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Radiko、日経電子版、Backlog、サンシャイン水族館の成功事例に見る「失敗しないリニューアルのキーファクター」

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クリエイティブにも営業視点

12月19日に行われた「UX & Service Sketch」は大規模リニューアル特集。「Radiko」「日経電子版」「Backlog」、そして「サンシャイン水族館」の事例を通して、リニューアルプロジェクトに必要なものとは何か、トークとディスカッションが行われた。

昨年、タイムフリー(過去1週間以内に放送された番組を後から聴くことのできる)、シェアラジオ(放送の中の瞬間を切り取ってシェアすることができる)という2つの大きな機能を追加した「Radiko」。そのUI/UX設計に関わったのはSCHEMA。ディレクターを中心とした制作会社だ。

SCHEMA,Inc. パフォーマー 橋本健太郎氏

Radikoのリニューアルにあたって、クライアント(Radiko)側からの要望は次の3点。
新しい機能をしっかり伝えたい
使いやすさを向上させたい
時代にあったリニューアル感を出したい

一見、それほど無理難題ではなさそうだが、「以前のRadikoがすごくよくできていた」「歴史が長い業界なだけにさまざまな人が関わっていた」ことから、アプリとして形にするまでには時間がかかった。彼らが関わったUU/UX部分で1年10カ月だ。

どういうことかというと、「すごくよくできている状態に、先ほどの大きな2つの機能を追加すると画面の設計として破綻してしまうため、整理が大変」だったし、またラジオ局をはじめ、関係各社、多くのステークホルダーがいることで「とにかく調整が必要だった」のだ。

「プロジェクトマネジメントがしっかりしていれば、プロジェクトは炎上せずにしっかり着地できる。それにはコミュニケーションがマスト。プロジェクトマネジメントの中でもコミュニケーションがその9割を締める」と橋本氏は言う。

さらに、長期プロジェクトのクリエイティブの現場において本当に必要なのは営業スキルではないかとする。営業というと、どうしても泥臭い、汗臭いというイメージがある。しかし、その視点に注目すると、クリエイティブとは異なる出発点を設置することができる。クリエイターは「目の前にある課題をクリアしようとする」。一方、営業と呼ばれている人は「与えられたミッションを必ずクリアする」。このように、両者の出発点とゴールには大きな違いがある。それによって結果も変わってくる。

長期プロジェクトのクリエイティブには営業スキルも必要

サンプルとして橋本氏が上げた各ポジションによる考え方の違いは非常にわかりやすい。

ex:準備していたデザインプランが通らなかったら…
→ デザイナー「テイストを変えて提案してみよう」
→ ディレクター「別のデザイナーでもう1案提案しよう」
→ 営業スキルを持ったPM「決済者を確認して調整しよう」

つまり、決済者のまわりに何かNGの理由があるはずで、その要因を調整することで方向性を覆そうということ。こうした営業的な視点を持つことで、その局面を打開する新たな発想を出すことができる。

ただ「これを作って」と、その中でものを作るだけでなく、その領域にどんな人が関係していて、作ろうとしているものが世の中にどんな影響を持つのか、その幅を大きく見ることが重要だ。それにより、目の前の課題解決に柔軟に切り抜けていくことができるのだ。

リニューアルを一か八かのバクチにしない

昨年、誌面の全面的なリニューアルが行われた日経新聞電子版。開発・運用自体は内製で、深津貴之氏を中心とするTHE GUILDは、最初のコンセプトモデルのプロトタイピングの部分、そして以降、現在まで監修という位置づけで関わっている。

内製チームで開発・運用を続けることの最大の弱点は、メンテナンスやアップデートが作業の中心となり、メンバーに新規事業をやったことがない人・リスクを追って何かをするという人がいなくなってしまうこと、また、自分たちの評価と世間一般のズレを把握できなくなってしまうことだとした上で、深津氏は自分が思う一番大きなキーファクターは、外部と内部の相対的な位置関係、力関係を指摘する人だとする。

世間との関係、設定されるラインに対して自分たちのクオリティが高いのか低いのかわからなくなってしまう。そのとき、チームの中でも外でもいいのでそれを指摘する人が一人でもいるといろいろなことがブレなくなる。これが、日経新聞電子版リニューアルにおいて深津氏が果たした役割ということになる。

THE GUILD 代表 深津貴之氏

では、実際どういう作業だったのだろうか。

スマートフォンアプリの場合、ウォーターフォール型でいきなり作ってしまうと触ってみてダメだったとしてもリカバリが効かない。そのため、まずはリサーチ、プロトタイピング、テストに時間をかけた。

リサーチでは、メニューや画面構造の解析やユーザー調査、自社製品も他社の競合アプリも含め、検証できることを全部検証した。こういう構造だとこういうユーザーに弱い、こういう構造では誰も理解できないと、いろいろなことをインプットしプロトタイピングのフェーズへ。

プロトタイピングでは、低精度(ワイヤーや紙芝居で動くプロトタイプ)、中精度(Photoshopでレイアウトや位置を精緻化したもの)、高精度(XCodeなどを使って実際にプログラムで動くもの)のように、精度を分けてプロトタイピングを行った。特に、日経新聞電子版の場合は中精度のプロトタイプを一番厚くやったという。

スライダーやスイッチでレイアウトや行間をカスタマイズできるような新聞エディタ的なものをアプリで作リ込み、いろいろなパターンで使い勝手を試した。

実際にさまざまなパターンを試すためのプロトタイプ

矛盾のある構造は落書きレベルで潰してしまって、残ったものの中からプログラムを組むなど、もっと高度なプロトタイプで検証する。このようにして、まず1カ月リサーチ、そして理想を体現するためのプロトタイピングを4カ月、あとはメニューのテスト、パラメーターを変えチューニングしながら、最終的に、新聞の在り方や現実的なものと折り合いを付けていった。

そこから先は日経新聞社側が実装を始め、GUILD側の作業は監修がメインの作業になる。

ただ、リニューアルはリリースしたら終わりではなく、そこが実質的なスタートだ。現在も、PDCAで回す内製チームと週1のミーティングを重ねている。

思いつきのリニューアルはバクチだが、リサーチ、プロトタイピング、テストといった前段階の準備を厚くすることで、リニューアルの確度を上げることができる。そして、これはスーパーチームやスーパータレントなしでも可能な方法だ。

UIの負債を解消する

「Backlog」はSaaS型のプロジェクト管理ツールで、現在、ヌーラボの主力の事業になっている。有料顧客数が約4900社、月間でおよそ16万人が使っている大規模サービスだ。多くの人の仕事をリアルに支えているサービスのため、リニューアルに際してかなりのプレッシャーもあったという。

それでもリニューアルを行ったのは、公開から12年が経つ老舗のサービス、その間、少しずつ機能を充実させていったという経緯にある。さまざまな面でいろいろな負債が溜まっていた。今回は、主にUIの負債を解消する目的があった。今後さらに、改善してよいものにしていくというための下地作りという位置づけだ。

手前:Backlog エンジニア 藤田正訓氏、奥:Backlog プロダクトマネージャ 縣俊貴氏

そのため、やることとやらないことをきっちり見極めている。

今回のフェーズでは機能の削除や大幅な画面構成の変更もやらないと決めていたという。密集していた画面UIをスッキリさせ、かつ今後も拡張できる画面の構成にすること、ユーザーがやりたい操作を迷わずできるような配置を意識した。操作のボタン類の整理、本来近くにあるべき情報を集める、同じようなフォームで重複していたものを整理するといった形だ。


画面UIのbefore&after

また重要な点として、Backlogのコンセプトである「仕事の中に楽しさを」というところはブレないようにした。それはアイコンのデザインや、ちょっとした遊び心だ。最近はApple風のシュッとしたデザインが人気だが、それを意識しつつも、アイコンのデザインにはもちっとした少し丸みを帯びた太めのものを採用している。そして、ゴリラのキャラクターが運営側からのお知らせを知らせてくれるというものも。

開発にあたっては、ちょっと特殊な事情があった。そもそも、Backlogは自社で必要になって開発したもの。自分たちが一番のユーザーだという意識があった。確かに最初はそうだったかもしれないが、12年も経ち、ユーザーが増えると自分たちとは異なる使い方をする人もいるはず。実際のユーザーの意識とのズレに不安を感じるようになったという。

そこで、まずは周囲の人たち、声をかけられる範囲でユーザービリティテストを行い、画面やボタンの変更について確認した。さらに、9月末にベータリリースを公開し、実際のユーザーに使ってもらい、フィードバックをもらうことで直していくという方法を採った。

また、ユーザーにリニューアルを受け入れてもらうためのケアにも細心の注意を払っている。正式版リリースまでの間に10本ブログを書いて、どういう部分が変更になるのか、どうして変更するかなどの経緯などを丁寧に書くとともに、新UIへの切り換えにあたっては段階的な手順を踏んでいる。

11月の最初のリリースで全ユーザーにダイアログを出して新UIをアナウンス(これは一度だけ)、同月2回目のリリースでは、いったん全ユーザーを新しいUIに切り換えた。戻りたい人は戻れますという形で。このとき、戻る人にはアンケートをとり、理由を聞いている。

ここで旧UIに戻す人が少なかったこと、戻す理由も新UIがダメだからという理由はなかったことから、12月6日に正式リリースに踏み切った。

ポイントは「最後まであきらめない」こと。ユーザーから前のUIに戻してと言われることもあったが、それはどこがダメなのか? それをできるだけ明確にし、解決していく。丁寧に分析して、1つ1つ直していくという形で進めていった。

UIのリニューアルの指標は利用率になる。もちろん、Bakclogでも利用率はとっている。ただ当初は目標を立てることをしていなかった。藤田氏は目標を立てるのが遅れたことを反省点として上げている。しかしBacklogの例は、実際のユーザーとしっかり時間をかけて向き合っていくことの大切さを表しているといえる。

プロ視点からの脱却

サンシャイン国際水族館からサンシャイン水族館にリニューアルしたのは5年前。できてから38年経ち池袋周辺の様子が変わり、そろそろリニューアルをという話が4,5年前から出ては蹴られ、やっとのことだった。


サンシャインエンタプライズ カスタマーコミュニケーション部 次長 二見武史氏

1年間水族館をお休みし、水族館自体を壊して新しく作り直した。しかし、リニューアルにはハードだけではなく、ハートのリニューアルが必要だった。水槽、つまり外側が新しくなるだけではなく、働く側のハート、ソフト面のリニューアルが必要だということ。

ハートのリニューアルのポイントは「お客様視点」だ。プロであることは必要だが、それゆえに視点が狂ってしまうと二見氏はいう。

まず、水族館に来る人と水族館で迎える側のズレがあるのではないかということ。従来、水族館の目的とされてきたのは「教育」だ。

しかし、そこがいま水族館にくる人たちともはやズレている。勉強しよう、学習しようと水族館に行くだろうか? もちろんそういう場面もあるだろうが、解放感、やすらぎといったものを求めて、ということのほうが多いだろう。

そこで、「お客様は何を求めると思うか」というのを繰り返した。これにより、お客様視点を本当に自分たちの中に落とし込んだという。となると、水槽以外の部分、階段や入り口なども含めた1つの空間として海の中に来たんだ、都会のオアシスに来たのだということを感じてもらうために作り込む必要がある。

実際のところは、サンシャインエンタープライズ、親会社であるサンシャインシティから30名選抜し、「すばらしい水族館を作ろう委員会」を設置し、水族館の入り口や階段をどうしたらいいか考えるチーム、ホスピタリティについて考えるチーム、物販・飲食を考えるチームの体制で進めていった。

成功のポイントは、チームだけで進めるのではなく社内全体を巻き込んだことだ。社内にホワイトボードを設置し、たとえば「あなたはどんな階段だったら登りたくなりますか?」というようにテーマを書き込み、そこで意見やアイデアを書き込んでもらうようにしたのだ。もちろん、いろいろ出てくる意見全部に答えるのは難しい。

そこで、みなさんの意見をまとめたらこんなふうになりましたとフィードバックの会を設けることによって、社内全体を巻き込んでいった。「自分たちの声に耳を傾けてくれるというのが伝わると、どんどん入ってきてくれる。入ってくれたところで、ちゃんとフィードバックするということで、みんなの気持ちが1つになる」という。

天空水族館として、屋外を活かす、そこにふさわしい生き物を入れようとペンギンの水槽を屋外に設置する計画だ

ハードも含め、こうしたハートを改革することでリニューアルを行ったのだ。いまは、来年の春を目安に水族館の新しい部分、天空水族館と呼べる部分を作ろうという計画が進行中だ。人の意見を否定しない、それに対してみんなで広げていくという下地が熟成したからこそ可能になったことだ。

リニューアルと一口にいっても、そのサービス内容や規模、利用のされ方などで難しさは異なるが、重要なこととして、今回の4つの事例で共通しているのはユーザーをよく知ること、そうした目線の大切さだ。もちろん、それぞれそのやり方は個々のケースに沿ったものだが、本質はそこにありそうだ。

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