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「まだ歌うべき/歌われるべき曲がある」 ボブ・ディラン『トリプリケート』(Album Review)

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「まだ歌うべき/歌われるべき曲がある」 ボブ・ディラン『トリプリケート』(Album Review)

 ノーベル文学賞受賞についても、どうにか手続きの折り合いがついた(しかし賞金受け取りに関しては、受賞講演の開催かそれに準ずるものが必要とのこと)ところで、この3月31日にボブ・ディランの新作『トリプリケート』がリリースされた。“(書類などを)3通作成する”という意味のタイトルどおり、3枚組全30曲というヴォリュームの作品だ。アナログ盤での再生音質を考慮した結果、この体裁のパッケージになったという。

 『シャドウズ・イン・ザ・ナイト』(2015年)、『フォーリン・エンジェルズ』(2016年)という近作群の中で、ディランはアメリカのスタンダード/ポピュラー・ソングをカヴァーするというコンセプトを打ち出していた。収録曲の大半はフランク・シナトラがレパートリーとしていた楽曲であり、半ばトリビュート作のような意味合いも感じさせたが、あくまでも歌い継がれる名曲という点に重きを置いていた。新作『トリプリケート』はまさに、“まだまだ歌うべき/歌われるべき名曲があるぞ”というスタンダード・カヴァーの大作となっている。

 ツアーでもお馴染みのバンド・メンバーと共に、『シャドウズ・イン・ザ・ナイト』や『フォーリン・エンジェルズ』と同じくLAのキャピトル・スタジオでライヴ・レコーディングされた本作の中では、ミュージカル・ソングとして広く知られた「Once Upon A Time」(Disc 1:『’Til the Sun Goes Down』)、映画『カサブランカ』で歌われ、ニール・ダイアモンドやブライアン・フェリーといったシンガーも録音してきた「As Time Goes By」やビリー・ホリデイの名唱でも知られる「P.S. I Love You」(Disc 2:『Devil Dolls』)、そしてドリス・デイによるヒット後も多くのシンガーが歌った「Sentimental Journey」やスタンダード・ジャズとして広く解釈された「Stardust」など、幅広い時代の楽曲が取り上げられている。

 シナトラと同様、ビング・クロスビーのレパートリーを多く採用しているのは、滑らかに優しくスウィングする上質なバンド演奏の中で、ディランが自らの歌声を効果的に響かせるためのお手本としているからなのかも知れない。近年のライヴでもヴォーカルに専念する場面の多いディラン(ときにはピアノを奏でて歌うことも)だが、このところのカヴァー作品ではとにかく“ヴォーカリスト:ボブ・ディラン”としての瑞々しい魅力が引き出されている。

 では、ノーベル賞を獲得するほどの、詩人としてのディランの一面はどうだろう。実はこの辺りも見事で、例えば「I Could Have Told to You」では情緒的な膨らみを響かせるコーラスの中で、引き摺られた後悔の念をヴィヴィッドに歌い上げている。後悔はリアルタイムな感情であり、つまり真の意味で普遍的な価値を持つ歌詞と楽曲を、ディランは選び、歌い継いでいるのだ。どこか滑稽でありながら寂しげな「It’s Funny to Everyone but Me」から幸福な自問自答「Why I Was Born」へと至るクライマックスは、“ポップ・ソングを聴く”行為の真意に迫るような時間だ。

 なお、ソニーミュージックのボブ・ディラン公式サイト上では、『トリプリケート』と彼のキャリアについての話題が織りなす、濃厚なロング・インタヴューの日本語訳が公開されている。新作を一層面白くしてくれることは間違いないので、こちらも併せてぜひチェックして欲しい。(Text: 小池宏和)

◎リリース情報
アルバム『トリプリケート』
2017/3/31(金)Release予定 
4,000円(tax out.)/SICP-5302~5304
3CD/デジパック仕様/解説・歌詞・対訳付

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