【大論争】どうなる? どうする? 飲食店のタバコ問題

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仕事帰り、なじみの居酒屋さんで生ビールを一口。

そして、いつものタバコに火をつけて一服。

あー、労働後の一服はたまらないねぇなぁーなんて人も多いかもしれないが、

こんなことができなくなる日がもうすぐやってくるかもしれない……。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、飲食店におけるタバコのルールが大きく変わろうとしている。2017年3月1日、厚生労働省は、他人のたばこの煙を吸わされる受動喫煙防止策を罰則付きに強化する健康増進法改正案の骨子を発表し、年度内での国会提出および可決を目指している。

この中でもっとも注目されるのが飲食店での喫煙だ。その内容は、30平方メートル以下のバーなどに限って例外として喫煙を認めるが、レストランや居酒屋さんなどは屋内禁煙(喫煙専用室の設置可)とするというもの。悪質な場合、施設管理者に最大50万円、そればかりか、たばこを吸った本人に同30万円の過料が科される。

また電子タバコは、まだ正確な研究結果が示されていないことから禁煙の対象外となっている。

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※厚生労働省WEBサイトより引用

近年、ファミリーレストランやファストフードといった大手チェーン店をはじめとして分煙がかなり進んではいる(分煙効果判定基準策定検討会報告書のように分煙自体も意味がないというデータもあるが)。

しかし現状では、居酒屋さんや中小の喫茶店や食堂の中には分煙すら行われていないお店が少なくない。このような状態であるのだから、完全禁煙を定着させようというこの改正案は今、飲食業界に大きなインパクトを与えている。すでに各マスコミやネット上ではカンカンガクガクと、賛成と反対双方の意見が噴出しているのだ。

いったいぜんたい、何が良くて何がダメなのか。賛成派、懸念派(慎重派)それぞれの声を拾ってみた。

全面禁煙は減収につながるのか

まずコンサルタントで有名ブロガーの永江一石氏にお話しをうかがう。

ネットでは「全面禁煙推進派の急先鋒」との呼び声も高い永江氏は、自身のツイートやブログでことあるごとにタバコの害を唱えている。

ホテルに禁煙ルームがあるように、電車にも非喫煙者車両作ってほしい。すごい体臭の喫煙者が隣に来ると吐きそう— Isseki Nagae/永江一石 (@Isseki3) 2017年3月15日

タバコの受動喫煙で年間6800人死んでる。もうこれ、傷害罪適用でいいんじゃない?受動喫煙で年間6800人が死亡 厚労省研究班 | 最近の関連情報・ニュース | 一般社団法人 日本生活習慣病予防協会 https://t.co/8E9hfmTxMY— Isseki Nagae/永江一石 (@Isseki3) 2017年2月12日

タバコ臭いカーテンや服からは有害物質が出ているという大学の研究のエビデンスがある。タバコ臭い人はいまそのとき吸ってなくても歩く有害物質でもある。— Isseki Nagae/永江一石 (@Isseki3) 2017年3月15日

www.landerblue.co.jp

── 禁煙推進派の永江さんとしては「遅すぎる」と思われたかもしれませんが、今回の改正案をどのように評価されていますか?

「厚労省案に反対しているのは主にサラリーマンの行く居酒屋さん、飲み屋さん、喫茶店とかだと思うんです。店内の喫煙を制限していないお店ですね。彼らは『この改正案が実施されるとお店がつぶれてしまう』と主張しますが、そんなことはないですよ。例えば飛行機はどうですか。全面禁煙になったけど、誰も乗らないかというとそんなことはないでしょ。海外旅行に行くために機内で10時間我慢できるわけです。だったら、飲食店で食べる間ぐらいは一瞬のことですからね。みなさん我慢できるはずなんですよ。タバコが吸えないから飲食店に行かないという人がいるのなら、それはもうニコチン中毒。病院に行ったほうがいい」

── 全面禁煙化すると、それまで常連だった喫煙者が来なくなって経営が傾くのではとの懸念もあるようです。

「お店での喫煙をやめちゃえば経営が傾くんじゃなくて、逆に今まで来なかった家族連れとか主婦層とかの女性客が増えるはず。私自身だって行きたいけどタバコ臭いから行かないお店、いっぱいありますよ。お店に入ってタバコ臭かったら出ますもん。だからね、トータルで見た場合にはマイナスになるはずがないんですよ。統計上では、今や世の中の2割しか吸わないわけだから」

── ご自身がコンサルタントを手がけられた会社のひとつで、禁煙化を計ることで業績不振からV字回復した実績があるそうですね。

「湘南で釣り船を経営されている一俊丸のことですね。かつては儲かっていたんだけど、10年ぐらい前からお客さんが激減して、経営の相談を受けたんです。私がアドバイスしたのは『客層を入れ替えましょう』ということ。今の若い人は、タバコ臭いと来ない。車もない。でもスマホは持っている。だから、マイクロバスで迎えに行って、船にスマホの充電器をつけて、さらに船内の客席は禁煙にしましょうと言ったんです。実際には他にもウェブサイトを充実させたりしたんですが、みるみる成果が表れました」

── 話を戻します。改正案が成立すれば、多くの個人店はどうすべきでしょうか?

「今の状況を鑑みるに、遅かれ早かれこの法案は通るだろう、と私は読んでいます。一方で指導を受ける側の飲食店とすれば、法案が決まるまでグダグダで、いざ施行された直後から禁煙というふうにしても店内に煙のにおいが残っちゃいますから、手遅れなんですね。そうなるよりは早く決断して、お店の雰囲気を早く変えたほうが得。現に、禁煙を売り物にして業績を急激に伸ばしているチェーン店がでてきていますよ。味に自信があるんだったら早くやったほうがいい。居酒屋さんだったら女性用のメニューを出すとか。いくらでもやり方はあると思うんです」

喫煙の可否をステッカーで表示

外食産業関連団体では最大規模を誇る日本フードサービス協会(以下、JF)に話を聞いてみた。この団体に加入しているのは、正会員、賛助会員を合わせて800社以上。ガスト、すかいらーく、ロイヤルホスト、松屋、吉野家、サイゼリヤ、マクドナルド、ケンタッキーフライドチキン、モスバーガー、ジョイフルなど、有名な外食チェーンはこの協会にほぼ加入している印象だ。JFの石井滋氏にご回答いただいた。

── 今回の受動喫煙対策の問題で、加入している店舗からはどんな意見が寄せられますか?

「禁煙・分煙・喫煙といった飲食店環境をホームページなどインターネット上で、または、ステッカーなどで表示したいので、こうした取り組みをサポートしてほしいという意見が圧倒的に多いですね。実際、飲食組合の中には、自主的にステッカーを制作しているところもあります」

── この法案が施行された場合、飲食店はどのような影響があるんでしょうか?

「ファストフード店やファミリーレストランなどについては、完全禁煙または分煙という形で取り組みが進んでいます。一番影響をこうむるのはパブ・居酒屋さんや喫茶店、そして、中小の店舗です。一部のお店では、空気がお客様のところに流れないようにするエアーカーテンですとか分煙室という形で設備投資して対応しているところもあるのですが、厚労省案が施行された場合、そうしたお店の自主的な努力が無駄になってしまう可能性があります」

── 法案が可決して施行された場合、お店が経営的にやっていけなくなったりすることはありますか?

「ファミリーレストランのケースになりますが、2010年に神奈川県で受動喫煙防止条例が施行されたときに禁煙に踏み切ったチェーン店がありました。その際、一時的にはお客様の来店数が減ったり売上が下がったりしました。しかしその3カ月後ないし半年後、日にちを経るごとにファミリー層やお子様連れのお客様が増え、売り上げが上がったという例もありました。新たな顧客層を取り込んだ成功例ですね。たださきほど申し上げたように居酒屋さん、喫茶店などはなかなか厳しいと思います」

── 法案に賛成している論客は「全面禁煙にしても売り上げは落ちない」との主張ですが、それについての反論は?

「たとえば海外ではテラスや外でたばこが吸えます。イギリスでは、パブでお酒を飲みながら、タバコが吸いたくなったから外に行ってくる、ということが可能です。今の厚労省案というのは、屋内でもダメ、テラスなどの外でもダメという厳格なものですから、じゃあ喫煙者はいったいどこでタバコを吸うの? という話になってしまいます。諸外国の調査をあてはめて、厚労省の規制強化案においても売上の変化はないという根拠にはなり得ないのではないでしょうか。厚労省案がそのまま通ってしまった場合、どのぐらいマイナスの経済効果があるのか。民間のシンクタンクが、試算したところ8400億円という損失が予想されるという試算を出しています(下記リンク参照)」

www.nikkei.com

── やはりこの点は大きな論点になりそうです。厚労省案に関して、対案はありますか?

「自民党たばこ議員連盟からは、禁煙・分煙・喫煙というこの3種類の区分をステッカー等で表示を義務づけるという案が出されています。小規模な店舗ではインターネットで自分のお店を紹介したりすることはなかなかやっていない。そうすると自分のお店の喫煙環境をお客様にお知らせするのはステッカーの提示というのが一番効果的だと思います」

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喫煙者も楽しく飲める社会を

日本居酒屋協会は「居酒屋業界のネットワーク化」を強め、全国各地の居酒屋さん、飲食店経営者が、いつでも他の飲食店経営者と情報交換ができるネットワークを構築している業界団体(会員100社、店舗は約3000店舗)である。

その日本居酒屋協会の事務局長をつとめる稲村サチコ氏に今問題についてお話をうかがった。

── 法案に賛成する論客は「全面禁煙化は減収にはつながらない」と言っていますが、反論はありますか?

「ありません。落ちるお店は落ちますし、落ちないお店は落ちません。これは法案だけのことではありませんから」

── 分煙を提案するのなら、それを個々のお店がどのようにして進めていけばいいのでしょう?

「2020年は東京オリンピック・パラリンピックもありますし、飲食業界としては何らかの対応が必要だとわかっています。とはいえ、完全分煙は難しいですよね。新規のお店は最初からそこを意識して、設計できるかもしれません。ただ、それができるお店も限られると思います。経営者にしてみれば、同じ家賃なら席数が多い方が望ましいわけですし、完全分煙することにより席数が減ってしまうからです。ですので、もし法案が通ったら、多くの飲食店は禁煙にせざるえないと思います。しかし、そうなればがっかりされる愛煙家のお客様がおられるでしょうね」

── 具体的な方策はお考えでしょうか?

「いずれにしても繁華街に喫煙者のためのスペースを設置したり、外で食事をして楽しめる環境を作ってあげるべきだと思います。それを飲食店だけに強いるのには無理があるのではないでしょうか。世の中の変化、環境の変化、喫煙者の減少など、いろんな要素が絡んでくると思いますが、道でタバコを吸って歩く人は許されて、お店でタバコを吸うことを悪とするのもおかしいですし、今後どのように対処するのか、国はきちんと明確にすべきと思います。自治体で行っている罰金もいい加減ですしね。タバコを吸う方もお酒を楽しく飲めるようにしたいですね」

線引きを明確にしてほしい

最後に、千葉県内で小さな洋風居酒屋を営む個人経営者にもこの法案についてどう思うか聞いてみた。気の利いたBGMと、手頃な料金設定のこのバーは地元の民に人気で、店内は喫煙OK。

ちなみに、オーナーは以前喫煙者だったが、現在はタバコを吸わないという。

── 法案についてはご存じでした?

「あんまり詳しくは把握していないですね」

── 全面禁煙になった場合、喫煙者が来なくなるという不安も聞かれますが。

「法律が変われば従うしかないし、店側的にもたとえばもっと女性向けのメニューを増やしたり、いろいろと手を打つべきかなとは思いますね。実はこのお店を始めるときも、禁煙にするかどうかかなり悩んだんです。分煙なんてできるスペースはないし。ただ、家ではタバコが吸えないからお店へ吸いに来るお客さんも確実にいるのが分かって、いまは喫煙OKにしていますね」

── バーや居酒屋さん、スナックは喫煙OKにするかどうかが焦点のひとつになっていますが、その線引きが微妙のような気がします。

「確かに、施行するのであれば、線引きを明確にしてほしいなというのはありますね。全面禁煙なら徹底的にやらないと意味がないと思いますし。曖昧な取り決めでは、お店もお客さんも戸惑ってしまうんじゃないでしょうか」

── もし全面禁煙になった場合、喫煙者のお客さんはどうすると思います?

「みなさんお酒も好きなので、来てくれるとは思いますよ。どうしてもタバコが吸いたいお客さんは店先で吸ってもらうしかないですよね。灰皿を置くスペースを確保しようと思っています」

世の中は確実に禁煙の方向に向かっている。

著者自身タバコを吸ったことがほとんどなく、こうした流れは基本的に歓迎したい。しかし「体に悪いから」「周囲に不快感を加えるから」といって、喫煙者だけにツケを押し付けたり、喫煙者のニーズにこたえてきたお店ばかりが割りを食うというのは理不尽な気がする。

また、喫煙という人類が長年にわたって続けてきた習慣をなくすということに割り切れなさを感じるのも確かなことだ。

※この記事は2017年5月の情報です。

書いた人:西牟田靖

西牟田靖

1970年大阪生まれのノンフィクション・ライター。多すぎる本との付き合い方やそれにまつわる悲喜劇を記した「本で床は抜けるのか」(本の雑誌社)を2015年3月に出版。代表作に「僕の見た大日本帝国」「誰も国境を知らない」など。 Twitter:@nishimuta62

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