【ITビジネスマンの寺業計画書】お布施の行方(1/2)

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【ITビジネスマンの寺業計画書】お布施の行方(1/2)

「坊主丸儲け」という言葉があります。お寺やお坊さんに関する世間話は、なにかと話題に事欠きませんが、その中でも一番関心が集まるのはお金のお話でしょう。

僕自身もお坊さんになることを決意したものの、その頃はまだ会社で働いていたので、お寺に戻って一体どういうお金の流れで生活していくことになるのかよく分かっていませんでした。正直なところ、どんな生活を送ることになるのか? 今の生活と比べて、なにができて、なにができなくなるのか? 漠然としてはいるが大きな不安がありました。現代社会で生きていく以上必要不可欠な、お金の心配が大きく存在していたのです。

今回の記事では2回に分けて、当初抱いていた不安がお寺での生活を通じてどのように変化していったのか、お寺やお坊さんとお金の関係について考察しながらお伝えしたします。

冒頭の「坊主丸儲け」という言葉。人々が口にする背景には、短いお経を読んで高いお布施を懐に入れて帰っていく姿を見たといった経験や、お坊さんは税金を払わなくていい、といった流言が存在しているからだと思います。

実際のところはどうなのでしょうか?

まず短いお経に高いお布施を…というものですが、これはきっと「お布施」というものに対する誤解や説明不足が原因であると思います。お布施とは本来、お金の執着から離れるために喜んでお金を捨てることで(これを喜捨といいます。またお金を施すということから財施といいます。)、そのお金を仏道修行に励むお坊さんに施すというものです。これに対して、お坊さんはお経を読むことで仏教の教えを施すのです(これを法施といいます。)。お経を読むだけでなく、お経に書かれた意味や法要の意味をお伝えすることも法施の一つです。この相互にお布施をしあう関係において、財と法が移動することが本来のお布施の流れなのです。

それゆえに、お経の長さでお布施の金額が決まったりすることはありませんし、相場や目安が決まっていたり、お坊さんから金額を提示されるということもあるはずがないのです。しかし、残念ながら、現実には本来の作法でないやりとりが起こっています。とても由々しき問題で、我々お坊さんが積極的にあるべき姿を説いていく必要があるでしょう。

僕自身も、お檀家さんに「お布施はいくらぐらい包ませてもらいましょう?」と質問されることがあります。その際にはお布施の意味を説明させていただきます。それでも、「意味はわかったけど大体の相場をこっそり教えてよ!?」となかなか引き下がってもらえません(笑)。そんなときは「これからお勤めでお父さんの追善供養をご一緒にさせていただきます。お念仏をお称えしながら喜んで捨てて良い金額を考えていただければよいですよ。私のお経を聞きながら感じた金額で結構ですよ」とお伝えしております。これもまだまだ苦し紛れのお答えで、良いお返しができずにおりますが、それでも絶対に◯◯◯円ですなどと金額をお伝えすることはありません。

そして、二つ目の「お坊さんは税金を払わなくていい」というものですが、これは間違いです。正確には宗教法人には一部の収入※を除いて、法人税が課税されないのです。お坊さんはお布施を懐に入れ、そのまま飲み食いしているのではなく(いらっしゃるかもしれませんが…)、所属するお寺から給与を受け取っています。宗教法人から給与を支給されるお坊さん個人には、会社で働いている方々と同様に所得税や住民税が課税されており、国民年金や国民健康保険にも加入する必要があります。お坊さんも買い物をすれば消費税を払い、自動車に乗れば自動車税を払います。お坊さんも皆さんと同じ納税者なのです。

※駐車場の運営や物販販売など、宗教行為によらない収入に対しては所得税が課税されます。(ただしこれも、一般企業と比較すると税率などの面で優遇措置があります。)

仕事をしていた頃、毎月給与明細を見ながら所得税取り過ぎでしょ…と涙目になっていました。そんな僕が抱いていた「お坊さんになったら税金払わなくていいのか、これはもしかしたら…」といった妄想は、まさにただの妄想だったのです。

さて今回はお坊さん個人にまつわるお金のお話をさせて頂きました。次回はお坊さんが所属するお寺、宗教法人にまつわるお金について考察していきたいと思います。どうぞお楽しみに。

○連載:ITビジネスマンの寺業計画書

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松島靖朗

松島靖朗:彼岸寺

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