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メルセデス・ベンツはなぜ「ラーメン」を販売したのか?――「元気な外資系企業」シリーズ~第2回メルセデス・ベンツ日本

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大きな変革の時代。企業でも、さまざまな取り組みが進む。では、海外に本社を持つ外資系企業では、どんな取り組みが推し進められているのか、探ってみる外資系特集企画。第2回は、メルセデス・ベンツ日本の「マーケティング」だ。f:id:k_kushida:20170203111412j:plain

マーケティング戦略を変え、業績絶好調

「メルセデス・ベンツが特製ラーメンを販売?」。2016年12月、こんな書き込みがインターネット上を飛び交っていたのを見た人も少なくないかもしれない。テレビにも取り上げられ、連日、行列ができていた。1杯、1200円。2種類のラーメンを実際に食べた人も続々とSNSに投稿、話題がさらに話題を呼んだ。もちろんメルセデス・ベンツがラーメン店を始めたわけではない。これは、新たなマーケティング戦略だった。

メルセデス・ベンツ日本の業績はここ数年、絶好調だ。2012年の年間新規登録台数は、前年比26.2%増の4万1901台。2013年は新車販売台数の最高記録を塗り替え、28.2%増の5万3720台。2014年は13.2%増の6万834台。2015年にはさらに伸びて6万5159台、2016年には6万7378台と4年連続で過去最高を記録した。

国内で販売されている純輸入車として2年連続で首位、4年連続でプレミアムブランドナンバーワンを獲得している。だが、リーマンショック後、それまでほぼ4万台、好調な年であれば5万台で推移していた販売台数が3万台を切ったことがあった。そこから、メルセデス・ベンツ日本は、大きく変わっていく。マーケティング戦略を一新させていくのだ。企業広報課マネージャー代理の澤井裕規氏はいう。f:id:k_kushida:20170203104552j:plain

▲企業広報課 マネージャー代理 澤井裕規氏

「メルセデスというと、特定の人が乗る車、という強いイメージがあったのではないかと思っています。お金持ちが乗るんじゃないか。車は1000万円以上するんじゃないか……。しかし、コンパクトカーのラインナップが増えたこともあって、大きく変わっていったんです。それまでメルセデスは自分には関係ないと思っていた方々に、本当のメルセデスの姿を知っていただきたい。そんな取り組みをたくさん進めてきました」

例えば、大型ショッピングモールに車を展示する。それまでは「販売店に来てもらう」というのが、高級車販売の常道だった。それを打ち破り、顧客がいるところ、しかもごく普通の人たちがいるところに自らが出て行ったのだ。家族連れで賑わうショッピングモールにメルセデスの車を展示していったのである。澤井氏は続ける。

「想定以上に興味を持ってくださる方が多かったんです。メルセデスにこんな車があったんだ。月々1万数千円から乗れるプランもあるんだ、と。私たちのことを知らなかった人たちに訴求することができた」

新しいプロモーションにも大胆に挑んだ。高級車のCMといえば、重厚感のある走行中のリアル映像が流れるものが、今も中心だ。ところが、Aクラスと呼ばれるコンパクトカーのフルモデルチェンジに当たり、メルセデス・ベンツ日本が選択したのは、なんとアニメを使ったCMだった。リアルなビジュアルが出てこない。新車なのに、実車が出てこないのである。

「このときは、30代、40代の方々に是非見ていただきたかったんです。そこで、彼らが若い頃に親しんでいたエヴァンゲリオンのキャラクターデザイナーである貞本義行氏にデザインを依頼し、音楽はアニメ、ドラマ、映画、ゲーム等のサウンドトラックで活躍されている川井憲次氏、アニメーション制作は数々の名作を世に送り出したプロダクションI.G.にお願いしました」

アニメーションであってもメルセデスの高いクオリティを表現できることを求めたのだ。

「日本が誇るアニメを本気で作った結果、公開後、メルセデスがアニメのCM、という驚きで大きな話題にしていただきました」

また、世界各国のメルセデス・ベンツ現地法人から「このCMを自国のプロモーションに使わせて欲しい」という反響があったという。

2016年7月には、「Eクラス」というメルセデスの中核モデルの新車発表会を、なんと日本の迎賓館で行っている。度胆を抜く企画が続々と行われているのだ。

「車を売らないショールーム」をつくった

このメルセデス・ベンツ日本の新しいマーケティングの象徴ともいえる存在が、東京・六本木につくられた「メルセデス・ベンツ コネクション」である。広大な敷地に、カフェやレストランがあり、メルセデス・ベンツのグッズも売られている。もちろん車も置かれているのだが、なんと販売はしない。ここは言ってみれば、「車を売らないショールーム」なのだ。セールスマンはいない。実際、ここで買うことはできない。発案したのは、当時、メルセデス・ベンツ日本の副社長で現在は社長を務めている上野金太郎氏だ。澤井氏はいう。

「業界では、あり得ないものでした。利益を生まないショールームなんです。当然、ドイツ本社も当初はネガティブでした。日本で企画を練り直しドイツ本社へ提案することを何度も続けた結果、やってみようという決断が下りました」

狙いは、それまでメルセデスに触れあう機会のなかった人たちに、気軽に立ち寄ってもらい、メルセデスに接してもらうこと。普段の生活にメルセデスが身近な存在であると知ってもらうこと。そこで、誰でも入れるカフェやレストランをつくり、そこに車がある、という環境を作った。

「結果的に、来場者はメルセデスのオーナー以外の方や、車を持っていない方が7割を占めました」

セールスマンが一人もいない安心感も手伝ってか、試乗をしてみたい、という人も数多く出た。その場で販売店の紹介を受け、購入する人も出始めた。ドイツ本社は、「生活の中に自然に車がある環境」という意味をすばやく理解した。メルセデスを特定の先入観なく多くの人に理解してもらう上で、大きな効果があったのだ。今や「メルセデス・ベンツ コネクション」は世界8カ所に展開されている。そして冒頭のラーメン企画は、この場所から発信されたのである。f:id:k_kushida:20170203104146j:plain

メルセデス・ベンツ コネクション

「車を売らないショールーム」、メルセデス・ベンツ コネクション。カフェやレストラン、プレミアムグッズが販売されているほか、試乗もできる。セールスマンはいないため、ここでは車は買えない。もちろん、セールスもされない。

「メルセデス・ベンツ コネクション」では、カフェやレストラン、コレクショングッズの販売、試乗のアテンドや車の解説といった日常的な活動のほかに、不定期でイベントが開催されている。このイベントがまた、普通ではない。例えば、2016年夏に行われたのが、ヱビスビールとコラボレーションした「ビヤテラス」だった。f:id:k_kushida:20170206103219j:plain

▲ビヤテラス

ピンと来た人もいるかもしれないが、車とお酒の組み合わせは実は広告やイベントの世界では御法度である。飲んだら乗れないのだ。だから広告やイベントの世界では、この組み合わせはありえない、とされている。ところが、自動車メーカー自らが企画したのだ。メルセデス・ベンツ コネクションの責任者であるマネージャー、田中順太郎氏はいう。f:id:k_kushida:20170203103447j:plain

▲カスタマー・エクスペリエンス部 メルセデス・ベンツ コネクション マネージャー 田中順太郎氏

「お客さまに驚きを与えたいんです。お客さまの期待値を超えたい。私たちは、ベスト・カスタマー・エキスペリエンス、最高のお客さま体験という言葉を掲げていますが、想定内でなく想定外の経験をしていただきたいんです。アルコールと自動車の組み合わせもそのひとつでした。通常、コラボレーションは掛け算や足し算をするものですが、このときはDrive or Drinkというコンセプトをつくりあげました。どちらかひとつ、という啓蒙活動の意味合いもあります。もちろん飲んだら試乗はできません」

イベント会場は、隣接するメルセデス・ベンツ コネクション ネクストドア。ビヤテラスの真ん中に浅いプールをつくり、都会のリゾート感を演出した。

「秋には、同じ場所で同じヱビスビールとオクトーバーフェスタを開きましたが、普通にオクトーバーフェスタを開いても驚きはありません。このときは、プールを石庭にして紅葉の葉を敷き詰め、和傘を並べ、ドイツと日本の食の融合をコンセプトに展開しました」

クリスマスイベントにこっそり“ラーメン”を組み込んだ

そして12月に行われたのが、クリスマスイベントだった。目玉企画となったのは、直径10m、1万5000ものLEDがついた世界最大級のリース。SUV「Gクラス」によるマウンテンクライム。近郊のイルミネーションスポットをメルセデスで回ってもらえる試乗サービス「ナイトクルーズ」だった。そして、ここにひっそりと組み込まれていたのが、ラーメンだったのである。

「イベント会場で普通のクリスマスメニューを振る舞っても驚きはありません。このとき、ラーメンというアイディアを使うことにしたんです」

実は田中氏、2016年7月まで17年間にわたって人事の仕事をしていた。車には詳しくないが、顧客視点は活かせると考えた。学生時代に好きだったのが、ラーメン。国民食でもあるラーメンを使って、メルセデスの“「高級感」というハードルを下げる”ことができるのではないか、と発想したのだ。

「異動した直後に、懇親会でレストランのイタリアンのシェフと話をする機会があったんです。そのとき、ラーメンでもつくりたいなぁと冗談っぽく言ったところ、覚えてもらえていて。3週間ほど後、試作したので食べてみてほしい、と。鴨の生ハムだけでダシを取ったスープのラーメンでした。これはすごい、何処かで販売したいなぁと思っていたんです」

クリスマス時期は冷える。リースを見てもらったり、試乗してもらった後に、ラーメンであったまる。イベントともマッチすると考えた。しかし、上司の部長に話すも反応は芳しくなかった。だが、試食でラーメンづくりへの意気込みが伝わった。

「やるからには、メルセデスのブランドにふさわしいものを出す。これがいつも言われていることでした。メルセデス・クオリティがあるか、と。シェフと一緒につくったラーメンは、魂が入っていると感じてもらえたのだと思います。実際、このとき別の企画の試食でNGが出たものもありましたので」

もう一人、確認を取らなければいけなかったのが、社長の上野氏だ。だが、これは心配していなかった。上野氏自身が、実はラーメン好きだと知っていたからだ。

「最初に私が試食をしてしばらく経ってから一度、食べてもらったんです。そうしたら、絶賛でした。今すぐに何かで出せ、と言われたほどで(笑)」

もちろん、ただラーメンを出したわけではない。企画も“メルセデス・クオリティ”だった。実は先のアニメCMは、伝説のラーメン屋台をメルセデスのAクラスで追いかける、というストーリー。その伝説のラーメン屋台が出していたラーメンが、「流星麺」。これをそのまま実際に出すラーメンの名前にすることにしたのだ。f:id:k_kushida:20170203110234j:plain

空の流星麺

2月5日まで展開されていたメルセデス・ベンツ日本のラーメン「空の流星麺」。厳選された名古屋コーチンの鶏ガラをじっくり煮込んだ白湯スープに細玉子麺がしなやかに辛み、柔らかく仕上げた鶏チャーシューや素揚げしたポロねぎの豊かな香りとともに、「空」の拡がりを感じさせてくれるラーメン。麺を食べ終わった後、スープに空豆で仕上げたフォカッチャを浸すと、「新感覚」な味わいも楽しめる。

「詳しくご存じの方は気づかれると思いました。4年の時を経て、あのラーメンがリアルになった、と。知る人ぞ知る、ということで、SNSなどで話題にしてもらえたら、と考えました」

お店で出すラーメンに物語をつくったのである。

来場、試乗など記録的な成功に

メルセデス・ベンツ コネクションのレストランのシェフがつくる洋風ラーメンだが、味も3種類、考えた。メルセデス・ベンツの有名なマーク、スリーポインテッドスターは、それぞれ「陸」「海」「空」を示している。イタリアンシェフが作った鴨を使ったものは「陸の流星麺」、フレンチシェフがシーフードを使ったものが「海の流星麺」とした。実は一度に3種類出すことは難しかったため、「空の流星麺」は年明け1月13日から2月5日まで提供されていた。f:id:k_kushida:20170206103439j:plain

▲陸の流星麺f:id:k_kushida:20170206103527j:plain

▲海の流星麺

「最後まで迷ったのが、価格でした。ラーメンで1000円を超えるのは、どうかと。しかし、原価を考えると、実はもっと高い値付けが当初は想定されていたんです。そこで、添え物をつけることにしました。海には焼きおにぎり、陸にはフォアグラバターのバケット。空には空豆でつくったフォカッチャ。これを残ったスープに浸しても食べてもらう、という提案をしました。食べ方という点でも新しい提案ができたと思っています」

幸運だったのは、多くのメディアが集まる新しいモデルの発表会で、イベントについて発表できたことだ。テレビの取材のあと、Yahoo!のトップに記事「ベンツ特製ラーメン なぜ販売?」が出る。これで問い合わせが殺到。翌日から取材ラッシュとなった。驚くべきことに、在京の民放キー局すべてが取材に来たという。

1日100杯限定の2種類のラーメンは連日、行列ができて1時間半ほどで完売。3500人を超える来場者があった。メルセデス・ベンツ コネクションには2万4000人が来場。過去最高水準の数字となった。ナイトクルーズの企画もあった試乗は通常、毎月500〜600件が12月だけで1230件という新記録。まさに、してやったり、の企画となったのだ。

「うれしかったですね。新しい仕事に就いて、こんな喜びがあるのか、と知りました。人事ではできない仕事でしたので。ただ、行列ができることは信じていました。味も食べ方も個性的で高いクオリティのラーメンができたことが大きかったですし、何より誰に話しても驚かれた。素通りされることはないと思いました。テレビの影響も大きかったですが、ラーメンはテレビの鉄板ネタだったことも知りました」f:id:k_kushida:20170203110817j:plain

メルセデス・ベンツ日本のマーケティングのキーワードを広報の澤井氏、メルセデス・ベンツ コネクションの田中氏に挙げてもらった。メルセデス・クオリティ、誰もやっていない、期待以上、そして愛されること。田中氏はいう。

「自動車の輸入車の中で最も愛される、ということではなく、ファッションの世界もドラマの世界も、多くの人の心を捉えているものはすべて競合、というのが私たちの考え方なんです。しかも、ドイツに本社を持つ外資系企業ですが、日本発にもこだわる。これからも、新しい取り組みにどんどん挑んでいきたいですね」

この先、春に向けて、また何やら仕掛けが進んでいるらしい。メルセデス・ベンツ日本のマーケティング、要注目である。f:id:k_kushida:20170203111009j:plain

WRITING:上阪徹 PHOTO:刑部友康

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