フクロウの少年と仲間達の一大叙事詩を描く『OwlBoy』 開発期間9年の傑作アクションADV

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2017年の干支は酉(とり)。それにちなんで、今回はフクロウの少年が主人公のアクションアドベンチャーゲーム『OwlBoy』を紹介する。(ちなみに酉年の酉とは鶏の事で、鳥全般を指している訳ではない)
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『OwlBoy』はノルウェーに拠点を構えるインディーデベロッパー、D-Pad Studioによって制作された。開発は2007年、制作メンバーが学生だった頃から始まり、2010年には学生のアマチュアゲームコンテスト「Norwegian Game Awards 2010」のGame of the Yearを獲得。翌2011年にはPC、Xbox360向けにリリースされる計画が組まれていた。

しかし、ゲームの規模の大きさ、それに釣り合わない制作メンバーの少なさなどが起因し、開発は長期化。途中、ゲームデザインの再設計などの見直しも発生して、最終的に製品版がリリースされたのは2016年の秋。開発から9年の時が経過した後だった。

そのような長い年月をかけ、製品化へ漕ぎ着けた今作。開発に長い時間を費やしたからと言って、それが必ずしも傑作になるという保証はない。特に9年の時間を費やしているとなると、時代遅れなゲームなのでは、と勘繰ってしまうところがある。

だが、今作は決して時代遅れなゲームではない。現代はおろか、今後十年が経っても傑作と言い張れる作品に仕上がっている。前置きが長くなったが、長い年月を費やし、細部まで丁寧に作り込まれたその魅力を紹介していこう。

「仲間との共闘」がテーマの、王道アクションアドベンチャー

作中の舞台となるのは、フクロウと人間などが共存する浮遊世界。主人公でフクロウの少年オータスは、師匠のアシオと共に故郷の村「ヴェリエ」の偵察を始めとする勤めに従事していた。しかし、オータスは喋れない為に他人とのコミュニケーションが苦手で、空を飛ぶのも下手。勤めも失敗続きでアシオからは突き放されており、仲間のフクロウ達からはいじめの対象にされていた。

そんなオータスがある日、アシオの命で村の偵察を行っていた最中、住民にイタズラを繰り返す不審者を目撃。彼は人間の友人ゲティと共にその後を追い、やがて故郷を襲おうと目論む凶悪な海賊達の暗躍を知り、その戦いに巻き込まれていく事になる…というのがストーリーのあらましである。

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ゲームはオータスを操作し、広大な浮遊世界を飛び回りながら、ダンジョンの探索、敵との戦闘などをこなしていく形で展開。基本的にストーリーのイベントに沿いながら進めていく構成になっている。

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プレイヤーが操作するオータスはフクロウという事で、空中を自在に飛び回る事ができる。空を飛ぶ以外にも、敵を一時的に気絶させるスピンアタック、素早く前転して緊急回避を行うローリングと言ったアクションができ、それら全てを直感的な操作で行える設計になっている。

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そして物を掴み、持ち運ぶ。フィールドには箱や樽、地中に埋まった宝箱、回復アイテムなどが配置されていて、これらを持ち運んだり、投げ飛ばす事もできる。このアクションは空を飛ぶに次ぐ今作のキモで、これを駆使してダンジョンなどに配置された仕掛けを解いたりしていく事になる。

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更にもう一つ、掴んで持ち運ぶものがある。それが相棒こと仲間だ。オータスはスピンアタックの攻撃手段を持つが、その威力は微々たるもので、基本的に敵を気絶させる程度しかできない。そこを補うのが仲間。彼らを掴んで持つ事で、そのキャラクターに対応した射撃攻撃が行えるようになり、敵へ決定的なダメージを与えられるようになるのだ。

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この仲間を武器と見立てた独特の設定、それを活かした攻撃アクションが今作の魅力。自身の弱点を仲間に補ってもらいながら戦う、「共闘」の言葉を体現した立ち回りが求められてくるのである。また、仲間はゲームが進むにつれて増え、新しいアクションと射撃攻撃が行えるようになる。そして仲間を得ると、それまで通過できなかった閉ざされた道の先へ進められるようにもなり、行動できる範囲が広がっていく。

特殊なアイテムを手に入れる事で新しいアクションを習得し、行動範囲が広がるのは、任天堂の『ゼルダの伝説』シリーズを始めとする、アクションアドベンチャーではお馴染みの要素だ。それを今作はアイテムではなくキャラクター、それもオータスと心交わした仲間(相棒)が増える事で広がっていくという、ストーリーとリンクした作りとしている。

これも魅力の一つで、仲間と一緒であれば百人力という、絆の素晴らしさを描いているのが面白い。空を飛べるけど非力なオータス。空を飛べないけど攻撃手段を持った仲間。それぞれの力を合わせて困難に立ち向かっていく展開には独特の臨場感が演出されており、戦闘、探索共にプレイヤーを思わずくぎ付けにしてしまう楽しさがある。

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また、仲間の持ち運びに関して、ゲームの進行に合わせて手に入る「テレポート」なるアイテムがあれば、ボタン一発で仲間を呼び出せるようになる。仲間が増えた際も一人一人を運ぶ必要はなく、ボタン一発で切り替えと射撃を瞬時に行えるのだ。そんな遊び易さの面でもしっかり配慮されており、共闘しながら冒険する楽しさを演出する。

更に仲間は敵の攻撃を受けようが、落下しようがダメージを受ける事も無く、ほぼ無敵なのもプレイ時の負担を軽減させ、遊び易さを引き立てている。裏を返せば、無敵だからこそ”あれこれ”やれてしまうのだが、それはプレイヤーの良心次第。

不憫な主人公と仲間達の冒険と戦いを描いた、心を揺さぶる物語と演出

この仲間と共闘しながら進めていくストーリーもよく出来ている。特に主人公オータスの描写が素晴らしく、プレイヤー自身がこのキャラクターを操作する基本設定の妙を突いた、感情を揺さぶる展開が繰り広げられていく。

先のあらましからも明らかなように、オータスは不憫な主人公だ。喋れない為にコミュニケーションが下手、空を飛ぶのも上手くなく、偵察の勤めもこなせない。それゆえに師匠からは冷たくあしらわれ、仲間のフクロウからも馬鹿にされ、いじめられる。

このような主人公を操作していく事になるのだが、面白いのが先の境遇をプレイヤーも追体験させられること。設定だけでなく、ゲームプレイの面でもオータスの不憫さを体験させる作りになっているのだ。

特に印象的なのがゲーム開始早々に展開されるチュートリアルだ。以下、一部そのネタバレを行いながら紹介させて頂く。
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このシーンにおいてプレイヤーは空を飛ぶ動作、物を掴む、持ち運ぶの基本動作を覚える事になる。普通のチュートリアルなら、一連の動作を行って成功させるのが基本的な流れで、その後、指南役からお褒めの言葉を貰うのが御約束だ。

ところが、今作は幾ら上手くやろうとしても、絶対に成功しない。空を飛ぶ動作のチュートリアルでは、オータスが途中で失速するハプニングが起きて目的地に到達できず、落下。それにあきれた指南役のアシオは訓練を中断し、取り止めてしまう。

次の物を掴んで運ぶ動作のチュートリアルでも、オータスはプレイヤーの成功させる意志に反する行動を取り、持ち運ぼうとした物を壊してしまう。当然ながら、この行為にアシオは激怒。そのままチュートリアルは終了となり、住民達がオータスを如何に信用していないかが明かされる場面へ移り、精神的に追い詰められていく事になるのである。
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ここからどのような結びに至るのかは実際に遊んでからのお楽しみ。ご覧の通りにチュートリアルらしからぬ、主人公を通してプレイヤー自身が攻め立てられる内容になっている。

ただ、このイベントを通してプレイヤーはオータスがどんな人物、どんな境遇にあるのかが理解でき、以降、「彼が報われる為に努力しよう」という決意を固いものにさせてくれる。これから主人公のサポート役になって、精一杯、彼を助けてやってください。そんなメッセージを感じる、ストーリー性の強いチュートリアルになっているのだ。

そして、決意を固めた後に始まる本番でも、運命の理不尽さを思い知らされる展開が繰り広げられ、オータスは追い詰められていく。報われる為の努力したのに、状況がどんどん酷くなり、その場に立ち会わなかった大人達、仲間のフクロウから攻め立てられる。プレイヤーは、そんな彼らの奮闘が報われない現実、周囲の冷たさに対し、もどかしい思いに苛まれる事になるだろう。
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けど、そんな辛い目に遭おうともオータスはゲティを始めとする仲間の励ましを受け、故郷を襲う海賊の脅威に懸命に立ち向かっていく。

やがては海賊達の狙い、フクロウ達と浮遊世界の成り立ちに隠された真実に直面し、彼らにしかできない事を成し遂げようと行動を始めるのだが…これ以上は実際に遊んでご覧頂きたい。少し唐突な展開もあるが、不憫な主人公が仲間達と共に多くの苦難を潜り抜けていく姿には、心を打たれること間違いなし。エンディングも印象的で、住民達との会話を始め、一つ一つのイベントを追っていったプレイヤーなら、確実に涙腺を刺激させられるだろう。
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筆者の主観的な感想となるが、今作のエンディングにはスーパーファミコンでエニックス(現:スクウェア・エニックス)より発売され、今なお根強い支持を得ている名作アクションRPG『ガイア幻想紀』と『天地創造』の二作を髣髴とさせるものがあった。また、仲間の絆を描いたイベントとゲームプレイには、同じくスーパーファミコンで1996年に任天堂より発売された『マーヴェラス もうひとつの宝島』を思い起こさせた。

その為、いずれかの作品を遊んだ経験のあるプレイヤーであれば、何処となく懐かしい気持ちになるだろう。それらを抜きにしても、見応えのあるストーリーになっているので、気になる方は今すぐにでもプレイし始めてみて欲しい。

長い年月の重みを感じさせる深い作り込みの数々

アクションアドベンチャーとしての完成度も高く、ダンジョン探索からボスとの激しい戦闘まで、練り込まれたレベルデザインはプレイヤーを飽きさせない。難易度も謎解き、戦闘と共に絶妙なバランスでまとめられている。アクションゲームが苦手なプレイヤーには、戦闘で辛く感じる場面もあるかもしれないが、ゲームオーバーになっても直前からリトライ可能なほか、チェックポイントも豊富に配置されているので良心的だ。

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ボリュームもストーリーを追うだけなら、大体5~6時間とコンパクト。しかし、レベルデザインの充実ぶりもあって物足りなさは感じさせない。隠されたアイテムの回収を始めとする寄り道要素も揃っているので、遊び応えは申し分なしだ。

高精細なドット絵で彩られたグラフィックも素晴らしい出来で、キャラクターの細かい動作まで、丁寧に作り込まれているのには圧倒させられる。バックで流れるオーケストラ調の音楽も開放感のある浮遊世界にマッチしており、大空を舞う楽しさと気持ちよさを引き立てる。

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アクションアドベンチャーとしては王道で、横スクロール版『ゼルダの伝説』と言った仕上がりだ。しかし、ストーリー性の強いゲームシステムにその演出と、独自の魅力が満載。ドット絵で彩られたビジュアルも含め、特にスーパーファミコンのゲームに親しんだ世代なら、確実にハートキャッチさせられる面白さがある。

開発に9年という、膨大な製作期間を費やして製作された今作だが、その完成度は年月の重みを充分に感じさせられる出来。アクションアドベンチャーゲームが好きな方には、自信を持ってお薦めする傑作である。非力なフクロウが仲間と一緒に困難に立ち向かい、大業を成し遂げるその様を、主人公の操作役という立場を通して体験してみて欲しい。

[基本情報]
タイトル: 『OwlBoy』
制作者: D-Pad Studio
クリア時間:5時間~6時間(※アイテム収集、実績のコンプリートを除く)
対応OS: PC
価格: ¥2,480

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