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もはや「非産運用」? 「資産運用」にメスを入れた森金融庁長官の狙いとは

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もはや「非産運用」? 「資産運用」にメスを入れた森金融庁長官の狙いとは

2015年9月、金融庁の森信親長官は「金融行政方針」を公表し、「企業・経済の持続的成長と安定的な資産形成」を最重要テーマに掲げた。これは、金融庁史上初めての方向転換であった。

共同通信社の経済記者・橋本卓典氏が丹念な取材を元に執筆し、ベストセラーとなった新書『捨てられる銀行』(講談社刊)は、森長官の掲げた「企業・経済の持続的成長」にフォーカスした一冊で、大反響を呼んだ。

その第2弾として4月に出版された『非産運用 捨てられる銀行2』(講談社刊)は、もう一つの最重要テーマ「安定的な資産形成」について切り込んだ一冊である。

実際に「資産運用」という言葉はごくごく身近に転がっている。銀行の窓口では「資産運用のお考えはありませんか?」などと聞かれることもあるし、インターネット上でその手のウェブコラムを目にすることもある。しかし、この言葉は相当にクセモノであることが、本書を読むことが理解できるだろう。著者が「はじめに」で書いているこんな文章が物語る。

実際に取材をしてみると、とにかく資産運用は分からないことが多すぎる。資産運用会社に販売会社、パッシブ運用にアクティブ運用、独立系に金融グループ系、何が正しいのか。いや果たして正解はあるのかどうかも、今なお筆者には定かではない。

譬えるなら、登山ルートがまったく分からない険しい山といったところだろうか。筆者は、この山をどう登ったものか、思案に暮れている。

(書籍P10より引用)

取材しても分からないということは、その「現場」にいる人間たちも分からないということだろう。

そんな資産運用にメスを入れ、健全性を高める施策を打ったのが森信親長官だった。彼が問題視をしていたのは、「金融機関は、顧客のためになるサービスの提供が本当にできているのか」という部分である。

著者はそれまでの状況をサッカーに例えて次のように説明する。

選手(金融機関)が、常に審判(金融庁)の吹くファウルの笛ばかりを気にしてプレーするゲーム。これが、今までの金融庁と金融機関の関係だった。

(書籍P30-31より引用)

プレー中に審判が笛を吹くのは、何かしらのペナルティがあったときである。逆にファウルにならなければ何をやってもよい。ファウルにならない限りは、自分たちの目先の利益を優先し、目標達成ばかりにこだわる。このような姿勢では、健全なサービスを提供できるはずがない。

著者は取材を進める中で、ある地銀の女性テラー(窓口の仕事を行う人)の悩みを聞いている。彼女は窓口で顧客に保険商品や投資信託を売っているが、本当にこの商品をお客さんに売ってよいのか、と思い悩みながら日々窓口に立っているというのだ。

最前線の行員が「このような手数料の高い商品は売りたくない」という言葉を漏らすのだから不健全だ。ならば、行員が自分の判断で顧客に最適な手数料の低い商品をすすめればいいのではないか、という考えも出てくるだろう。良心を持っているならば、個人がそこに従えば良いのではないか。

ところが、そうもいかないカラクリがある。というのも、テラーの判断で顧客に最適な手数料の低い商品を売っているだけでは、個人の目標は達成できたとしても、支店の業績評価が伸びない制度設計になっているというのだ。著者は「実に巧妙だ」とつづる。組織の中の人間である以上、組織が評価されなければ罪悪感を抱くというのが人の心というものだ。だから、支店の業績に貢献できる商品をつい優先してしまう。

「資産運用ビジネス」はもはや限界を迎えていることが分かる。本部からは達成すべき数字だけをあてがわれ、現場は工夫して収益をあげるも、売っている商品が本当に顧客のためなのかは分からない。本書の第2章「ニッポンのヒサンな資産運用」で明かされている、著者の元に届いた、ある地銀の支店長からのメールは一読の価値があるだろう。

これが現実なのだと考えれば、森長官が「安定的な資産形成」を最重要テーマに置き、改革に乗り出したのも頷ける。

では、その改革はどのようになされるか。本書の最重要キーワードの一つが「フィデューシャリー・デューティー」である。英語にすると、Fiduciary Dutyとなる。日本語に訳すると「受託者責任」。しかし、金融庁は「真に顧客本位の業務運営」と定義する。

この「フィデューシャリー・デューティー」の説明は本書の核の一つとなる部分なので、ぜひとも読んで知ってほしい。金融マンはもちろんのこと、資産運用を考えている人、そして資産運用を始めようとしている人にとっても頭に入れておくべき情報である。

資産運用は一部の人たちだけの言葉ではなく、もはや誰もが考えなければいけないものになっている。老後の生活等を考えた上で若いうちから運用をはじめる人もいるだろう。では、まともな資産運用ができているだろうか? もしかしたら「資産運用に非ず」――「非産運用」になってはいないだろうか? 考えさせられる一冊だ。

(新刊JP編集部/金井元貴)

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