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小さな不満と小さな冒険 『この世に私の居場所なんてない』

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I Don't Feel At Home In This World Anymore

この世界は小さな悪意に満ちている。他人の家の前で犬にフンをさせる人、小説の結末をまだ読んでいない相手にバラす人、スーパーで棚から商品を落としても拾おうとしない人……。そんな人々の無神経さが許せない気弱な看護助手ルースは、ある日、空き巣に入られてしまうが、警察はまともに調べようとさえしない。我慢の限界を感じた彼女は、自ら犯人捜しを開始するものの、そこには思わぬ危険が待っていた……。 
 
2017年サンダンス映画祭で審査員グランプリを受賞したNetflixオリジナル作品『この世に私の居場所なんてない』は、『ブルー・リベンジ』などで知られる俳優メイコン・ブレアの監督デビュー作。ごく平凡な人物がふとしたことから犯罪と暴力の世界に巻き込まれていくというストーリーや曲の使い方のセンスはコーエン兄弟作品に通じるものがあるが、犯罪ものにしては絶妙なユーモアがあふれ、コメディにしては時に恐ろしく残酷でもある独自の作風はやはりジャンル分けが難しい。わくわくするようなオリジナリティを感じる、Netflix提供ならではの異色の快作である。
  
オリジナリティといえば、この主人公。ドラマ『チャーリー・シーンのハーパー★ボーイズ』の怖くて可愛いストーカー女で知られるメラニー・リンスキーが演じる看護助手ルースは、およそ主人公らしくはないがどうしようもなく共感を覚えてしまうキャラクターだ。単調な仕事の毎日に退屈を感じながらも、なんとかマトモであろうとするもう若くない女性。まじめに生きているのに、どうして私の不満を誰もわかってくれないの!?とイライラするこの人の実在感を、微妙な太り具合が素晴らしくリアルなリンスキーの肉体が担保する。普段は脇役の多い彼女にとって、これはキャリア中ベストの当たり役ではないだろうか。 
 
そんな主人公ルースの、ガール・ミーツ・ボーイのお相手となるイライジャ・ウッドがこれまた最高。怪しいサングラスをかけたご近所の変人トニーは、身体は鍛えているようだけどまともに働いている様子もない。趣味はといえばマーシャル・アーツの研究(?)で、ヌンチャク、手裏剣、モーニングスター(マニアック!)の練習に余念がないという謎の男。ルースのボディガードとして空き巣捜査に参加するが、役に立つのか立たないのかさえよくわからない(壁に放った手裏剣がなかなか抜けない場面は爆笑)。 
 
空き巣犯を追うルースとトニーは、冴えない日常から少しだけ離れたこの「冒険」に、不思議な高揚感を覚え始める。それは、理不尽がまかり通るこの社会への不満をきっかけにしたささやかな抵抗だったのだが、やがて犯罪者たちの世界に接近しすぎた2人は恐ろしい目にあうこととなる。定型におさまらない作品だけに、中盤以降のストーリー展開はまったく読めない。いっさいの予備知識なく観始めた筆者も、いつの間にか彼女たちの「冒険」の行方から目が離せなくなっていた。 
 
この映画で主人公たちが自分の人生に感じているのは、不満といえないような不満であり、不幸と呼べないような不幸だ。声高に誰かに苦痛を訴えるほどでもないが、押しても引いてもびくともしない「平凡」の恐ろしさは、じわじわと生きる活力を奪いにかかる。この気分、同じく凡人である筆者には痛いほどわかるし、だからこそルースとトニーの非日常へのダイブに強い共感を覚えるのだろう。 
 
バイオレンス描写が苦手な方は目をそむけたくなるような場面もあるが、暴力は悪意によるものではなく、どちらかというと偶発的なものとして描かれる。そして観終わったあと心に残るのは失望や陰惨さではなく、退屈な日常の底流に流れる小さな優しさであり、実はどこにだってある「私の居場所」のありがたさなのである。
 
※Netflixで独占配信中。

【予告編】

 
【視聴リンク】
https://www.netflix.com/title/80100937

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