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『九十歳。何がめでたい』に登場、読売人生案内回答者の本音

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「ベストセラーは世の中を映す鏡」といわれるが、では、現在56万部を超える大ベストセラーとなった佐藤愛子さんのエッセイ集『九十歳。何がめでたい』が映し出しているのは、はたして──。

「私が買った帯には『めでたく35万部突破』とあるんですが、もう56万部ですって? 本からは、90才を過ぎた肉体の衰えとか寂しさを書き留めながら、佐藤さんの豪快な諦念というものがとても伝わってきました。笑うところも涙するところもいっぱいあるし、しゃあないから、こっちも残る人生を楽しく生きようと思う気持ちになれるのがいいんじゃないでしょうか」

 そう話すのは、評論家の樋口恵子さん(84才)。本書では、樋口さんも回答者を務める読売新聞「人生案内」を俎上に綴っているが…。

「私も長年、回答者をやっていますから、とっても興味深くて。私もバッサリ斬られているんじゃないかなと恐る恐る読んだんですが(笑い)、取り上げられていなかったのでホッといたしました。佐藤さんは、私にはとても回答者は務まらないといいながら、的確にお答えになっている。回答者の本音はそうなんだよ、というところもあって、思わず一緒になって笑ってしまいました。私ももうちょっと技術を磨いて、本音を出しながらも回答者に寄り添うことができないかと勉強になりましたね」

 今回、実際に本書で俎上にのせられた回答者にも、恐る恐る話を聞いた。まずは当該の一編「ソバプンの話」について簡単に説明をすると──。

 それは「人生案内」に掲載された、医療大学で学ぶ20代女性からの相談。同級生の男子学生が2週間以上も同じ服を着続けていて強烈な臭いを放っているため耐えられない、というものだ。彼女は、男子学生の悪臭のために体調が悪くなり、学生課に相談も行ったが何も解決されない。かといって、直接注意するのは怖くてできないと嘆き、〈このままでは大学に通えなくなりそうです〉と結んだ。

 佐藤さんはそれに対して、若かりし頃の故・遠藤周作さんの綽名「ソバプン」(そばに行くとプンと臭うため)を思い出し、〈讀み終えて私は思わず笑った〉と綴った。そして〈何もいえず学生課に相談したり新聞に投稿して回答を待つというような手の込んだことをするなんて、そういう人は「気弱」なんてものじゃない、私にいわせれば「怠け者」だ〉と一刀両断に。

 一方、本当の回答者たる中央大学文学部教授の山田昌弘さん(59才)は、この相談にどう答えたかといえば、

〈学生が、平穏な環境で学ぶことを保障するのは、やはり、大学の責任です。(中略)大学としても、評判に関わることですから、なんらかの対応をしてくれるはずです〉

 と穏当な答え。佐藤さんはそんな山田さんの回答に、〈これはエライ世の中になったものだ。/たかがソバプン一人で「大学の評判に関わる」とは!〉とただただ吃驚した。

◆相手がもしも変な人で、逆襲された時に、私は責任を取れない

 前置きが随分と長くなったが、当の山田さんは佐藤さんの回答についてこう話した。

「佐藤さんが羨ましいですよ。世間体を気にせず、自由にモノが言える。90才を超えて失うものがない人の特権ですね。一方、こちらは大学人であり、現代の状況からすると、私のような回答をせざるを得ない。回答者としてもリスクを冒した回答はできないんですよ。佐藤さんは『そんなの直接言えばどうだ』と仰るけれども、相手がもしも変な人で、逆襲された時に、私は責任を取れないじゃないですか」

 かつては学生の生殺与奪の権を握った絶対者だった大学の先生だが、今や、ひとたび学生やその親からクレームが入れば、教職を追われかねないのだという──。

「私も若い頃は、指導教官に『こんな論文しか書けないなら大学院をやめてしまえ』と随分言われたものですが、今やそんなことを言ったら、ハラスメントになる。本人はもちろん、その親も文句を言ってきます。だから、文句を言われないように行動しないといけないので、大学の先生も息が詰まっている感じです」

 そんな状況は大学に限らない。子供の声はうるさいと言われ、親のしつけにも批判の声が殺到。誰しも、何から何まで周囲を窺い、ビクビクせざるを得ない世の中なのだ。

「だから私も本当は、佐藤さんのように本音を言えたら楽だと思いますし、社会はもっとうまく回ると思いますよ。とにかく文句を言われたら、訴えられたらということで、みんなどんどん萎縮していますから、個人にとってマイナスなだけではなく、社会全体にとってもマイナスになっていると思います」(山田さん)

 本書のベストセラーは、そんな窮屈な世の中の裏返しでもある。だからこそ、その読後感は清々しく、「いちいちうるせえ」と心の中で毒づくほどの元気がわいてくるのだ。

※女性セブン2017年3月2日号

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