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何も起こらない幽霊屋敷映画 『呪われし家に咲く一輪の花』

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I am the Pretty Thing that Lives in the House

 ホラー映画の有力なサブジャンルであるゴーストハウス・ストーリー、すなわち幽霊屋敷映画にはお決まりのパターンがある。いわくありげな家に引っ越してきた一家が幾度となく超常現象に見舞われ、命さえも脅かされる。やがて恐るべき悪霊の存在が明らかになるが、一家のもとに駆けつけた霊能力者がクライマックスで悪霊と対決し、からくも平和な日常が取り戻されるという筋立てだ。最近ではジェームズ・ワン監督の全米大ヒット作『死霊館』も、このパターンを踏襲していた。
 
 ところがNetflixオリジナル映画『呪われし家に咲く一輪の花』では、ほとんど何も起こらない。おそらくホラーの歴史上、これほど物静かな幽霊屋敷映画は前例がないだろう。かろうじて画面に幽霊は出現するものの、純白の花嫁衣装をまとった“彼女”は、その家の住人や訪問者に危害を与えるつもりなどまったくないのだ。幽霊が暴れなければ、幽霊屋敷ホラーとしての娯楽性がまったく成立しない。では、この映画はいったい何を描こうとしているのか?
 
 物語はある夏、28歳の看護師リリー・セイラーが、マサチューセッツ州郊外の森に囲まれた古めかしい一軒家にやってくるところから始まる。その屋敷の主はアイリス・ブラムという女流怪奇作家で、年老いて死期迫る彼女はすでに正気を失っており、言葉を発しなくなっている。リリーの役目は、この家に住み込んでアイリスの身のまわりの世話をすること。しかし、夜な夜などこからともなく不気味な物音が聞こえてくるこの家には血生臭い過去があった……。
 
 主人公のリリーは大変臆病な女性であり、それゆえに家の中をうろつく“何か”の気配が気になってしょうがない。それにアイリスが自分のことを、なぜか繰り返し「ポリー」と呼ぶ理由も知りたい。どうやらそれらの“真実”は、かつてアイリスが発表した怪奇小説「壁の中の淑女」に隠されているようだ。こうしてリリーがおそるおそる「壁の中の淑女」を読み始めるとともに、家にまつわる忌まわしい歴史がフラッシュバックされていく。現在のリリー、若き日のアイリス、そして19世紀に非業の死を遂げた花嫁ポリー・パーソンズ。3つの時代を生きる3人の女性のイメージを錯綜させた映像世界は、緩やかに異なる時空を行き来し、生者と死者の垣根さえも超越していく。
 
 『死霊館』のように派手な幽霊屋敷映画を期待した視聴者は、あまりにものんびりとしたストーリー展開やもったいぶった長回しにイライラするかもしれないが、作り手はそうした批判に耳を貸さないだろう。なぜならこれは前述の通り、他人を恨んで暴れるつもりなどまったくない幽霊が、なぜこの家にとどまり、さまよい続けているのかを探求したアート映画だからだ。いつしか人は幽霊となり、幽霊もまた家とともに朽ち果てていくというそのテーマは、仏教における「この世のすべてははかない」という諸行無常の摂理すら連想させる。
 
 また本作は、観る者を“呪われし家”の魅惑的な怪奇ムードにどっぷりと浸らせてくれる撮影、美術、音響、音楽のすべてが絶品だ。後になって判明することだが、ヒロインが物憂げに囁く冒頭のモノローグはまさに“幽霊の独り言”であり、そもそもこの映画自体が“幽霊の追想”なのだと気づかされ、これが長編2作目となるオズ・パーキンス監督のユニークなコンセプトに唸った。というわけで実にオリジナリティの高いアート系ホラーなのだが、真夜中にこんな奇妙な幽霊屋敷映画に耽溺していると、映画マニアである自分の人生もこうして朽ち果てていくのではないかと一抹の不安に駆られる一作なのであった。
 
※Netflixにて独占配信中
 
【予告編】

 
【視聴リンク】
https://www.netflix.com/title/80094648

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