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76年連続増収。エクセレントカンパニーの秘密とは?――「元気な外資系企業」シリーズ〜第5回ジョンソン・エンド・ジョンソン

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大きな変革の時代。企業でも、さまざまな取り組みが進む。では、海外に本社を持つ外資系企業では、どんな取り組みが推し進められているのか、探ってみる外資系特集企画。第5回は、ジョンソン・エンド・ジョンソンの「経営理念」だ。f:id:k_kushida:20170407093021j:plain

実は一般消費者向けは売上高の約2割

景気の変動、消費者ニーズの変化、時代の移り変わり……。激しく環境が変わる世の中で、企業が常に成長し続けることは、並大抵のことではない。そんな中、1932年から実に76期にわたって増収を続けてきた会社がある。ジョンソン・エンド・ジョンソンだ。

本社はアメリカ・ニュージャージー州。世界60カ国に265以上のグループ企業を有している。売上高(2014年)は、743億3100万ドル(約7兆5000億円)。

ニューヨーク証券取引所に上場し、格付け会社のスタンダード&プアーズが最高ランクAAAと評価している。「全米で最も尊敬される企業」の上位に常にランクされている、文字通りのエクセレントカンパニーである。

ジョンソン・エンド・ジョンソンといえば、バンドエイドや綿棒、ベビーオイル、コンタクトレンズのアキュビューなどを思い浮かべる人も多いかもしれないが、実は一般消費者向け以外のビジネスが売上高の約8割を占める。人事部門のタレント アクイジション ジャパン ヘッドの沖田千代氏は語る。f:id:k_kushida:20170407093301j:plain

▲タレント アクイジション ジャパン ヘッド 沖田千代氏

「ジョンソン・エンド・ジョンソンの設立は1886年でした。当時は、外科手術をしても、殺菌されていない環境のもとで、たくさんの方々が亡くなっている状況がありました。そうした中で、消毒の技術を確立していくことを目的に発足したんです」

会社を創ったのは、ロバート・ウッド、ジェームズ・ウッド、エドワード・ミードのジョンソン三兄弟。アメリカの南北戦争で、多くの負傷兵が傷を治したにもかかわらず、感染症によって命を落としていたことに心を痛めていたのだという。

そこで最新の医学理論を取り入れ、殺菌済み外科用包帯の大量生産を考案した。医師や看護師に向け、殺菌済みの縫合糸や包帯を使うことを提案するというのは、当時としては革新的なアイディアだった。

現在も、事業の中心になっているのは、医療機関に向けたものだ。病院などの医療機関で使われる医療機器や、医療用の医薬品が売上高の大部分を占めている。

「何が世の中に必要なのかを考えていく。世の中が必要とするものを、生み出していく。そういう精神を今も引き継いでいる企業です」

実際、ヘルスケア領域に特化して、次々に革新的な製品を生み出してきた。研究開発費は、総売上高の約11%を占める。これは、全産業でもトップクラスだ。

「日本では、ジョンソン・エンド・ジョンソンが医療機器やコンシューマー商品を扱い、医療用医薬品はグループ企業のヤンセンファーマが取り扱っています。従業員は2社を合わせると約5000人です」

医療機器の高度化や複雑化が進み、患者の負担の少ない治療への社会的ニーズが高まる中、医療従事者には医療機器の操作技術の向上も求められている。こうした中で、プロフェッショナルエデュケーション専用の施設をつくり、内視鏡外科手術のトレーニングプログラムも提供している。

日本では1992年に福島県須賀川市にMIT研究センターを設置。2014年には神奈川県川崎市にも東京サイエンスセンターを設立。病院の手術室や検査室を再現した環境で、医療機器の操作を習得できるトレーニングが行われている。

こうしたジョンソン・エンド・ジョンソンの成長を支える重要な要素のひとつになっているものがある。それが、経営理念だ。「Our Credo(我が信条/クレド)」と呼ばれるジョンソン・エンド・ジョンソンの経営理念は、世界に知られるものになっている。

時代とともに変わってきた「Our Credo」

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▲Our Credo(我が信条/クレド) ※全文は記事の最後に掲載

ジョンソン・エンド・ジョンソンの「Our Credo」は、「顧客」「社員」「地域社会」「株主」という4つのステークホルダーに対して果たすべき責任が掲げられている。「Our Credo」に世界が注目したのは、端的に言えば、常に4つの責任の遂行を、企業としての利益追求よりも優先するとしたことだ。

「1935年、大恐慌の中で企業の責任の中に、地域社会への貢献を入れるべきではないか、という思いを、当時のCEOが強く持ったと言われています。その後、会社が株式を上場する1943年に起草されたのが、『Our Credo』でした」

以来、70 年以上にわたって、「Our Credo」は世界のファミリー企業とそこで働く社員一人ひとりの行動基準になってきたのだという。だが実は「Our Credo」は、当時、作られたものが今もそのまま使われているわけではない。

「時代の流れとともに生まれてきたものですが、時代の変化とともに変わってきたのも、『Our Credo』の特徴です」

また、過去には「顧客」「社員」「地域社会」「株主」の順番を重視していた時代もあった。資本主義社会で「株主を最初に持ってこなかった」という点が、まさに衝撃的に受け止められたわけだが、今は順番もさることながら、全ての責任を等しく全うするという意識がより強くなっているという。

「もともとは患者さんのための製品をしっかり届けたい、というところから始まった会社ですから、顧客が大切なのは当然のことです。しかし、顧客をしっかり大切にしていれば、結果的にめぐりめぐって社員も、地域社会も、株主も潤う、というのが基本的な考え方です」

ただ、歴代のCEOは、クレドチャレンジという形で、それぞれがそのときどきで必ず「Our Credo」に向き合うのだという。

「経営陣でディスカッションを繰り返し、自分たちの『Our Credo』についての考え方をまとめていきます。だから、時代とともに、少しずつ変わっていくんです」

2012年、アレックス・ゴースキーCEOが、全ての責任も重視する考えを打ち出し、それが今も継続している。

「世の中がますます複雑になって、どちらのステークホルダーにもプライオリティを置かなければいけないような状況は、ますます増えています。そういうとき、どれが自分たちとしてベストな対応なのか、自分たちでしっかり考えてほしい、というメッセージでもあると感じています。実際、顧客に継続的にサービスを提供していくには、売り上げはなくてはなりません。あらゆる場面で、実は『Our Credo』が問われてくるんです」

どの会社にも、経営理念はあるだろう。創業の精神が、そこに潜んでいたりもする。ジョンソン・エンド・ジョンソンの大きな特徴は、それを形骸化させることなく、今なお真正面から向き合っていることだ。

「それこそ『Our Credo』は、経営戦略の軸に置かれています。会社として何を目指すのか、どのようにして達成していくのか、基本の指針に位置づけられているのが、『Our Credo』です。経営戦略の基盤になっているんです」

それが象徴的に現れた“事件”が起きたのは、1982年、アメリカでのことだ。このときの取り組みが、ジョンソン・エンド・ジョンソンの「Our Credo」の存在を一躍世界に知らしめることになる。

アメリカ全土からいち早く製品を自主的に回収

1982年、アメリカのシカゴで何物かがジョンソン・エンド・ジョンソンの頭痛薬「タイレノール」に毒物を混入し、7人が死亡するという痛ましい事件が起こった。当初は、第三者による意図的な犯行なのか、それとも生産過程で生じた問題なのかも、わからなかった。

しかし、当時のCEOは、自社には責任がないのではないか、などと言い逃れをすることなく、直ちにアメリカ全土からすべてのタイレノールを自主的に回収した。回収のために徹底的な情報公開を行い、新聞広告やテレビなど、あらゆる手段を使った。多くの従業員も回収に動員され、回収費用は当時で推定1億ドルとも言われている。

事件を受け、ジョンソン・エンド・ジョンソンは異物の混入できない特殊な形状のパッケージを開発。このときのパッケージは、異物混入を防ぐ業界のスタンダードになる。

当初は厳しく批判していたメディアも、費用を度外視し、正しいことを自発的に行った、として評価。このときの迅速な対応は、ビジネス史上最も優れた危機対応と称されるようになり、経営者向けのケーススタディとしても世界中で取り上げられている。

この迅速な対応を可能にした背景こそ、まさに「Our Credo」の存在だったのだ。

「そのときそのときの状況で、『Our Credo』に立ち返って判断する、ということは常に行われています。何事も100%確証することは難しいですが、何に立ち返って、何を模範と考えるか。その拠り所がある、というのは企業としてのひとつの強みだと思います。軸があるのでブレることがない。私は中途入社なのですが、『Our Credo』がいかに社内に浸透しているか、常に強く実感しますね」

だが、ジョンソン・エンド・ジョンソンとて、何もせずして「Our Credo」が社内に浸透しているわけではない。社内では、さまざまな取り組みが行われているのだ。例えば、新卒社員や中途入社の社員が入ると、「Our Credo」についての、しっかりとしたオリエンテーションが用意される。

「一行一行、じっくり読んでいくと、『Our Credo』を実践することがいかに大変なことか、というのが見えてくるんです。そして、これがどんな形で社員の中に取り込まれていくか、具体的な日常業務の中でどんなふうに使われていくか、学ぶ場が用意されています」

入社時点だけではない。会社で配られる手帳には「Our Credo」が大きく記されている。かつては机の前に張り出す社員が少なくなかったという。今は座席はフリーアドレスになっているが、オフィスのフロアや社内会議スペースには必ず貼られている。

「しかし、壁に貼って、お題目とするのではなく、日々の仕事でビジネスの中に生かしてこそ価値がある、というメッセージも経営陣からは常に発せられています」

そこで年次別の研修、さらには部門やグループ、チームなどでも定期的に、あるいは自発的に「Our Credo」のワークショップが行われている。「Our Credo」という経営理念を、ただ会社が作ったものではなく、自分ごとにしていく取り組みが積極的に行われているのだ。

「例えば人事の採用なら、人が採用できない、ということが会社にどういう影響を及ぼすか。それはつまり、顧客や社員、地域社会や株主にも大きく影響していくわけです。そんなふうにしっかり意識して仕事をしていけるかどうかが問われます。会社のあるべき姿だけではなく『Our Credo』を個人のものにしている、というところが、ジョンソン・エンド・ジョンソンの『Our Credo』の本当の強さなのではないかと感じています」

「Our Credo」は、単なるお題目などではない。実行していかなければいけない、本気の理念なのだ。逆にいえば、だから「Our Credo」は機能し、会社を強くしているのである。

もしベストな選択が他社製品だと思えるなら……

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「Our Credo」をめぐっては、社内でサーベイも行われている。実行できているか、どう考えているか、多方面から社員が「Our Credo」について応えていく。これが全世界で行われており、「Our Credo」に対する意識の高さは組織ごとに明らかになるという。

「『Our Credo』に則った企業体になっているかどうか、定期的健康診断を行っている、とでも言えばいいでしょうか。そしてその結果を受けて、アクションを計画し、実行していくことが求められます」

当然、リーダーは部下に対して「Our Credo」への浸透を図っていかないといけないが、そればかりではない。リーダーが「Our Credo」に則した行動を取れているか、というのは評価項目にもなっているのだ。

「もちろん成果を挙げることは大事なことです。しかし、ただ成果を挙げればいいわけではありません。ジョンソン・エンド・ジョンソンでは、リーダーはこうあるべし、こういう行動を取るべし、という考え方がとてもはっきりしています。その責任と成果は、両輪で求められるものになっています」

冒頭で説明したように、76期も増収を続けてきた企業である。数字に対する意識が低いわけがない。だが、ただ数字を取りに行くのではない。「Our Credo」を実践することによって数字を獲得していく。もっといえば、「Our Credo」を実践してこそ、数字は獲得できるのだという。

「よく言われることは、セールスの場面で、もし自社の製品よりも他社の製品のほうが、その患者さんにとっていいと思えるなら、他社の製品を勧めることもある、と。なぜなら、『Our Credo』の考え方なら、それが正しいから。目先のことでなく、患者さんから危険を遠ざけるという本当の目的に向き合って行動するのはどちらか、ということです」

目先の売り上げは失うかもしれない。しかし、自社製品ではなく他社製品を勧められた患者や医師はどう感じるだろうか。どういう企業を、信頼するだろうか。

「人と人は信頼で成り立っています。『Our Credo』に忠実に考えていくことは、いずれ結果ももたらす、というのが私たちの考え方です」

そして「Our Credo」を読み込むと、いろいろなことがわかってくる。「我々の行うすべての活動は質的に高い水準のものでなければならない」というフレーズは、常に現状に満足せず、新しいチャレンジをせよ、とも読み取れる。だから、社内にはそうした空気が常にあるという。

「Our Credo」の存在の意味とは、常に社員は考えなければならない、ということなのかもしれない。それなら、安きに流れることはない。深く考えて行動する。だから、成長の機会にもなる。

「『Our Credo』のない状況は考えられない、とは社内でよく聞く言葉です」

改めて「Our Credo」をもう一度、読んでみてほしい。その深さが、見えてくる。

我が信条

我々の第一の責任は、我々の製品およびサービスを使用してくれる医師、看護師、患者、そして母親、父親をはじめとする、すべての顧客に対するものであると確信する。顧客一人一人のニーズに応えるにあたり、我々の行なうすべての活動は質的に高い水準のものでなければならない。適性な価格を維持するため、我々は常に製品原価を引き下げる努力をしなければならない。顧客からの注文には、迅速、かつ正確に応えなければならない。我々の取引先には、適正な利益をあげる機会を提供しなければならない。

我々の第二の責任は全社員―世界中で共に働く男性も女性も―に対するものである。社員一人一人は個人として尊重され、その尊厳と価値が認められなければならない。社員は安心して仕事に従事できなければならない。待遇は公正かつ適切でなければならず、働く環境は清潔で、整理整頓され、かつ安全でなければならない。社員が家族に対する責任を十分果たすことができるよう、配慮しなければならない。社員の提案、苦情が自由にできる環境でなければならない。能力ある人々には、雇用、能力開発および昇進の機会が平等に与えられなければならない。我々は有能な管理者を任命しなければならない。そして、その行動は公正、かつ道義にかなったものでなければならない。

我々の第三の責任は、我々が生活し、働いている地域社会、更には全世界の共同社会に対するものである。我々は良き市民として、有益な社会事業および福祉に貢献し、適切な租税を負担しなければならない。我々は社会の発展、健康の増進、教育の改善に寄与する活動に参画しなければならない。我々が使用する施設を常に良好な状態に保ち、環境と資源の保護に努めなけれなならない。

我々の第四の、そして最後の責任は、会社の株主に対するものである。事業は健全な利益を生まなければならない。我々は新しい考えを試みなければならない。研究開発は継続され、革新的な企画は開発され、失敗は償わなければならない。新しい設備を購入し、新しい施設を整備し、新しい製品を市場に導入しなければならない。逆境の時に備えて蓄積を行わなければならない。これらすべての原則が実行されてはじめて、株主は正当な報酬を享受することができるものと確信する。

WRITING:上阪徹 PHOTO:小出和弘

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