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アニメ担当ライターが素で選ぶ「アニメ映画2016ベスト10」

アニメ担当ライターが素で選ぶ「アニメ映画2016ベスト10」

 毎年1回のこの企画も今回で7回目になりました。今回もまた、2016年に公開されたアニメ映画のうち、私(筆者)が良かったと思う作品ベスト10を挙げたいと思います。選び方は完全に独断で、興行成績や他の映画評には左右されず、実際に観て”素”で良かったものを選んでいます。そのため他では高評価なものが下位にくることや、他ではあまり評価されていない作品が上位に来ていることもありますが、世間でいう「ステマ」的なことは一切ありません。純粋に良かったと感じた作品をあげ、順位付けしています。

 なお、できるだけ多く劇場には足を運びましたが、2016年に公開された全てのアニメを網羅できているわけではありません。その点ご了承ください。それぞれご覧になった方によって順位や価値観は異なると思います。「こういう見方もあるのだな」程度の気楽な気持ちで、また新たな作品との出会いのきっかけとしてご覧いただければ幸いです。

※本稿はネタバレを含んでいますのでご注意ください。

【関連:アニメライターが独断で選ぶ『2015年アニメ旬報ベスト10』 今年も勝手に発表するよ!】

■第10位・・・『なぜ生きる ~蓮如上人と吉崎炎上~』

<コメント>
 室町時代の高僧・蓮如上人(声・里見浩太朗)を描いたアニメ映画。主演の里見浩太朗は、テレビアニメ『名探偵ポワロとマープル』以来11年ぶりにアニメ声優を務めました。
 宗教映画というものは、指導者による説法シーンがお約束になっており、例えば昭和36年の映画『続親鸞』(原作・吉川英治、監督・田坂具隆)では法然(演・月形龍之介)が説法するシーン、同年の映画『釈迦』(本篇監督・三隅研次、特撮監督・相坂操一/横田達之)ではお釈迦様(演・本郷功次郎)が説法するシーンがありました。本作でもやはり蓮如が説法するシーンがあり、しかも尺が結構長く取られています。
 しかし私が最も印象深かったのは、ストーリー上の実質的な主人公である蓮如の弟子・了顕(声・小西克幸)が後半、門信徒に或る告白をする場面です。
映画の前半、蓮如に弟子入りする前の了顕は、病気で寝ている母親にかなり酷いことを言う男でした。しかし母親の死後、映画の後半で了顕は門信徒に自身が親不孝者であったことを告白します。
「親孝行したい時には親はなし」「墓に布団はかけられぬ」という諺がありますが、昔は現代と比べて長寿の人は少なかったでしょうから、諺に込められた思いは現代よりも切実であったことでしょう。了顕は、自分自身の過去の恥を敢えて晒すことによって、劇中の人々のみならず、スクリーンの外側にいる我々観客をも包括して、教えを授けようとしているように思えてなりません。

『なぜ生きる』

<製作委員会>–
<配給>スールキートス
<アニメーション制作>スタジオディーン
<スタッフ>原作・高森顕徹/明橋大二/伊藤健太郎、脚本・高森顕徹、脚本補・和田清人/平野千恵、キャラクターデザイン・河南正昭、音楽・長谷部徹、監督・大庭秀昭
<出演者>蓮如上人・里見浩太朗、了顕・小西克幸、千代・藤村歩、法敬房・田中秀幸、他

■第9位・・・『劇場版艦隊これくしょん』
<コメント>
 角川映画40周年記念作品。角川映画の定義を説明するとそれだけで1本の評論文になってしまうので本稿では割愛します。
 さて本作はブラウザゲーム『艦隊これくしょん』(通称・艦これ)のテレビアニメ版の続篇です。テレビ版の終盤では史実のミッドウェー海戦をモデルにした海戦が描かれていましたが、映画版では史実通りミッドウェー海戦の後の戦い、即ちガダルカナル島の戦いをモデルとした海戦を描いています。但しストーリー展開は太平洋戦争後半のレイテ沖海戦を下敷きにしており、昭和56年の映画『連合艦隊』(本篇監督・松林宗恵、特技監督・中野昭慶)のレイテ沖海戦のシーンにおける安部徹と高橋幸治の台詞とそっくりな台詞も登場しています。
 本作で観客に衝撃を与えた要素としては、敵キャラクターである深海棲艦の正体が判明したことです。同時に、本作の登場キャラクターである艦娘が戦う理由、そして戦争の最終目標も明らかにされました。
本作の原作ゲームでは個別の海戦の説明や、登場キャラクターによる台詞はあるものの、戦争全体についての説明はなされていない為、インターネット上ではプレイヤーの憶測を呼んでいました。それらの憶測の中に、深海棲艦の正体についての噂もあったのですが、劇場版で明らかにされた深海棲艦の正体がインターネット上の噂と一致していたので、びっくりしました。私の記憶では、深海棲艦の正体についてのネット上の噂は2014年夏には既にありました。
 作り手が以前から構想していた設定を鋭いプレイヤーが見抜いたのか、作り手がネット上の噂を参考にしたのかは不明ですが、『艦これ』という作品はネット上の声に影響される悪い癖がありました。例えば1つ挙げると、『艦これ』のゲームの公式ツイッターアカウントが、ゲーム中で公式に使われている用語ではなく、ネット上の俗語を頻繁に使っている点があります。私は、公式アカウントがネット上の俗語を使うのはやめればいいのにと前から思っておりました。
 話は変わりまして、私は2013年9月26日に『【傑作ゲーム探訪】第6回 艦隊これくしょん~艦これ~』( http://otakei.otakuma.net/archives/2013092604.html )という評論文を書いたことがあり、文中で
「戦争で悲劇の結末を迎えた艦船に対する日本人のメンタリティがあるとは言えないでしょうか。そして、ゲームそのものが一種の供養の役割を果たしていると私は考えています。」
と指摘しました。
私は劇場版『艦これ』を観て、この思いを改めて確信致しました。本作の終盤、太平洋戦争中に撃沈された艦船が、海底で抱き続けている無念、悲しみ、苦しみが描かれました。艦船の乗組員が苦しい思いをして沈んでいったであろうことは勿論ですが、艦船もまた爆弾や魚雷で傷つき、70年以上もの長い期間、冷たく暗い海底に沈んでいます。劇場版『艦これ』が終盤で、海底に沈んだ艦船の苦しみに焦点を当てたことをきっかけに、私達は改めて太平洋戦争で海底に沈んだ戦歿者を思い起こし、鎮魂の念を捧げなければならないと思います。

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