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「仕事1本だ!」なんて言ってるようじゃ、本物じゃないですよーーワークライフバランスの先駆者・佐々木常夫さんが語る「働き方改革」

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もはや時代を象徴する言葉になった「働き方改革」。その“本丸”ともいえる長時間労働の改善や生産性の向上に管理職として30年以上前から取り組み、ワークライフバランス実現の先駆者として知られているのが、元東レ取締役の佐々木常夫さんだ。

そもそも、なぜ働き方を見直すのか。どうすれば実現できるのか。佐々木さんの豊富な経験も交えながら、多くのビジネスパーソンが直面する疑問と悩みに対するヒントを聞いた。f:id:k_kushida:20170307193859j:plain

佐々木 常夫(ささき つねお)

1944年秋田市生まれ。69年に東京大学経済学部を卒業後、東レ株式会社に入社。家庭で自閉症の長男、肝臓病・うつ病を患った妻らを支えるかたわら、職場では徹底した業務効率化で数々の実績を挙げ、01年に事務系の同期で最初の取締役となる。03年、東レ経営研究所社長に就任し、のちに特別顧問。経団連理事、内閣府の男女共同参画会議議員など公職も歴任している。

現在、株式会社佐々木常夫マネージメント・リサーチ代表。「働く君に贈る25の言葉」「そうか、君は課長になったのか。」「ビジネスマンが家族を守るとき」など著書多数。

仕事以外に大事なものがない日本人は、「自分の幸せ」を考えていない

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―ご家族の病気を機に家事との両立を迫られた管理職として、30年以上前から業務の効率化を徹底。「部下を定時に帰す仕事術」のパイオニアとして同名の著書もお持ちです。「働き方改革」が叫ばれるようになった現在、ようやく時代が追いついてきたという印象ですか。

「働き方改革」と言っても、今は国や企業が従業員に対して「早く帰りなさい」と言っている状況で、従業員は必ずしも早く帰ろうと思ってない。まだ「かけ声」だけ、本物じゃないと思います。

私が管理職だったときに、どんどん残業減らしてね。みんな帰るようになったとき、部下がよく言ってたのが「家に帰ってもやることがない」「妻がイヤな顔をする」「だからつい、みんなと飲みに行く」ということ。それじゃあ、何のためにやってるのかということですよね。最近では、若い男性も育休を取ったり奥さんと一緒に食事したりする、普通の感覚を持ち始めてます。だけど、それが大多数じゃない。今の若い人だって「俺は仕事1本だ」ってね、そういう人がまだまだ多いですよ。

私の古巣である東レはドイツに現地法人がありますけど、ドイツ人は始業が朝の8時半か8時のとき、7時半に来ます。で、夕方4時半に帰るため必死になって働く。ものすごいスピードですよ。で、帰って何をやってるかといえば、家にペンキ塗ったり子どもとキャッチボールやったりね、あとは晩ご飯を、必ず家族で一緒に食べる。仕事も好きなんだけど、家庭が大事なんですね。

日本の会社で働いていて、家帰ってペンキ塗らなきゃとか、ご飯を必ず家族と一緒にとか思っている人、まだ少数派じゃないですか?そもそも、家できちんとご飯食べる人さえ、まだまだ少ないと思います。それは、仕事以外に大事なものがないからなんですよ。そんな状況でワークライフバランスだとか働き方改革だなんて言ったってね、進みませんよ。そんなのは。ドライブ(原動力)がかからないんだから。

要するに、「自分の幸せがどこにあるのか」っていうことを考えてないってことです、多くの日本人は。

いっぱい働いて安心したいから、仕事が増えていく

―「そこまでしなくてもいい仕事、やらなくてもいい仕事をやっているホワイトカラーが多い」とブログの中でコメントなさったことがあります。これは経験上の実感ですか?

やっぱりね、「いっぱい働いて安心したい」っていう気持ちがあるんだと思うんです。時間を余らせるということをしないんですね。その気になればもう、会社の仕事ってのは目一杯あるんですよ。今ある量の2倍はある。1日10時間なら10時間で帰らなきゃいけないから、そこで切ってるだけで、もし働く時間が20時間あったらそれだけの仕事を見つけますよ、人間は。

私は事務系の管理職として、管理や企画、営業の部門を経験しました。こうした業務は生産ラインと違って、自分たちで仕事をつくっているところがある。企画なら「どんな新商品を開発したらいいのか」「どんな事業を選んでいったらいいのか」とかね、そういうテーマがいろいろあります。やり方によって、1週間で済むものもあれば1カ月かかるものもある。だから、それをうまく選択してやれば省力化できます。特に、何らかの課題について検討するよう指示が出たときはたいてい、そのことか、それに似たようなことが過去何度も検討されている。何もかも自分で考えるより、先人の知恵に学んでアイデアを踏まえて検討を進めた方が早くて有効です。

逆に「前からこういうふうにやっていた」ってだけで、本当はもっと効率的になる仕事、革命的に減らせる仕事もある。IT化なんて圧倒的でしたね。その影響で私の入社したころから人員が5分の1になっている部署もあります。私自身も管理部門にいたとき、当時ずいぶん高かったパソコンを部署の全員に持たせて、売上などの紙で出てくるデータを集計用に転記するような作業を全部、パソコンでやれるようにしていきました。作業量が、あっという間に半分以下になるんですよ。

営業部門の課長だったときは、出張のやり方を変えました。今まで1カ月半に1回だったのが3カ月か4カ月に1回とか、ほとんど行かなくていいようになった。最初に過去の「出張レポート」を見せてもらったんだけど、移動時間が長くて相手に会っている時間がほとんどなかった。せっかく行ったのに、キーマンに会えなかったり、突然の訪問でうまく情報を引き出せない…なんてことがありました。そこで、部下に「行くのもいいけど、毎週きちんと日を決めて、確実に相手がいる時間帯に電話して、その週お伝えしたいことを言うように」って指示をしたんです。そうすると営業先も、電話が来ると分かっているから事前に要望をまとめてくださるんです。だから、電話でこちらの話が終わると、聞いた向こうはその場で「じゃあ、うちはこういうことをします」となる。それでやっているうちに「電話で十分だから、もう直接来なくていい」と言われるようになったんですよ。

こんな風に色々と効率化を進めていった結果、営業マンの人数を3割削ることができたんです。部長に「スタッフを返上します」って伝えたら「よく人を増やしてくれと言われるけど、減らしてくれというのはお前が初めてだ」って言われましてね。余分な人員が減ればコストが下がるんですから、同じ売上でも利益が増えて、生産性はものすごく上がります。

家族も友達も大事。だから残業を減らすべき

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―自分の幸せをきちんと考えずに、目の前の仕事をやって安心してしまう。本当に忙しくて仕事に専念せざるを得ない人もいるでしょうが、いずれにしても「仕事だけが人生ではない」と気付くときがあるのでしょうか。

気付くきっかけは、いろいろあるんじゃないかな。大手商社の人から聞いた話では、その会社の役員の半数は仕事を優先させた末に家庭が崩壊しているそうです。家庭を犠牲にして仕事して偉くなって社長になれたとしても、いずれ辞めることになる。よほど成功すれば別かもしれませんが、普通は会社の机もなくなって、そこからまだ30年くらい人生があるんですよ。そのときに「ああ、仕事ばっかりやらなきゃよかったな」と思っても、後の祭りでしょう。

父親と子どもの関係っていうのも、みんな疎遠ですよね。会話がないし、子どもが何を考えているのか、よく分からない…なんて状況もあったりしますよね。今やっているNHK連続テレビ小説『べっぴんさん』でも、何の不自由もなく育った高校3年生の女の子が満ち足りない気持ちで変な世界に入ってしまった時に、子どもと正面からぶつかっていたのは母親。父親とはほとんど会話にならないし、そういうチャンスがない。ドラマは戦前という時代設定でしたが、今も多くの場合そうですよね。日本を代表するような立場にある経済人が「進学も就職も結婚も、全部奥さん任せ」と言って憚らないんですから。世界的ベストセラーになったビジネス書「7つの習慣」の著者、スティーブン・コヴィーさんが9人の子・36人の孫に囲まれた幸せを語って「家族の成功」を説いていたのとは対照的です。

毎日のように子どもと一緒に食事をして、どっか一緒に旅行に行ったりしていれば、気持ちが伝わりますよ。「こうなったときにこうしてあげよう」っていうのができますよ。私の子どもは、独立した今でもよく遊びに来ていて、娘はこのあいだ近所に嫁いだんですが、娘だけじゃなく旦那もしょっちゅう泊まっていきます。普通なら敬遠されそうな関係ですよね。でも「いろいろ話を聞いてくれて居心地がいい」って。娘が仕事で遅いとき、男同士夕食をとりながら、いない娘の悪口言ったりね(笑)。

友達も大事です。私は、仕事の効率化を進めていって、時間ができたら、会社の内外でいい情報を取りに行くようにしていました。40代のころからは、他業界の企業や官庁からエースが集まってくるような勉強会に300回くらい出て、そこで得たものが仕事の武器や、著書のアイデアにもなったんだけど、この勉強会で知り合った仲間とは、今でも公私ともに交流があって、定期的に会っています。いろんな人がいるから、本当に楽しいですよ。

会議と資料は削る。みんなで最短コースを考えるミーティングをしよう

―増える仕事を少なくする、要らない仕事を切るためには、具体的にどうすればいいですか。

業務を削らなきゃいけないという認識を職場のメンバーで共有し、場を設けて集中的に考えることですね。私は管理職として、いらない資料と会議をどれほどやめたか分からないくらいですが、ミーティングはしょっちゅうやっていました。例えば「この仕事をどうやったら効率的にやれると思う?」とか「どうやったら最短コースで行けると思う?」っていうのを、みんなで議論してみようって。何人かでやると、やっぱりいい知恵が出るんですよ。

「どうしたら、やめても済むか」ということを真剣に考えることから始まりますね。たとえば毎週1回なんとかの会議をやりますって言ったら「本当にやらなきゃいけないの?」って。「切れるんじゃないの、これやらなくてもいいんじゃないの」っていうことを考えて「ああやっぱりやんなきゃいけない」と思ったらやったらいいけど、「こうやったらやめてもいい」とかね、「今まで2時間かかってたけどこれは40分ぐらいでいいや」なんてできるじゃないですか。考えればできるんですよ。考えて戦略を立てて、つまり方法を考えて、その考える場をつくらなきゃいけない。自分で考えるっていうのは限界があるから、みんなと一緒に考える場を。

それに、スタッフ一人ひとりに「自分で考えなさい」って言っても考えないんですよ、忙しいから。ところが考える場があってね、15分でいいからこのことで議論しようって、その場が与えられるとみんな考えるんですよ。そうやって人間が集まれば知恵が出て、改善されるということです。

参考図書

『リーダーの教養』/佐々木常夫/ポプラ社

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佐々木常夫オフィシャルWEBサイト

WRITING:相馬大輔 PHOTO:小出和弘

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