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分譲を終えた住宅地で事業主が住民とカフェづくり。その狙いとは?

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分譲を終えた住宅地で事業主が住民とカフェづくり。その狙いとは?

一戸建ての分譲地では販売が終わった後は事業主がかかわり続けることはあまりない。販売終了後に収益はほぼ生まれないため、次の分譲地へヒト・モノ・カネを投じるからだ。売りっぱなしと言われることもあるが、ビジネスとしては当然とも言える。

ところが首都圏郊外にある住宅地で、販売後に事業主と住民が協力して販売センターだった店舗をカフェにリノベーションをしたという。しかも、1年近く住民と販売センターをどう活用するかを話し合うという、面倒とも思える道のりを経てだ。なぜ取り組んだのか、取り組んだ先に見えてきたものはなにか、そのプロセスとともに取材をしてきた。

200人以上が参加! 街のこれからを話し合う「光葉町ミライ会議」で支店をカフェにすることに

その分譲住宅地は、千葉県野田市光葉町(こうようちょう)にある。東京駅から電車で約1時間、東武アーバンパークライン(東武野田線)・七光台(ななこうだい)駅を降りると広がる「パレットコート七光台」だ。ポラスグループで分譲事業を展開する中央グリーン開発が手掛けた総戸数1035棟の大規模住宅地である。

取り組みの舞台となったのは中央グリーン開発の旧千葉支店。千葉支店は事業拠点として2004年の分譲開始から2014年の分譲事業終了まで、街にとけ込むように分譲地に位置していた。販売終了に伴い、千葉支店が南流山へ移転することになり、役割を終えた事務所は取り壊され、5区画の分譲地となる予定だった。【画像1】中央グリーン開発の旧千葉支店(画像提供/中央グリーン開発)

【画像1】中央グリーン開発の旧千葉支店(画像提供/中央グリーン開発)

街の誕生から10年間成長を見守ってきた旧千葉支店。住民からの「出ていってしまうのは寂しい」といった声が多くあがったことや、社内スタッフの「5棟を分譲して終わりでいいのだろうか、愛着があるこの街をよりよくしたい」といった想いから、旧千葉支店の活用検討がはじまった。まずは住民と一緒になにが必要かを考える場として2015年11月に住民参加型ワークショップ「光葉町ミライ会議」がスタートした。

光葉町ミライ会議は2015年11月から2016年7月まで全7回行われ、延べ200人以上の住民が参加した。第1回から第4回までの会議を通して、光葉町には徒歩圏で行けるカフェや飲食店がなく、ママ友やご近所さんと気軽に集まっておしゃべりする場がほしいという声が多くあがり、旧千葉支店をコミュニティカフェとして再活用する結論にたどり着いた。

第5回、第6回の会議からは具体的に実現に移すべく話し合いが行われ、6月にカフェを担う事業者の公募を実施。7月に応募のあった4者のなかから事業者が決定した。

まわりの声が聞こえないほど盛り上がる会議。住民自身が主体となって話す

筆者が初めて光葉町を訪れたのは2016年7月23日。光葉町ミライ会議の第7回を見学するためだ。「住民参加のワークショップと言っても、住民は積極的に発言するのだろうか……」と疑いをもちつつの参加だった。

会場である旧千葉支店に続々と集まる住民たち。小さな子どもたちから70代ほどのおじいさんまで幅広い。各テーブルにはお菓子と飲みもの。会場には陽気な音楽も流れ、リラックスした雰囲気だ。

会議はワールド・カフェ形式(カフェにいるような雰囲気のなか、参加者が少人数に分かれたテーブルで自由に対話を行い、数回、他のテーブルとメンバーをシャッフルしながら話し合いを発展させていく議論の形式)で行われ、8テーブルに総勢30名ほどの住民が座った。

会議のファシリテーションを行うのは総務省地域資源・事業化支援アドバイザーなどを務める林田暢明(のぶあき)さん。第7回の光葉町ミライ会議ではカフェの事業者に決まった桜井千布(ちふ)さんの紹介と、新しいお店に期待することといったテーマをもとに会議が行われた。【画像2】左:光葉町ミライ会議の様子。テーブルではわいわいと話が盛り上がる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)右:ファシリテーターを務めた林田さん(画像提供/中央グリーン開発)

【画像2】左:光葉町ミライ会議の様子。テーブルではわいわいと話が盛り上がる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)右:ファシリテーターを務めた林田さん(画像提供/中央グリーン開発)

テーブルでの会話がスタートするとまわりの声が聞こえないほど、わいわいと話が弾む。メニュー案やお店のコンセプトの資料を見た住民から「自分のためだけに行くのは罪悪感があるので子どもが英語を習えるようなイベントがあるとうれしい」や「おすすめのベーグル以外にも商品開発を地域と一緒にやってほしい」、「モーニングで朝9時からの営業は遅いのでは」と本気のアドバイスが飛ぶ。

印象的だったのは「長く続けてもらいたい。やりたいことがたくさんあるのは分かるけど軌道に乗るまでが心配。短期・中期・長期で考えていこう」「コミュニティの中心になってほしい。そのためにわたしたちもボランティアとして参加させて」と、カフェを持続していくために住民自身が自分ごとのように捉えて話をしていたことだ。

内装のリノベーションも122人が参加、住民とともにつくる

事業者が決まり、開店は2016年11月。8月~10月には旧千葉支店をコミュニティカフェにすべくリノベーションが行われた。店舗のリノベーションももちろん住民参加だ。室内の塗装や、無垢(むく)のフロア張りなど全5回にわたって、つみき設計施工社の協力のもと、参加型DIYワークショップが行われ、延べ122名の住民が参加した。【画像3】カフェの壁をペンキで塗る。初めてのペンキ塗りに楽しそうな子どもたち(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像3】カフェの壁をペンキで塗る。初めてのペンキ塗りに楽しそうな子どもたち(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

10月に行われた第5回の天井・壁のペンキ塗り&植栽のワークショプに参加したときは旧千葉支店の面影はなく、内装はほぼ完成しつつあった。参加した住民に感想を聞くと「家でペンキ塗りをする機会はなかなかないので、子どもたちにもいい経験になりました」と、楽しんでいる様子が伝わってきた。なかには販売当時のスタッフとの久しぶりの再会を喜ぶ参加者の姿もあり、参加者の数人は「この場所で契約したんだよ」と教えてくれた。

コミュニティカフェのオープン前から住民主体の活動がスタート

最後のDIYワークショップから1カ月、11月23日のオープンに先駆け、11月19日に関係者および光葉町の住民向けのレセプションパーティーが行われた。カフェは住民をはじめ多くの人でにぎわっていた。【画像4】左:完成したコミュニティカフェ。店名は「Meet Up Under the Tree(あの木の下で会いましょう)」(画像提供/中央グリーン開発) 右:レセプションパーティーには多くの住民が駆けつけた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像4】左:完成したコミュニティカフェ。店名は「Meet Up Under the Tree(あの木の下で会いましょう)」(画像提供/中央グリーン開発) 右:レセプションパーティーには多くの住民が駆けつけた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

カフェではすでに住民が主体となっていくつかの活動がはじまっていた。例えば、カフェにはミニ図書館のスペースが設けられているがその運営は本好きの有志が集まってできた「HONBAKO部」と一緒に行っていくという。もう1つはガーデニングサークルの「GREEN LOVERS(グリーンラバーズ)」。カフェの庭の植栽をなににするかからメンバーが考えて植えていった。【画像5】左:カフェに設けられたミニ図書館スペース(画像提供/中央グリーン開発) 右:カフェの庭の植物はGREEN LOVERSが植えた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像5】左:カフェに設けられたミニ図書館スペース(画像提供/中央グリーン開発) 右:カフェの庭の植物はGREEN LOVERSが植えた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

11月23日にオープンを迎えたカフェ。その後はと言うと、1月には餅つきイベント、2月には屋外で初のマルシェを開催、3月1日からは「HONBAKO部」と準備をしてきたミニ図書館で本の貸し出しがはじまった。住民と一緒になってカフェはすくすくと育っているようだ。また光葉町ではこの取り組み後、それまでは全員抽選で決まっていた自治会の役員が、14人のうち約3分の2が立候補で決まったという。住民自身が主体となった街づくりがすすんでいるようだ。

家を売って終わりではない新しい不動産販売のあり方

近年では分譲前の一戸建て住宅地やマンションでコミュニティ醸成を促す取り組みは多くなってきているが、販売完了後の一戸建て分譲地での取り組みは珍しい。今回の取り組みがうまくいった背景には、支店が分譲地にあり、普段から住民の相談窓口のような存在になっていたこと、また販売当初からかかわっているスタッフが多く、純粋にこの街をよりよくしたいと思う気持ちがあったことが要因だと考えられる。光葉町ミライ会議やDIYワークショップへは住民だけでなく、中央グリーン開発のスタッフも多く参加していたことも印象的だった。

なぜ販売が終了した住宅地でこのような取り組みを行ったのか、今回の取り組みを中心となって推進してきた中央グリーン開発の横谷薫さんに聞いてみた。

「確かに短期的にはメリットはないかもしれません。最近では新しい住宅地が20年、30年後に空き家問題や少子高齢化に悩まされ、街として資産価値が落ちてしまうケースもあります。それは街づくりをしている私たちにとっても残念なことです。

そんななかで、販売後にこういった取り組みを行う理由は、住んでもらったあとも楽しく住んでもらいたいという思いがあるとともに住民主体でコミュニティを形成することで資産価値が維持できる街になるからです。ひいてはそれが企業として消費者の方に選んでいただける理由になると考えています」

「家を売って終わり」でなく、住民とともに街を育てていく、それは事業主にとっては資産価値を維持している街をつくっている会社として選ばれる理由につながり、住民にとっては資産価値の落ちない街に住めるというメリットに加え、人とのつながりを感じられる暮らしを手に入ることができる。売って終わりの家づくりではなく、20年・30年後も価値を維持できる街づくりをしていく、不動産販売のあり方の可能性を感じた取り組みだった。●取材協力

中央グリーン開発
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