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宇宙特集:画家・笠井麻衣子インタビュー

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MK-15-05
夢から醒めた / awoken from a dream
2015

油絵という手法をとりながら、常に「物語」を織り込んだイメージを描く画家・笠井麻衣子。日常で目にした光景から想像するものから、2015年には『竹取物語』を題材にした個展「おはなしのつづきのはなし」(Yuka Tsuruno Gallery)において、既存のストーリーを自身の中で更に膨らませて描くという試みをスタートした。日本における物語の始祖であり、星の子を描いた「竹取物語」を題材にした理由について、話を聞いた。

——笠井さんの作品は、「おはなしのつづきのはなし」以前から物語性がキーワードになっていますよね。最初はいろんな方のプライベート写真を見て、そこに自分が作ったストーリーを投影していたとか。

笠井「はい、物語のアプローチは大学出たすぐくらいから始めました。人がいない景色を見て、その中で人物をどういう風にアクションをさせていくとおもしろいかを考えて描くという手法です」

——モチーフでは子ども、特に女の子が多い。なぜ少女で物語が進行させるのでしょう。

笠井「自分や兄弟の小さい頃の写真を見て描いていたのが原点なんですが、そこから進んでいっても大人や男の子をあまり描く気にならなかったんです。意志のしっかりした成人を描く肖像画などは、その人に対して思いを馳せることに限界があるというか……うまく言えないけど、この子が考えていることを知りたいと思えるような存在として、誰しもが自己投影したり、誰かを思い起こさせる依り代として少女が存在している。だから、すぐに感情がわかる表情を避けたくて顔を隠したりもしていて。そうすると見てくださった人から全く予期せぬ感想がもらえたりするのでおもしろいです。
あとは、やはり生命的なものに惹かれているからだと思います。未知のものを生み出すのは女性ですし、宿り方も宇宙的でファンタジー要素を強めている。そういう宿す力と無垢とのバランスのようなものに強く惹かれるんじゃないかな」

——なるほど。私には、初期の“Training”シリーズで描かれた少女たちは、強くあろうとする意志を持っているように見えたんです。それが人を超えた存在を描いた『竹取物語』の世界で飛翔するという作品に繋がるのは自然に思えました。

笠井「ああ、嬉しいです。2015年の展示まではすごくパーソナルなことを描いていたのでうまく伝えきれないことが多かった気がして。それが既存の物語を題材にすることで、ある種の共通認識を持つことができるので逆に表現の幅を広げられると思ったんです。
最初は『竹取物語』を詳しく知らなかったんですが、この頃から関心を持ち始めた絵巻物を調べていると竹取物語の場面がよく出てくるんですね。それで興味を持って辿っていくと、日本最古の物語でこんなに多くの人に愛されているのに作者がわからないという謎めきにうわっとなって。多くのパロディが生まれているのも、作者不明だから物語を自由に自分の身に置き換えられるというのもあるし、物語自体も自由で、“自由”って人間の一番の強みじゃないですか。それを絵でも伝えたい。そのためには『竹取物語』しかないと思いました」

——静かなお姫様ではなくもっと動的な子たちが登場し、自然もたくさん入っていて、既存のイメージとは違うものでしたよね。あれは月に帰った後のおはなしですか?

笠井「タイトルが『おはなしのつづきのはなし』なので、その後と受けとってもいいですし、それも自由でいいと思うんです。『竹取物語』から発想を得ているけれど、それがわからないと言われても構わないというくらいの感じで描いていて。例えば、三連の大きな作品で、女の子たちが何人か並んで少し跳ねながら歩いているシーンがあるんですが、あれはメインになるストーリーの裏側にいる、本編では登場しない人たちを描いている。私にとって、あの女の子たちは宇宙人なんですよ。無邪気で、無垢な月の子。かぐや姫にあげるための綺麗な羽衣を持って、踊りながら竹やぶを歩くシーンがパッと思い浮かんで。それをどうしても斜め上から見た風景で描きたかった。あの展示は全部、俯瞰してる目線で描きたかったんです」

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密かに、大胆に愛でる(光)/ admire secretly and boldly (Sunlight)
2015

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密かに、大胆に愛でる(影) / admire secretly and boldly (Shadow)
2015

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密かに、大胆に愛でる(風)/ admire secretly and boldly (wind)
2015

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やさしい守護者たち / affectionate guardians
2015

——そこまで俯瞰の目線に惹かれたのはなぜでしょう。

笠井「上空から第三者が見ているというのは、絵巻物にも繋がる目線なんです。西洋画は描かれている場面も含め、被写体と目線が伴っていて、鑑賞者と同じ高さになる。日本の絵は、机や床で見る文化だったからか、斜め上の俯瞰図が西洋よりもものすごく卓越しているんですね。昔の四大絵巻はそれこそ作者不明なんですけど、描いていた人たちは自分を何者と思って描いていたのかなと考えたりします。神様だと思って描いていたのか、もうちょっと気軽に鳥が人間を茶化したような目線だったのか。家の中の仕切りも屋根を外した感じで描いているのも、地上の人たちが地上にいる人物が描いたと思えない、客観的すぎる視点なんですよ。実際にそれがどういう意図だったのかはわからないけれど、あの構図が当たり前のように受け入れられているのがすごいと思うんです。一切パースがないので、絵の中で全部が平行で、手前も奥の人も同じぐらいの強さで見えるんですよね。誰がメインでもなく、全部平等に見えるというの天からの目線っぽい。色も強さも平等に描かれているのが美しさにも繋がっていて、全部にピントが合ってるとも言えるし、逆に全部がぼやけて見えるとも言える。ピント合わせの西洋的な美術の勉強と全く逆のこの視点を、どうしても取り入れたかった」

——油絵で絵巻物の目線をミックスさせるというのはものすごくおもしろいですね。

笠井「こんなことをやっていることを異様にも思うんです。物語を絵画に置き換える必要が果たしてあるのか、絵画とはなんぞやとわからなくなるときもある。そのときに油絵にしてもマテリアルにしても制約がある中でいかに自由に表現をできるかを考えるとおもしろくなってくる。そしてそれが時代とマッチしているかは常に考えています。
例えば油絵は絵画組成ですごくアカデミックなところから学ばなきゃいけない部分もあって、一層目、二層目、三層目があるのが当たり前なんですけど、スピードがはやい現代には沿っていないのではないかと、あえて一層しか塗らない絵を描いてみたこともあります。いまはそうした技法ではなく物語に軸を置いていて、絵画は構図や色合い次第で道がたくさん開いてくるので、それが既存の物語をどう発展させていくかにトライしているところ。『竹取物語』から発展して、聖書を描いた西洋絵画や神話を題材にしたものも描いていますが、それも現代の日本にいる私ならではの視点を入れた、メタ的な表現にしたくて、手こずりながらも形にしていっているところです」

MK-15-06
見知らぬ地 / unknown land
2015

MK-15-08
夜明け前に / before dawn
2015

(c) the Artist, Courtesy Yuka Tsuruno Gallery

interview & edit Ryoko Kuwahara

笠井麻衣子
1983年、愛知県⽣生まれ、⾦沢美術⼯芸⼤学大学院修了。2008年『シェル美術賞 2008』準グランプリ受賞。主な展⽰に『アーツ・チャレンジ2010』(愛知芸術文化センター、愛知、2010年)、『第30回損保ジャパン美術財団選抜奨 励展』(損保ジャパン東郷⻘児美術館、2011年)、『シェル美術賞 アーティスト セレクション(SAS)』(新国立美術館、2012年)、『VOCA展2016 現代美術の展望 – 新しい平面の作家たち』(上野の森美術館 、東京、2016年)。コレクションにピゴッチ・コレクション、髙橋コレクション、昭和シェル石油株式会社など。
http://kasaimaiko.com

宇宙特集

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『Voyage of Time : Life’s Journey』Sophokles Tasioulis Interview
http://www.neol.jp/culture/54182/

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