海外リモートワークの最先端[上] バリから東京へ“ロボ出勤“

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海外リモートワークの最先端[前編] バリから東京へ“ロボ出勤“

オフィスではない場所で働くことを許容する、いわゆるリモートワークを導入する企業が増えている。育児や介護など自宅を離れられない従業員のベネフィットというだけでなく、“好きな場所で働く”ことで高いモチベーションを生む効果もあるようだ。

そんなリモートワークを究極的な形で実践しているのが、執筆・IT批評家の尾原和啓さん。2015年4月に生活の拠点をインドネシア・バリ島に移し、以来、バリ―東京間でのリモートワークを続けている。「海外でのリモートワークは特別なことではなく、5年以内に誰でも実践できる世の中がくる」と語る尾原氏に、その働き方、生き方を聞いた。

リゾート地で働くのは、“一瞬のひらめき”を起こす力を養うため

尾原さんは2016年9月の取材当時、Fringe81株式会社執行役員として週の半分はFringe81に勤務。始業時刻になるとバリ島・ウブドゥの自宅でパソコンを立ち上げ、六本木のオフィスに“ロボット出勤”する。遠隔操作でオフィス内を移動するロボットとiPadを合体させた、通称“どこでも尾原さん”だ。iPadには尾原さんの顔が映し出され、社員とフェイス・トゥー・フェイスでなめらかな会話も可能。今回のインタビューも、“どこでも尾原さん”を介して行われた。【画像1】“どこでも尾原さん”。この日は滞在中のインドからインタビューに対応してくれた(撮影:榎並紀行/やじろべえ)

【画像1】“どこでも尾原さん”。この日は滞在中のインドからインタビューに対応してくれた(撮影:榎並紀行/やじろべえ)

―― まず、海外へ移住しようと思われたきっかけを教えてください

「きっかけは2014年の選挙(第47回衆議院議員総選挙)です。若年層の投票率が上がらず、高齢者の方の投票が増えて自民党が大勝しましたよね。日本という国が変わっていかないといけないなかで、若い人が自ら変えていくことにコミットしないというのは僕にとってすごくショックだったんです。日本は大好きだし、安全でご飯がおいしくてこんなに便利な国はないけど、日本をベースにしながら発信していると新しいことを起こすのは難しいんじゃないかと。それで、海外に移住することにしたんです」

―― バリのウブドゥという場所を選んだのはなぜですか?

「簡単に言っちゃうと、リゾート地だからです。今の労働者にとって一番の資産ってクリエイティビティなんですよね。ようは一瞬のひらめきでどれだけ質の高いアウトプットを出すか。となると、ひらめきが起こせるような多様な刺激だったりとか、リラックスして過ごせることだったりとか、そういう環境づくりが一番大事になるわけです。

だからバリ、それもウブドゥは面白くて、かつての王国時代からアーティストを保護してきた、画家がたくさん住むエリアだったんです。画家って今のクリエイティビティの話と同じで、インスピレーションさえ働けばどこの場所に住んでも仕事ができるわけですよ。そういう文脈があって、現在は画家ではなくて映画のディレクターや、世界を変えようと目論むスタートアップなんかもウブドゥをベースにすることが増えてきています」

12時間働いても、家族とたっぷり3時間過ごせる生き方

―― ウブドゥを拠点にどんな働き方をされているんでしょうか?

「Fringe81に50%ほどコミットし、残り50%は個人の仕事をさせてもらっています。この50対50というバランスもけっこうよくて、現場で突っ込んで何かしないと細かなひらめきは起きないし、一方で自分のプロフェッショナリティって一つの会社に100%捧げてしまうと多様性が失われてしまう。新しいチャレンジもできなくなるんですよ」

―― 家族との時間が増えたとか、リモートワークならではの良さみたいなことは感じられますか?

「僕の場合は仕事が趣味になっているので、基本的にはずっと仕事してますけど、ただ確かに家族との時間だったりとか、徹底的にリラックスする時間だったり、徹底的に情報収集する時間だったりは確保しやすいですよね。僕は4時間半の睡眠で十分なので、だいたい12時間くらい仕事して、3時間家族と過ごして、運動を1~2時間、本を読んだり情報収集に1~2時間っていう感じですかね」

―― 仕事も含めて、それらすべてが家の中でできてしまう

「とても合理的です。僕の仕事は事業計画や事業提携について、パートナー企業とお話をすることが多い。基本的にはお客様のところへ足を運ぶので、例えば5本ミーティングがあると移動時間だけで4時間くらいとられるわけです。これがバリにいると物理的に足を運ぶっていうことが難しいのでスカイプなどで会議することになるんですけど、今日もすでに7本ミーティングしてまだ夕方ですからね。本当に効率がいい。バリの時差もちょうどよくて、日本の9時がバリの8時。なので朝、娘が7時半に学校に出るのを見送ってから仕事を始めて、5~6本ミーティングしてもまだ午後2時とか3時。3時か4時に娘が帰ってきたら家のプールで1時間くらい娘と泳ぎ、宿題を手伝ったりして。そのあとまた仕事するっていう感じですね」

―― そうはいっても、遠隔ということで不便に感じることはないですか?

「僕の場合は特にないかな。パーティーとかもこのロボットで出かけますしね。ああいう場所だとこのロボは最強で、向こうから関心を持ってくれるのでいろんな人とおしゃべりできるんですよ。僕はネット経由でその方の情報をGoogleで調べながらお話できるので、めっちゃ気が合った感じになったり、そのあともすぐに御礼のメールを差し上げて、よかったらスカイプで世間話しませんかと言ってみたり。直接会う以上の親密なコミュニケーションができていると思います。

しかも僕はパーティーの直前まで娘と家でキャッキャ遊んでて、パーティーが始まったらロボットに憑依すればいい。1時間くらいで話したい人と話し終わったらログアウトして、本を読んだりできるんで、不便どころかこんなに楽なことはないんですよ」

―― では、そんな尾原さんが日本に帰ってくるのはどんなタイミングなんでしょうか?

「それでも帰らざるを得ないのって、やはり何かトラブルが起きたときなんですよね。ようは“火消し”作業です。僕は新規事業の立ち上げとか新規コミュニティの立ち上げばっかりずっとやってきているんですけど、立ち上げの時期ってみんな不慣れだからいろんなトラブルが起きるわけですよ。僕はそんな修羅場を何度も経験しているから、ある意味消防士みたいなもんですよね。それも、一番エグイ火事を消すオレンジ部隊みたいなもんです。火事を見た瞬間すぐに消火できるのか、消すのに時間がかかるからまずは避難させたほうがいいのか、さらにいうと火事が起こりそうな場所もなんとなく分かります。こればっかりは嗅覚なので現場に行かないとどうしようもない。そういうタイミングに合わせて日本へ行くようにしています」

―― 海外リモートワークの場合、いざとなればすぐに帰れる距離感というのも大事なのかもしれませんね

「バリを0時台に発つガルーダ航空の東京直行便があって、それに乗ると朝8時くらいに成田空港に着くんですよ。そうすると、車でぶっ飛ばせば朝9時には東京に入れますし、僕の場合は東京のオフィスに服も置いてあるのでナップザック一つですぐ行ける。上司にちょっと緊急なんで日本来てといわれ、次の日の朝にはオフィスにいるということも2回くらいありましたからね」

まさに究極のリモートワーカー。そんな尾原さんに俄然興味が湧いてしまったので、この記事は全3回に分けることにした。第2回は尾原さんの住まい観について(「治安の悪い地域でこそ子どもは成長する」など、目からウロコな話が満載です)、第3回では尾原さんのような生き方、働き方を実践するためには何が必要か、伺っていきたいと思う。●取材協力

尾原和啓(おばら・かずひろ)さん

シンクル事業長、執筆・IT批評家、Professional Connector、経産省 対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザー。

京都大学院で人工知能を研究。マッキンゼー、Google、iモード、楽天執行役員、2回のリクルートなど事業立上げ・投資を歴任。現在13職目 、バリ島をベースに人・事業を紡いでいる。ボランティアでTED日本オーディション、Burning Man Japanに従事。著書に「ザ・プラットフォーム」(NHK出版新書)、「ITビジネスの原理」(NHK出版)がある
元画像url http://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2017/01/123839_main.jpg
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