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快適なフィードバック作業が、アプリ開発のクオリティを高める──「Balto」に込めた想いとは

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面倒なフィードバックにかかる作業時間を4分の1に短縮

スマートフォンアプリ開発では、デザイン仕様や機能改善について、デザイン検討の段階はもちろんのこと、アプリを実際に動かしてみせる実装ベースにおいても、PM、エンジニア、デザイナーの間で頻繁なやりとりが交わされ、それはリリース後も続く。

とりわけユーザーのUI/UXの向上が求められる最近では、ユーザーテストも重要だ。

アプリの操作性やフィーリングを検証するためにユーザーテストを実施し、フィードバックを広く集め、改善サイクルを頻繁に繰り返すことで、ユーザービリティを高めること。こうしたプロセスが、どんなアプリ開発にあたっても重視されるようになってきた。

しかし、フィードバックの集約という点ではいくつか課題もあった。

例えば、社内のレビュー担当者が、あるアプリのUI改善のために、エンジニアにフィードバックを送るとする。

「レビュアーはまずアプリ画面のスクリーンショットを撮って、それをいったんPCに落とし、デザインソフトで当該部分を丸囲みするなど強調し、画像にコメントをつけて、スプレッドシートに貼り付けたり、メールやチャットツールで送る──これらがこれまでの一般的な流れでした。結構面倒な作業です。

当社の開発事例で言えば、この作業に一回あたり平均120秒はかかっていました。それが、『Balto』を使えばわずか30秒で済むようになります。作業時間の大幅な短縮につながります」と語るのは、BaltoチームのPM、中村太紀氏だ。

株式会社グッドパッチ Baltoチーム プロダクトマネージャー 中村 太紀氏
グッドパッチではWebサイトやアプリの受託開発を約4年間担当。2016年11月から自社サービスのBaltoのプロダクトマネージャーに就任。

それは受託開発の現場のニーズから生まれた

Baltoは、テスト中のアプリにワンアクションで簡単にフィードバックを送ることができる開発支援ツールだ。

2017年1月にサービス提供を開始。小規模企業向けの年間43,200円をはじめ、複数の料金体系が用意された有料サービスで、14日間の無料トライアル期間もある。

フィードバックを円滑にし、アプリの改善サイクルを高速化するという謳い文句通り、例えばレビュアー向けには、スクリーンショット撮影機能に加え、6秒間のムービー撮影機能を用意。撮影したスクリーンショットに丸、四角、矢印のシェイプをつけたり、コメントを付けるのも簡単だ。

開発者向けには、BaltoSDKを組み込んだアプリをBaltoWebダッシュボードから配信できる機能を盛り込んだ。配信するゲストの数には制限がなく、より多くのフィードバックを集めることができるようになる。

配信の自動化やフィードバックの一元管理が可能で、管理画面では、レビュアーごとの状態チェック、例えば誰がアプリを開いたか、誰がレビューをしたかが一目瞭然にわかるようになっている。

「フィードバックを送る側、送られる側双方にとって面倒な手間を省くというのが第一の狙い。わざわざPCにキャプチャ画面を落としたり、チャットツールを立ち上げたりする必要もないので、レビュアーは電車の中や布団の中でもユーザーの気持ちでアプリを使いながら、フィードバックできるようになります。

例えば、エレベーターの中でテストしてみたら、電波が弱くて画像の読み込みが遅かった。ここは改善すべきといった、さまざまな使用シーンを前提にしたレビューができるのも利点の一つです」(中村氏)

これまでもプロトタイプ管理ツールフやィードバック管理ツールがなかったわけではない。グッドパッチの開発チームも顧客企業から受託したアプリ開発の過程でそれらを使うこともあったが、十分満足できるものがなかった。それなら、自分たちで作ってしまおうと始めたのが、このBaltoだ。

「最初にリリースしたのは、Prottというプロトタイピング管理ツールでした。プロトタイプを作るだけで自動的に画面遷移図が生成される機能などがありますが、使えるのはあくまでもアイデアをデザインにまとめるまでの段階。プロトタイピングを実装し、ダミーデータを使って実際に動かす、つまりエンジニアが本格的に参加するフェイズになると、Prottだけでは十分とは言えません。そこで新たに開発したのが、Baltoでした」(中村氏)

いずれも、現場のニーズから生まれたツールなのだ。

コミュニケーション円滑化機能で、ギスギスしない開発環境を醸成

収集したフィードバックを高速な改善サイクルにつなげる目的以外にも、Baltoには改善作業そのものを楽しくする工夫が凝らされている。

「Baltoの開発が進み、オープンβの形で一部のユーザーさんに使ってもらう2016年3月の段階で、ユーザーの声を本音ベースでヒアリングするデプスインタビューを行いました。

それであらためてわかったのは、エンジニアやデザイナーにとっては自分たちが開発したアプリは、わが子のようなもの。世に出す前にそれをどれだけレビューされているかは重要な関心事だということでした。

それを受けて私たちは、テストアプリを誰が開いて、どんなレビューしてくれているのか直感的にわかるような機能をBaltoに盛り込みました」と言うのは、デザイナーの川又慧氏だ。

株式会社グッドパッチ Baltoチーム デザイナー 川又 慧氏
2016年春からBaltoのUI/UXの改善について、どういうツールであればエンジニアはモチベーションが高まるかという観点で、潜在層も含めたユーザーに対して本格的なデプスインタビューを実施。前職は大手ICT企業のSIer部門のデザイナー。

レビューの状況を可視化するだけでも、開発者たちのモチベーションが上がるという事実が、デプスインタビューから浮かび上がってきたのだ。

インタビューの実施を提案したのは川又氏だが、実際のユーザー企業を訪ねてのインタビューには川又氏だけでなく、開発チーム全員が参加した。ユーザーの生の声をエンジニアリングにダイレクトに反映させたいという思いからだという。

もう一つ、ユーザーインタビューがきっかけで生まれた機能に「いいね」ボタンがある。

「レビューはアプリの問題点を指摘して改善につなげるのが目的ですが、ネガティブな指摘が相次ぐと、開発チームのテンションも下がってしまいます。そこで個々のフィードバックに対して『指摘してくれてありがとう。僕も気づかなかったよ』という意味の“いいね”ボタンを付けることにしました。

本気でレビューすればレビュアーと開発者の人間関係が気まずくなってしまうこともありますが、そこに『いいね』ボタンを置くことで雰囲気がよくなる。結果的にその雰囲気は、より良いアプリの開発につながっていくと思うんです」(川又氏)

フィードバックごとにスレッドを立てて、レビュアーと開発者がディスカッションできる機能もある。例えばボタンの色一つに対しても、

「なんでここは紫色なんですか?」
「それはこういう理由があるからです」

とメッセージが飛び交う。

レビューする人⇒される人というように、議論が一方向だけに終わらないのだ。このように、開発過程での円滑なコミュニケーションを誘発する仕掛けは、他のツールには見られないBaltoの特長といえる。

「断定口調ではなく疑問形でコメントを投げるとスレッドが盛り上がることに気づきました。僕らはこうしたコミュニケーション・スキルをフィードバックリテラシーと呼んでいるんですが、このリテラシーの高い人を育てることが、開発チームやプロダクトのクオリティを高める重要な鍵になると思います」と、川又氏は言う。

ちなみに、「Balto」というサービス名には面白い由来がある。最初は「SnapShooter」という名前だったが、グッドパッチに在籍している外国籍スタッフから、「欧米では子どものオモチャをイメージさせる」と“クレーム”がついた。

そこで急きょ「Updraft」と名称を変更。「上昇気流」の意味で、フィードバックを受けて開発チームのテンションがだんだん上がっていくというイメージからの命名だ。

プロダクトのロゴまで決め、いざこれで本番リリースをと考えていた矢先に、海外に同名のツールがあることがわかった。やむを得ず、再び名称変更。結果的に「Balto」に落ち着いた。

「Balto」は1920年代にアラスカで活躍した犬ぞり輸送隊のリーダー犬の名前。ジフテリアの流行を防ぐ血清を緊急輸送したことで知られ、ニューヨークのセントラルパークにはその銅像が建っているという。

「最初のプロトタイピングツールの“Prott”も“プロットハウンド”という犬種からの命名でしたから、犬の名前シリーズで行こうということに。次ぎにリリースを予定しているプロダクト・マネジメントツールには、ソ連の人工衛星スプートニク2号に乗せられて宇宙に飛び立った犬“Laika”の名前をいただこうかと思っているんです」(川又氏)

こんな命名一つにも、開発プロセスを楽しむチームの雰囲気が表れている。

グッドパッチ流「おもてなし」の精神

BaltoチームでAndroid用アプリの開発を一手に引き受けているのが、手塚陽介氏だ。

レビュアーからのフィードバックを受けてプロダクトを改修することが多いエンジニアの立場から、フィードバックの重要性をこう語る。

「自分にない視点でフィードバックをもらえるのは開発者にとってとても嬉しいこと。もちろん、製品やサービスのコンセプトが違うのでそこを突かれても、と思うこともありますが、そのあたりはレビュアーと議論すればお互い納得できるようになります」

株式会社グッドパッチ Baltoチーム Androidアプリ開発エンジニア 手塚 陽介氏
2016年1月にグッドパッチに転職。入社当初は受託事業にてAndroidアプリの開発に携わり、同年5月からBaltoにかかわる。Androidアプリの開発経験は、前職から数えると6年になる。

今回は、Androidアプリ開発者向けのBalto SDKの開発も担当している。

「普段はSDKを利用させてもらう立場。自社サービスのSDKを開発したのは初めてのことでした。SDKをできるだけ簡単にアプリに組み込めるように、さらに不具合が出ないように気をつけました。自分が使う側だったらどうだろうと考えることが、SDK開発にあたって一貫した視点でした」

レビューする側だったらこの機能をどう使うだろう、レビューされる側だったらコメントがどう表示されたらわかりやすいだろう、SDKのインストールにあたってエンジニアが不安に感じるのは何だろう……。

そのように徹頭徹尾、使う側の気持ちに立って開発が進められたBalto。相手を慮る態度が、ホスピタリティやおもてなしの原点だとすれば、Balto開発はまさにグッドパッチ流「おもてなし」の精神から生まれたツールといえるかもしれない。

さて、Baltoは現在も日々改修や機能追加が続いており、直近ではGitHubとの連携機能をリリースした。

「GitHubにイシューを上げて、それで自分のタスクを管理しているエンジニアは多いと思います。最近ようやくこの機能をリリースし、スクリーンショットとディスクリプションを含めてGitHubにイシューを送れるようになりました」と、中村氏。

さらに、PC上でWebサイトを開発するプロジェクトでも、Baltoのようなフィードバック管理ツールがあったらと、ユーザーからの要望も寄せられている。Webサイト開発機能がBaltoに加わるのもそう遠くないかもしれない。

「Baltoは多様なフィードバックを集める一種の器です。その器はできたので、今後はそこから必要な課題を抽出する機能を強化していきたい」と、川又氏も今後への抱負を語る。

スマートフォンアプリ開発チームに欠かせないフィードバック管理の標準ツールとして、Baltoが発展していくこと、さらに国内だけでなく海外のユーザーにも広く支持されるツールに育つことを期待したい。

(執筆:広重隆樹 撮影:刑部友康)

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