなくちゃいけなくなるほどの巻き込まれ方となった。しかも、それだけで終わらなくて、その後一週間くらい”買いだめ”みたいなパニック的状況があって、「何これ?」「私たちこんなにバカだったの?」みたいなことが次々と起こったわけですよね。それが続いて、東京の水道水が汚染されてるということで、今度は「原発から逃げ出すかどうか・・・東京からも逃げ出すべきだろうか」という議論が起こりました。

 日本には災害は多いですが、とにかくここまで東京が当事者として巻き込まれたという意味では、それこそ終戦以来かもしれないんですね。ここが私はすごく大きな違いだと思っているんです。

■「自己決定」が日本を変えるきっかけになる

ブロガーのちきりん氏

――当事者となった東京の人々に、意識の変化のようなものはあったのでしょうか?

 実際に東京の人は何を考えるようになったのか。色んな人に会って話を聞いたところ、一つは”自己決定の重要さ”を理解し始めたことが分かりました。例えば、災害が起こった時点で「自治体が『逃げましょう』って言っているから逃げます」じゃなくて、「私は逃げるのか、どうか?」を自分で決定する必要があるんだって思うようになった。野菜にしても「『国は大丈夫だ』って言っているけど、我が家は食べるのか?」って、自己決定しなくちゃいけなくなった。

 要は、”マスコミ”と”お上”っていう、日本人が最も強固に信じていたものが信じられなくなったということなんです。その指示を待っていては、自分の命・家族・財産が守れないと分かった。ここがものすごく大きな進歩かなと私は思います。

 就職にしろ、結婚にしろ、子供を持つか持たないか、どこで働くのか、家を買うのか買わないのか、っていうような人生においての諸々のことに対して、自己決定の認識をみんなが持つように刷り込まれたら、実際の行動が変ってくるかもしれない。それが非常に大きいんじゃないかなって思います。

 メディアに関しても、NHKが「避難してください。台風です!」って言っているから逃げるのではなく、国から「お金が出ます」って言われたから逃げるのでもなく、一人ひとりが判断できる、判断しないといけないとみんなが気が付く、そんな時代に入るとしたら、それは地味だけど日本が変わるきっかけだと思います。

■メディアリテラシーよりも「自分がどういう生活を選びたいか」

ブロガーのちきりん氏

――自己決定していかなければならない時代になると、メディアリテラシーや判断能力など、そうした能力・スキルが問われてくるのではないでしょうか?

 メディアリテラシーに関しては、スキルの高い方もいるし、低い人もいます。しかし私は、重要なのはそこじゃないと思っているんですよね。何よりも大事なのは、みんな自分が何をしたいか分かっていないってことなんです。

 やりたいことが違うと、基準もそれによって違うはずなんですよ。「どう生きていきたいか」とか「何がしたいか」によって自己決定は左右されるんであって、「噂を噂だと見分けられるかどうか」っていうスキル問題ではないと思うんです。

 例えば、もし東京に放射性物質が降り始めたとわかったら、このまま東京でキャリアを続けるのか、もう仕事を辞めて地方に行くか、海外に行くか、みんなが迫られますよね。その時に必要になるのはメディアリテラシーではなくて、「自分にとって何が大事で、どういう生活を自分は選んでいきたいのか」っていうことです。そっちが分かっていないと決められないと思うんですよ。

 今の放射能問題に関しても、何がストレスなのかも人によって違うじゃないですか。放射能汚染が怖い人もいるし、それを気にすることのストレスが怖い人もいる。自分が望んでいるのが「放射能汚染のない生活」なのか、「不安を感じない生活なのか」ってのは、実は全然違うことなんです。そこがわからないと、ニュースの真偽なんて見分けられても意味はないかもと思います。

■東日本大震災はシステムをゼロから作り直すチャンスだった!?

ブロガーのちきりん氏

――ちょっと話は変わるんですけど、ちきりんさんが震災直後に、ブログで「これはシステムを一から作り直すチャンスだ」のようなことを書かれた真意を教えてください。

 誤解を恐れずにいえば、今の日本にとって社会が壊れるのは、すごく有利なことなんですよ。壊したくても壊せなくて、みんな困っているわけだから。大阪市長の橋下さんみたいな、めちゃめちゃな人が現れないと壊せない。壊せないから変われないんです。

 だから、震災で壊滅的な被害を受けたときに、「町作りという意味ではむしろ有利な面もあるかも?」と思ったんです。ゼロから作り直していけるってことは、まったく新しい環境を作っていけるんじゃないか、と。

 ところが、現地の被災者の情報がいろいろと入ってくると、実は大半の人は「あのころの生活を取り戻したい」と思われるっていうことが分かってきた。あれだけの被害を受けると被災者などは、前に進む気持ちにはなかなかなれない。そして、「あのころの生活に戻りたい」と気持ちがどうしても強くなる。昔に目標を追ってしまう。「あのころの生活、震災までの生活を取り戻す」というのが目標になってしまうわけです。当事者で「これはチャンスだ」という考えられる人はほとんどいないですよね。

 すると他のエリアの人は、「本人たちがそっち側に行きたいんだったら、やっぱりそっち側の方向に協力すべき」って話になる。しかし、壊れたときに、戻すことをゴールとするのか、前に進むことをゴールとするのか。どっち側にリーダーが旗を振るのか、そこは判断が難しいところですよね。

ブロガーのちきりん氏

――でも、結構あっさりと元に戻っちゃいましたよね。

 あの時、最速で元に戻ったのが企業だと思うんです。これはすごく重要なところです。基本的に、企業は市町村よりも早くから動いていたと思うんですけど、彼らにとって災害復旧っていうのは、元に戻すこと以外の何ものでもないんです。それで、あの震災、あの3月11日に潰されたものを、必死で元に戻したんですよ。2ヶ月、3ヶ月で、人が足りないのに必死で戻した。だからいま多くの大企業がへたばっちゃってるわけですけど。

 去年はそこに追い打ちをかけるようにタイの洪水もあった。それで、さらにもう一回、流されたモノを元に戻そうとしているわけです。

 企業や産業が、そういう修復型の考え方のままなので、「町も元に戻そう、地域も元に戻そう」という話になる。「元に戻すのがホントにいいのか」って、本当は考えないといけないことだと思うんです。だけど被災者の気持ちに寄り添うために、それができなくなってる。被災者の方が「あの頃の生活に戻りたい」と思われるのは当然です。だけど、復興の大きな方針は、必ずしも「戻す」ことだけじゃないはずなんです。

 まぁ、でもこの辺については「仕方ないよね」的な考え方があって・・・。日本ってその辺は何も変わっていないなと思うところはありますね。

(了)

◇関連サイト
・Chikirinの日記
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/
・東日本大震災 3.11 特集
http://ch.nicovideo.jp/channel/311

(聞き手:神田桂一)

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