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食事をたべなかった意外な「理由」

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【点滴と経口摂取を分けたものは】

いくら勧めても食事を断る入院患者さん。
あれこれ工夫をしながら探っていくと
本人からぽろりとひと言。
「わたし…財布持ってないんです…」

普段家ではひとりで食べているのに
大人数で食べる食堂で払うお金が気になるのもうなずける。

この一言を言ってもらえる信頼関係と
このひと言から本人にあった工夫を編み出すことが
やっぱり介護の醍醐味じゃないかな。

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思いつきそうで思いつかなかった「理由」

これは、尊敬する看護師の方から聞かせていただいた実話です。

入院中の患者さんで、食事を食べてくれない人がいました。いろいろ尋ねてみるも、「結構です」「食べたくないんです」と拒否されるばかり。そこでチームみんなで、あの手この手をトライ。
食堂に最初に連れてくる
食堂に最後に連れてくる
食堂じゃなく病室で食事を提供する
トレーにのせたまま食事を提供する
トレーではなくテーブルに並べる
コース料理のように一品ずつ提供する

…等々

いろいろ試してみたけれど、どれもダメ。そろそろ点滴か?という瀬戸際で、本人がぼそっと一言。

「わたし…財布を持ってないんです…」

このひと言を受けたスタッフは、「お金は息子さんが病院代と一緒に払ってくれているから大丈夫ですよ」と説明したところ、そこから食事は全量摂取になったそうです。この一言を引き出せなければ、その人は点滴になっていたのかもしれません。

なぜ、患者さんは言いにくいことを言えたのか?

この話を聞いた時は、「なるほど~! これは確かにすぐには言いにくい! そして、確かに食事を食べない理由として、誰にでもあるなぁ!」とわたしはとても納得しました。そして、少し言いにくいホンネを言えたのは、スタッフの関わり方(あり方)にあったのだろうなと思います。

あの手この手を尽くしながら、「あなたに口から食事を食べてもらって、元気になってもらいたい」というあり方が、伝わっていたのでしょう。そして、本当に、その患者さんがどうして食事を食べないのかを知りたくて、知りたくてしかたがないという情熱も、伝わっていたのでしょう。

具体的に、どんな言葉を投げかけたのかは聞いていませんが、人は「何を言われるか」よりも「誰に言われるか」の方に心を動かされるのではないかと思うのです。「あなたが食べないと、わたしたちの手間が増えるから困るわ」というあり方の人に、「食べて元気にならないと、いつまでも退院できませんよ」なんて言われても、聞く耳を持ちたくないですし、ましてや「わたし財布がないのよ…」なんて本当の理由を言えたものではありません。

あなたには、言いたいことが何でも言える人がいますか?

そして、いかがでしょうか。あなた自身は、あなたが言いたいこと、言いにくいこと、言うことをはばかられるようなことなど、とにかくあなたに湧いてきたことをそのまま言葉にして言える相手がいるでしょうか? もし、そんな人が身近にいるとしたら、その人がどんなコミュニケーションをあなたにしているかを思い出してみてください。

もしかすると、あなたの言葉をそのまま「そうなんだね」と受け取ってくれて、「どうしてそう思うの?」と興味や関心をもって質問してくれて、「こんな方法もあるんじゃない?」と押し付けがましくなく提案をしてくれる、そんなコミュニケーションがそこにはあるのかもしれません。

あなたが素直に、正直に、自分の言いにくいことを言えるコミュニケーションをしてもらえているならば、「あの人なら、こういう時、どうするかな?」と思い浮かべながら真似てみることは、とても有効です。

そして、言いにくいことを言える相手がいない…と思っている人は、周りを良く観察してみてください。意外と(と言っては失礼かもしれませんが)、利用者さんの中にコミュニケーションの達人がいたりしますから、どんなコミュニケーションをとっているのかを観察してみると、身につけやすくなるでしょう。

おわりに

「わたし…財布持ってないんです…」のひと言を引き出せた今回のコミュニケーションは、相手に関心を寄せ続ける人であれば、誰にでも可能だとわたしは信じています。関心を寄せ続けていればこそ、キャッチできる表情や言葉やしぐさが目につくようになりますから、ぜひホンネを言ってもらえるコミュニケーションを観察して、試していきましょう。

この記事を書いた人

裵 鎬洙

アプロクリエイト代表
認知症介護コーチ&講師
コミュニケーショントレーニングネットワーク講師
介護支援専門員実務研修講師
介護支援専門員専門研修講師
介護職員初任者研修講師

【略歴】
 関西学院大学卒業後、訪問入浴介護サービスを手がける民間会社に入社。その
後、居宅介護支援事業所、地域包括支援センターなどで相談業務に従事。コミュ
ニケーショントレーニングネットワーク(CTN)にてコーチング/コミュニケー
ションのトレーニングに参加し、専門職のあり方が利用者にどれほど影響するか
を実感。
 現場での臨機応変な対応につながるコミュニケーションセンスやケアの観点を
一人でも多くの人に届けるべく、研修・セッション・執筆等を行っている。介護
福祉士・介護支援専門員・主任介護支援専門員。

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