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【「本屋大賞2017」候補作紹介】西加奈子『i』――自分の幸福に罪悪感を抱く女性の物語

【「本屋大賞2017」候補作紹介】西加奈子『i』――自分の幸福に罪悪感を抱く女性の物語

 BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2017」ノミネート全10作の紹介。今回、取り上げるのは西加奈子著『i(アイ)』です。

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 あなたは「幸福になること」を恐れたことはありますか? もしくは「幸せであること」に罪悪感を抱いてしまう覚えはあったでしょうか。本作はそんな思いに苦しみつつも、希望を見出す女性の姿が描かれています。

 女性の名は、本作の主人公・ワイルド曽田アイ。赤ん坊のときシリアからニューヨークに渡り養子となり、小学6年生の時に父親の転勤を機に日本で暮らし始めたという複雑な生い立ちを抱えていました。それでも、両親から愛され裕福な家庭なこともあり、何不自由ない恵まれた生活を送っていました。

 しかし、内戦が続くシリアから来た養子という境遇のためか、本当は自分ではない誰かがこの幸運を味わっていたのではないか……そんな罪悪感が膨らみ続け、自分が幸福で「恵まれた人間」であると思うことに苦しみ続けるのです。その思いはアイに、起こった事件や災害の内容、死者数を書き留めるという行為に走らせます。

 「世界中のすべての事件を網羅することは出来なかった。アイは日本にいて知ることが出来る『大きなニュース』の死者だけを書いた。毎日前を通る交番の『交通事故死』の数を見ないようにするのに必死だった。『小さな数』の死者には、かまっていられなかった。それをカウントし始めると、自分がおかしくなってしまうからだ。」(本書より)

 そのため、物語にはアイの成長に合わせて、9.11や東日本大震災など実際に起こった痛ましい出来事が多数登場してきます。また、アイを苦しめる呪縛はそれだけではなく、ある言葉が彼女から離れなくなり、物語の中で繰り返し使用されることになります。

 「この世界にアイは存在しません。」(本書より)

 この”アイ”とは、アイが高校の数学の授業で聞いた、目には見えない数の概念である虚数を意味する「i」のこと。『i』は本書のタイトルであり、主人公の「アイ」、英語の一人称「I(自分)」、そして「愛」を意味し、物語の重要なキーワードとなっています。

 一人の若い女性が生まれてから現在までの短くも濃厚な人生の中で語る、壮大な”アイをめぐる物語”である本作。彼女の生い立ちゆえに抱えてしまった葛藤という名の呪縛を、どう解き放ち自分の存在を確立させていくのか。彼女がもがきながら導き出した答えを、あなたの目で確かめてみてはいかがでしょう。

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