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最強ヘッドハンターが語る「選ばれる人材」のたった一つの要素

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勤め先からの帰路を急ぐ人々の脇をすり抜け、都心の高層ビル最上階にあるラグジュアリーなバーへ。待ち合わせた初対面のその男性は、いかにも高級そうなスーツに身を固めて一分の隙もない。差し出された名刺には「エグゼクティブ・サーチ」の文字。そして一言、「あなたを迎え入れたいと熱望している経営者がいます」——。

ちょっと古典的ではありますが、多くの人が「ヘッドハンティング」と聞いて思い浮かべるのはこんな場面ではないでしょうか。遠い世界の出来事のように感じるヘッドハンティングですが、昨今の事情は少し違うようです。「エグゼクティブ層に限らず、最近では多くの企業が若手実務層をヘッドハンティングで獲得しています」。そう話すのは、日本を代表するヘッドハンターの一人、武元康明さん。

企業の看板に頼らず、個人として評価される人材になるためには何が必要なのか。現代のリアルなヘッドハンティング事情を含めて、お話を伺いました。

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武元康明さん

半蔵門パートナーズ株式会社 代表取締役、サーチファーム・ジャパン株式会社 前会長・社長

1968年石川県出身。航空業界で日系・外資系企業双方での勤務を経験。19年の人材サーチキャリアを持つ、経済界と医師業界における世界有数のトップヘッドハンター。2003年10月にサーチファーム・ジャパン設立に参加。08年1月に社長、17年1月〜3月まで会長を務める。日本型経営と西洋型経営の違いを経験・理解し、企業と人材のマッチングに活かしている。クライアント対応から候補者インタビューまでを自身で幅広く手がけるため、全国各地を飛び回る。大阪教育大学附属天王寺小学校の研究発表会のほか、東京外国語大学言語文化学部でのビジネスキャリアに関する講演など、講師としても活躍。著書に『会社の壁を超えて評価される条件:日本最強ヘッドハンターが教える一流の働き方 』(徳間書店)など。

日本企業の多くは、スキルだけで人を選ばない

——現在武元さんが向き合っているヘッドハンティングの現場において、企業はどのような人材を求めていると感じていますか?

武元:私はいつも、企業が求める人物像を整理する際に「OS」と「アプリケーション」に例えて話しています。OSとはその人の根幹にあるもの、人生に対する価値観を表すものです。対してアプリケーションとは、その人が身につけてきたスキルや能力を指します。

日本の採用の場面では、多くの企業がOSも重視していますね。そのOSは単なる人物像だけでなく、「どんな思考行動特性・資質や動機を持っているのか」ということ。若いビジネスパーソンには「とにかくスキルを磨かなきゃ」と考えている人が多いように思いますが、企業の思惑とは少し乖離があるかもしれません。

——役員クラスなどのエグゼクティブ層を求める際にOSを重視するというのは何となく分かる気がするのですが、それは若手の採用においても同じだということですか?

武元:もちろんベースとなるスキルが備わっていることは前提になりますが、最終的に企業が採用を決めるのはOSですね。20〜30代で中途入社する人には、多くの場合「将来のマネジメント層」へとステップアップしていくことが求められます。実際のマネジメントは、スキルがあるだけではうまくいきません。この背景には、日本企業の経営プロセス(マネジメントスタイル)があります。

欧米企業の場合はほとんどが「トップダウン型」の経営をしていて、マネジメント層には与えられたミッションを高いレベルでこなす力が求められます。かつ、就業期間は比較的短期であるケースが多い。そのため、海外のヘッドハンティングではアプリケーションを重視した採用が行われます。トップダウン型の企業では「Job description(職務記述書)」を使って必要なスキルや能力を明文化し、報酬体系や条件もそれに連動させ明確にした上で採用しますが、これはまさにアプリケーション重視でマッチングしているということです。

それに対して、多くの日本企業は「ミドルアップダウン型」の経営プロセスです。ミドルクラスの社員がキーパーソンとなって、ビジネスプランニングをしなければいけない。経営トップが語る夢やビジョンを具現化するのがマネジメント層・ミドル層に求められる仕事なんです。「心身一如(しんしんいちにょ)」という仏教の言葉もありますが、心と体は一体のもの……つまり思考と行動は密接に関わっていて、トップのビジョンを真に理解した上で、行動に落としこむ力が必要だということ。企業が「自社のカルチャー」を大切にし、それに合う人材を採用しようとするのはそのためです。会社のOSと個人のOSをマッチングする必要があるということですね。

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「OSが合わない」と感じるなら、転職も有効

——そうなると「自分のOSを明確に語れる」ことが求められますよね? これはとても難易度が高いように感じます。

武元:難しいことだと思いますが、より良い人間関係を築き豊かな人生を過ごすためには他者のOSを理解する必要があります。そのためにはまず自分のOSを語る力が必要となるので、しっかりと向き合うべきです。私はたくさんの転職者と接してきましたが、自身の価値観を見つけて言語化できるようになるのはだいたい30代半ばくらいだと感じます。社会に出て10年以上が経ち、さまざまな現場を経験して、自分の価値観や信念が固まっていく。これまでにどんな仕事をして、どんな部署に配属されたか。そこで何を感じ、どんなことにやりがいを覚えたか。そんな経験の積み重ねがOSになっていくんです。結婚や出産、子育てなど、自身のライフイベントも大きく影響します。

——OSを自分で認識しようとするなら、どんな方法が有効でしょうか?

武元:自己診断ツールを活用するのも一つの方法です。私のおすすめは、アメリカのコンサルティング会社・ギャラップが開発した「ストレングスファインダー」を基にした『ストレングスリーダーシップ 』は有効なものの一つですね。自分が自然に持っている傾向や資質・行動特性を見つけ、それを強みに変えるためのツールです。

こうした自己診断を通して自身を俯瞰してみると、新たな発見や気づきがあります。今の会社で評価されていないと感じる人は、もしかすると自分と会社のOSが合っていないのかもしれません。

——武元さんは航空業界から人材業界へと大きなキャリアチェンジをされていますが、ご自身のOSをどのように見つけていったのですか?

武元:私が自分のOSを意識するようになったのは、キャリア2社目のシンガポール航空から3社目のニュージーランド航空に移ったときでした。

シンガポールは旅行代理店でも人気が高い旅行先で、航空券が売れやすいんです。しかしニュージーランドはシンガポールに比べると、航空券が売れにくい。そのため、あの手この手を考えて日本の大手旅行代理店とともにパッケージ商品を開発していました。ニュージーランドの家庭を訪問したり、ガーデニングやワイン文化に触れたりといった付加価値が必要だったんです。

この「創造力をフルに発揮して企画していく」という仕事が自分に合っていたんでしょう。モチベーションに一気に火がつきました。しかし、社内ではそうした動きがあまり求められていなかった。「企画をするのは旅行代理店の仕事だろう」ということで、自分がその最前線に立つことに消極的だったんです。

——せっかく自分のOSを見つけることができたのに、会社のOSとは合っていなかったということですね。

武元:はい。ちなみに私が在籍した航空業界の3社では、同じように成果を出していても評価はまるで違いました。会社のOSが違えば文化も違うわけで、当然社員に対する評価も違うわけです。私自身、さまざまな現場を経験したからこそ気づいたことでした。

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「営業職→IR室長」という転身を実現させたOSマッチング

——数多くの採用案件と向き合う中で、実際に「OSのマッチング」によって成功した例にはどのようなものがありますか?

武元:新規事業ばかり、20年以上携わってきたという人がいました。でも本人は「もう新規事業はやりたくない」と話していて。ハードな新規事業の現場にずっといたけど、そろそろ離れて、安定した既存事業に身を置きたいという動機を持っている人でした。職務経歴を見る限りは気づけないんですよ。何しろ新規事業だけをやって、結果を出してきた人なので。

この人が持つ動機は、既存の事業を安定して回すために、ロジック立てて物事を考え、動かしていく力……すなわち「論理的思考力」に軸足を置いてやりがいを求めたい、というものです。一方で新規事業の現場に求められるのは、前例がないことを発案し形にしていく「創造的思考力」です。アプリケーションだけを見てマッチングするなら、ベンチャーや変革期の企業が最適でしょう。でも、これまでの経験とは異なり、論理的思考力を生かせる成熟期の経営ステージにこそ、その人がこれから「やりがい」を感じ、能力を発揮できる職場があったんです。実際に転職後も活躍されています。

「論理的思考力」は数値化しやすいですが、「創造的思考力」は簡単に数値化できるものではありません。その人自身が持っている動機をはじめとして、OSのさまざまな要素を見なければ、本件のマッチングはできなかったと思います。

——その方とは逆に、「本当は創造的思考力を発揮したいのに、これまでの職務経歴では論理的思考力が求められる仕事しかしてこなかった」という人もいると思います。ルーティンワークばかりやってきたけど次は企画に関わる仕事がしたい、といったケース。こうした場合は、望むような転職は難しいのでしょうか?

武元:これまでに見てきた例では、必ずしもそうとは言えないケースもありました。IR室長を務められる人物を探していたある企業にマッチングしたのは、営業一筋だった人。これはアプリケーションだけを見るとミスマッチですが、OSで見ていった結果マッチできたという例です。

IR(Investor Relations)とは「企業による投資家に向けた経営や財務状況、業績動向など発信する広報活動」であり、営業的な要素も強く求められる仕事なんです。冷静に数字を取りまとめる力だけでなく、外部に対する強力な情報発信力も必要とされます。そのため、営業職経験者で、経営やIRへの志向性がある人を探しました。

——その方自身、思いもよらない転身となったのではないでしょうか?

武元:そうですね。優秀なヘッドハンターはアプリケーションだけでなく、OSをしっかりと見ています。だからこそ、転職者本人が思いもよらないような異業種への転身が実現することもあるんです。ヘッドハンティングされるということは、その可能性を発見してもらえるということでもあります。

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「今ある日常」を大切にすることがキャリアアップにつながる

——そう考えると、「ぜひ自分もヘッドハンティングされてみたい!」という思いが湧いてくるのですが……。実際に若手のビジネスパーソンがヘッドハンターから声をかけてもらうためには、どんなことが必要だと思いますか?

武元:クライアント企業の業種や経営ステージによって求める人材の特徴はさまざまですが、一つだけ普遍的なことを挙げるとするなら「人間関係を大切にする」だと思います。

実を言うと、ヘッドハンターが若手ビジネスパーソンの情報を集めるのはかなり大変なんです。エグゼクティブ層はさまざまな場面で顔と名前が出ているので情報を得やすいのですが、実務層である若手はそうはいきません。私たちのもとに情報が入るのは、社内での人間関係を前向きに築いて信頼を得ている人。その企業のエグゼクティブやミドル層からヘッドハンターに情報が寄せられることもあるんです。また、ヘッドハンティングされて他社へ移る役員が「ぜひ連れていきたいメンバーがいる」と希望することもあります。

受け入れる企業も人間関係を築く力は必ず重視するので、どんなに魅力的な能力・スキル・実績を持っていても、周囲との人間関係において常に「難」がある人には声をかけづらいですね。組織の和を重視し、人間関係をおろそかにしない人には、チャンスが巡ってくる可能性が大いにあると思います。

——最近では働き方改革が叫ばれ、副業容認に舵を切る企業も増えてきています。若手ビジネスパーソンは「1社でキャリアを磨く」べきか「複数社でキャリアを磨く」べきか、どちらが有効だとお考えですか?

武元:私の肌感覚ですが、現状では1社で真摯にキャリアを築いていく人のほうが評価されると考えます。アプリケーションを磨くには副業はとてもいいことだと思いますが、人間関係を重視するOSでマイナスにつながるようなら、あまりおすすめはできないですね。必ずしも副業がだめだと言うことではなく、人間関係やOSを大切にできているかどうかが常にベースにあるべきだということです。関係構築にはそれなりの時間を割く必要があります。また役職を与えられると、メンバーや各部署とのコミュニケーション頻度が増し、時間的な制約も出てきます。「企業の内部情報管理」という視点も必要です。業界や職種によってはいいかもしれませんが、どこかで限界が生じるのではないでしょうか。

一方で、創造的思考力を磨いていくという意味では、副業は有効だと思います。社内はもちろん、同業種や異業種を含めてさまざまな人脈を広げようとしている人は、自然と新たなインプットを得て創造的思考力が磨かれていきます。既存の会社で「あまり評価されていない」と感じる人が、「よりOSの合う場所」を求めて、社外に関係性を築いていくのもいいでしょう。ただ、これは副業に限ったことではありませんよね。趣味や余暇、社会貢献活動にも可能性はあります。

実際の転職市場では、創造的・論理的両方の思考力を求められるケースも往々にしてあります。そもそも、「創造的」「論理的」というのは対立概念ではないんです。ベースとなる論理的思考力があって、その上に創造的思考力が重なっていく。ふとしたことに疑問や好奇心を持ち、さまざまな場所に首を突っ込んでみることも必要だと思います。

これは有名な話ですが、500系新幹線のパンタグラフを発明した人は、趣味のバードウォッチングで観察したフクロウの特徴をヒントにしたそうです。フクロウの翼を真似てギザギザの形状にしたことで、騒音を抑えることができたんですね。これは平凡な日常を大切にしながら、創造的思考力を持ち続けた成果です。

一見無関係に思えることも、積み重ねによって創造的思考力を鍛え、イノベーションを生む源泉になっていきます。人間関係をおろそかにせず、今ある日常を大切にすることが、実はキャリアアップへのいちばんの近道でもあるのです。

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WRITING:多田慎介+プレスラボ PHOTO:Makoto Tsuruta

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