【パリッコ】たまには背伸びして……吉祥寺「カイ燗」で燗酒の快感に酔う【大人の隠れ家】

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こんにちは、パリッコです。今回も調査という名の飲み歩き活動にいそしんでいきたいと思います。

さて、すっかり寒くなりましたね。

日本には四季があって、旬の食材が豊富にあり、そこにさまざまなお酒をいろいろな飲み方で合わせられ、それこそが酒飲みにとっての最大の楽しみでもあります。

で、寒くなってくると俄然飲みたくなるのは、なんといっても「燗酒」!

銚子からお猪口(おちょこ)に注ぐと、ふわりと漂う甘い日本酒の香り。

そっと口に含み、じっくりと味わいつつ飲み込むと、食道から胃までがじんわりと温まり、やがて身体全体を優しく多幸感が包み込む。

冬も悪くないな、と、素直に思える瞬間です。

ただし! 日本酒って詳しくない人にとってはハードルが高いのも事実。

純米、吟醸、本醸造、甘口、辛口、なんだかややこしい上に、お燗となれば、日向燗、人肌燗、ぬる燗、上燗、熱燗に飛切燗……もういいです、すいません、今日はウーロンハイにしときます! と発狂したくなる方も多いことでしょう。

かくいう僕も、お店では極力好みの銘柄などは聞かれずに「お酒、お燗でお願いします」と頼むと出してもらえて、文句も言わずそれを飲む、という大衆酒場パターンに越したことはないというタイプ。

ですが、そこから思い切ってもう一歩燗酒の世界に踏み込むと、ものすご~く幸せになれることも事実なんですよね、これが。

今回は、そんな燗酒の世界を僕に教えてくれた、東京・吉祥寺の名店「カイ燗(かいかん)」をご紹介したいと思います。

まずは島根「開春」で一献

お店があるのはJR吉祥寺駅北口、ヨドバシカメラなどが入ったでっかいビルの裏手にある飲み屋街。

その中の一軒の居酒屋さんの脇にある、小さな階段を店名「カイ燗」ののれんを目印に上がってゆくと……

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カウンターだけの店内

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ずらりと並ぶ日本酒

まさに大人の隠れ家と呼ぶにふさわしい小さな燗酒屋「カイ燗」があります。

慣れないと扉を開ける時に緊張するかもしれませんが、初めてのお客さんには女性店主の渡辺さんが「うちはお燗酒専門店なんですが、大丈夫ですか?」と優しく聞いてくれますし、一度席に座ってしまえばこんなに落ち着くお店はありません。

気後れなどせずにぜひどうぞ。

ここではまず、何も頼まなくても、小鉢が4皿乗ったお通しと半合のお酒が出るのがお決まり。

今日はお酒を、

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島根「開春 生酛木桶仕込」、鳥取「辨天娘(べんてんむすめ)」

の2種類から選べるとのこと。

辨天娘は以前こちらで頂いたことがあったのですが、開春は、主流のステンレスなどではなく木桶で仕込まれており、ほんのりと木の香りや味を感じられるような珍しいお酒とのことで、こちらを選んでみました。

すぐに

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お通し(内容は日替わり)

そして

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お酒

が到着。

現在、開店直後でお客さんは僕ひとり。

スピーカーからは控えめな音量でメロウなソウルミュージック。

目の前には

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この光景

ちょっと背伸びをしているようでむずがゆくもありますが、ものすご~く心が落ち着く、ぜいたくな空間にひたることができます。

しかも、この一通り、全部でなんと1,300円!

これだけを飲み食いしてさっと帰っていかれる方もいるそうなんですが、ぜ~んぜん高くない、むしろこんなにお手頃すぎる価格で、ひとつひとつ丁寧に作られた酒肴と燗酒を味わってしまっていいんでしょうか? という価格設定なんです。

お酒にはもちろんチェイサーのお水も付いてきますよ。

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日本酒のために作られたお通し

まずはお酒をちびりと一口。

途端に体が温まり、身も心も一気にゆるむ最高の瞬間。

小鉢に少しずつの料理も本当に美味しく、お酒とよく合います。

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▲柿の白和え

上に乗るのは先ほどの、「辨天娘」の蔵が作る奈良漬。

まったりとコク深い濃厚さに、柿の爽やかさがお酒とぴったり。

そんでもってこの、柿でお酒を飲むという行為自体が、いかにも大人というか、「俺もここまで来たか~」って感じで(実際はどこにも来てない)、自分に酔える要素のひとつになっています。

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▲鶏レバーと山椒の赤ワイン煮

レバーと赤ワインって! と思うかもしれませんが、ぴりりと効いた山椒の風味が全体を不思議と和風にまとめあげ、これまたたまりません。

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▲かぶの三輪漬け

「三和漬け(みつわづけ)」とは、カブ、柚子、赤唐辛子、3つをそれぞれ輪切りにして漬けたことが由来の縁起物。

食感の良いカブに柚子が豊かに香り、酒に合わないわけがないっての!

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▲もろみクリームチーズ

「カイ燗」のお通しの定番であり、僕の大好物!

福岡で昔ながらの作り方を守る醤油屋さんが作ったもろみをクリームチーズに乗せたものです。

初めて食べた時はそのマリアージュのおかげで、「これ、どんな良いチーズを使ってるんですか!?」と聞いてしまったんですが、なんとチーズはごく普通の市販品で、もろみの美味しさによる化学変化だそうなんです。

ぜひ読者のみなさんにも体験してほしい一品!

熱燗にハマり常連客から店主に

さて、人心地ついたところでもう少し詳しくお店のご紹介を。

「カイ燗」は、オープンからまだ8年目と比較的新しいお店。

現在お店をおひとりで切り盛りするのは、3代目店主の渡辺さん。

お酒の価格帯は、基本7尺のお銚子1本が700円から、一番高くて1,300円ほど。

品揃えは常に変わるのでそれぞれの価格は表示されていませんが、おまかせでお願いしたとしても、1,000円を超えてくるような高いものに関しては「こういう値段なんですが大丈夫ですか?」と確認してくれるので、安心して飲むことができます。

それでは、店主の渡辺さんにも少しお話を聞かせていただくことにしましょう。

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「顔出しは、できればなしで……」とのことで雰囲気のみ

── 今日はよろしくお願いします! そもそも、渡辺さんがこのお店に入られたきっかけは何だったんですか?

私はもともとここの客だったんですよ。その頃は普通に会社で働いていたんですが、ある時将来のことを考えていたら急に不安になって(笑)、手に職をつけて、自分でお店をやりたいなと思って。それで2年間くらい、働きながら料理学校に行ったり、飲食店でバイトしたりしていたんです。(以下、渡辺さん)

── ハードな毎日ですね……。

そんな時、ここの2代目店主の方がお店を辞めてしまうという話を聞いて、お話をしてみたらやらせてもらえることになって。

── もともと燗酒がお好きだったんですか?

はい、ほぼ燗酒しか飲まないってくらい。

── それはどうして?

以前、友人にすすめられて行った京都の燗酒屋さんで飲んだ燗酒が、衝撃的だったんですよ。美味しいを超えて、ただただ衝撃(笑)。そこからずぶずぶとハマっていって、東京でも飲めるお店として出会ったのがここだったんですね。私、欲張りなので、お酒だけが美味しくても、料理だけが美味しくても満足できないんです。そういう意味でも燗酒はとてもすぐれていると思います。それと、二日酔いがほぼない。むしろスッキリ目覚められる。こんな素晴らしいお酒、なかなかないと思いますよ。

── お店のお酒のラインナップはどのように選ばれているんですか?

お客さんに人気の定番は常に揃えつつ、飲んだことがないものがあれば飲んでみて美味しければ仕入れますし、新しい酒蔵さんのものも常に開拓しています。うちは燗酒専門店ですので、冷たいお酒で映えるものとは少しタイプが違ったりするんですね。まず、ほぼ全てが純米100%のお酒。それから、見た目を綺麗にするために濾過をしたり、香り付けのための酵母を使ったりはしていない、自然な作り方がされているものがほとんどです。香りというよりはうま味をしっかりと感じられるようなお酒を選んでいますね。

気分や好みを教えてもらえれば

── いわゆるお酒に合わせる珍味のようなものだけでなく、料理メニューが充実しているのもうれしいんですよね。

うちで特に定番なのが「竹鶴酒造」という蔵のお酒で、そちらのモットーが「お腹が空く酒を作りたい」というものなんです。少し酸が立っているのが特徴で、これによって食欲が刺激される。私も常に、食事と一緒に、食中酒としてお酒を楽しんでもらいたいという思いがあるので、ここのお酒はおすすめですね。味がしっかりしているので、意外にもこってりしたお肉料理なんかによく合うんですよ。

── へぇ! 日本酒といえば魚、というような固定観念もあったりしますが、それは楽しみの幅が広がりますね。

料理自体もお酒に合わせて、添加物を使用せず、あまり脂っこくもせず、野菜を多めに、体に良いものを意識しています。例えばポテサラだったら、マヨネーズから自家製だったり。羊肉のメニューが多いのも、ヘルシーだからという理由で。

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目移りしてしまうお品書き

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こちらは以前に頂いた羊肉メニューで「珍味のかっぱ」。

かっぱとは、市場にあまり出回らない歯応えのあるスジ肉で、しかも羊とあってかなり珍しい一品。かみしめるほどに上品なうま味あふれる、最高の酒のつまみ!

── ところで、一言にお燗と言っても、「日向燗」~「飛切燗」まですごく幅があって、そこが初心者にとってハードルの高いところでもあると思うのですが、こちらではどのように?

私の好みは60度以上くらいの熱燗なんですけど、お酒によってはそこまで上げるのはもったいないものもあるので、基本的にはそれぞれこちらの判断で加減してお出ししています。それと「燗冷まし」といって、少しずつお酒が冷めていく過程での味の変化というのも、燗酒の楽しみのひとつなんですよ。

── 粋な世界ですね~! あの、そもそも「どのお酒を注文していいかわからない」という場合は、どうすれば良いでしょう?

難しく考えずに、お好みや今の気分を言っていただければ大丈夫ですよ。「あっさり系」とか「しっかり系」だけでも、「それではこういうお酒なんかは?」とおすすめをご提案できますし、「何でもいけるよ」っていうお客様には、まずはお料理を注文していただいて、それに合うお酒をこちらで選ぶこともできます。「ちょっとおもしろいお酒が飲みたいな」なんて方には、そういったものをお出しすることもできますし。

── おもしろいお酒!?

例えばカカオの風味がする古酒があって、これはチーズに合わせるとバッチリです。ぬか漬けの風味がする千葉の「香取」というお酒もぜひ一度味わってみてほしいし、京都の「玉川」というお酒はフィリップ・ハーパーさんというイギリス人の杜氏が作られていて、そういった裏話で盛り上がれるお酒もありますね。

── どれも興味深いです! ありがとうございました。

極上!「竹鶴 生酛純米原酒」

というわけで、お通しと最初の半合燗をすっかり平らげ、もちろんもう少し何か飲みたい気分。

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メニューの中から、

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▲素揚げ大根と塩昆布

を選んでみました。

トロトロに甘味を増した大根に、パリッとした素揚げ塩昆布と柚子の風味。

こんなごちそうがあっていいのか! という、ものすごいうまさ。

合わせたお酒は、

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「竹鶴 生酛純米原酒」

なんとお店の最高級品、1,300円!

実は、渡辺さんが個人的に一番お好きで、そんなぜいたくが許されるならば毎日でも飲みたいと教えてくれたお酒。

そんなの、味わってみたいに決まってるじゃないですか……。

えぇ、めっちゃくちゃ思い切りましたよ……。

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アニメーション監督としても有名な森本晃司さんによるオリジナルデザインのお猪口で

うやうやしく大切に味わうと、ほんの少し口に含んだだけですごいうま味!

さらに驚きなのが、お燗で極限まで開いた良い香りの余韻が、ものすごく強く長く、飲み終わってからもなかなか消えない!

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もはや何も言うまい……

妙味! 熱燗にスパイスカレー

極上の組み合わせをゆっくり、ゆっくりと堪能し、もはや空間の中にとろけてしまいそうな心地良さ。

これ以上飲み食いしたら絶対帰り道にバチが当たりそうな気がしますが、もういいや! バチが当たっても! 今日だけはぜいたくしたる! と頼んでしまったのが、

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▲花玉

ネーミングからは想像がつきませんが、小皿に盛ったオリジナルのスパイスカレーに、インドのバスマティ米を衣に見立て、蒸した鶏団子を乗せた独創的な一皿。

空気のように軽いバスマティ米と、酸味の立った爽やかな風味のカレーがベストマッチ。

で、これによく合うというおすすめのお酒が、奈良のお酒、

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「睡龍 生酛のどぶ」

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キャラクターがお風呂に入っているようにも見えるにごり酒

お酒の方が味わいしっかり、カレーがさっぱりという組み合わせが新鮮でもあり、そして本当によく合う!

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いい景色だ……

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お酒は注文ごとに錫(すず)のちろりで湯かんし、温度計で丁寧に温度を測り、そして最後に渡辺さんがほんの一口、ご自身で飲んで温度を確認。

日本酒は、その日の気候によっても、栓を開けてからの時間によっても味わいは違うので、最後は自分の舌で確認しないとお客さんに出せないのだそう。

「自分が酔っぱらっちゃうことはないんですか?」とうかがうと「いつも最後は酔っぱらってますよ(笑)」とのこと。

うん、最高です。

今日は取材ということもあって少しぜいたくをしてしまいましたが、このあたりでごちそうさま。

「カイ燗」は、酒好きとして年齢を重ねるごとに、少しずつこういうお店の、こういう飲み方の良さも知っているようにならなければいけないな、そんな風に思わせてくれる、本当に素敵なお店です。

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とはいえ、注文次第ではとてもリーズナブルにも飲めるのも事実。

興味を持たれた方はぜひ足を運び、実際にその空間と、絶品の燗酒に酔ってみてください〜!

お店情報

カイ燗

住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町1-25-6

電話番号:0422-21-8474

営業時間:18:00〜24:00

定休日:日曜日

※金額はすべて消費税込です。

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報はお電話等で直接取材先へご確認ください。

書いた人:パリッコ

パリッコ

DJ/トラックメイカー/漫画家/居酒屋ライター/他。FUNKY DANCE MUSIC LABEL「LBT」代表。酒好きが高じ、雑誌、Webなどの媒体で居酒屋に関する記事を多数執筆中。 Twitter:@paricco 公式サイト:パリッコのホームページ

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