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90歳、最年長考古学者の次なる夢は「天皇陵」の調査

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 特許庁で働きながら考古学を学んだ青年・大塚初重氏は、90歳の今も毎月教壇に立ちながら最新の考古学研究にも携る。「現役時代より勉強している」という最年長考古学者が、考古学の魅力と、2016年度の講義テーマ「天皇陵」について語った。

 * * *
 昨年8月には、僕らが20代の頃に発掘した登呂遺跡の出土品775点が重要文化財になりましたが、やっぱり遅すぎます。戦争が終わって2年目の昭和22年(1947年)に発掘したものですから。

 僕は戦後の上海から復員した時には、考古学という学問を知りませんでした。戦前の歴史教育では、日本は神々が作ったもので、神=天皇だといって神武、綏靖……と歴代天皇の名前を覚えさせられました。古事記や日本書紀の世界がすべてでした。

 復員後、特許庁に勤めながら通った明治大学の夜学で後藤守一先生の「考古学」という時間割があり、“考える古い学問”に興味を抱いて受講しました。

 その授業で、後藤先生が「来年(昭和22年)の夏から登呂遺跡で発掘するが、希望者がいたら連れていく」といったので、病院で「強度の神経衰弱症で長期療養を要する」という偽の診断書を作ってもらい、仕事を休んで発掘に参加しました。スコップ片手に頑張ると「君、体はこまいがいい腰をしている」と後藤先生に誉められ、安易に“僕にも考古学ができる”と思っちゃった(笑い)。この時の出土品が昨年、重要文化財となったものです。

 発掘終了後、仕事を辞めて昼間の文学部に編入し、大学院まで行きました。すでに結婚していたので生活は大変で、お袋や家内が内職し、時には質屋通いもしました。考古学をやる人間は金持ちが多く、質屋に通って学者になったのは僕くらいです(笑い)。

 考古学の最大の魅力は自分の手で遺跡を掘ること。しかも自分で掘った事実が日本の新しい建国の歴史となっていく。その喜びは他に代えられないものでした。掘っていくと弥生時代の木剣や布が腐らずそのまま出てくるんです。登呂遺跡には皇太子様(今上天皇)まで見に来られましたからね。

 それにしても、戦争で乗ってる船が2回も撃沈された人はあまりいないんじゃないですか。僕が1回目にやられたのは昭和20年、18歳の春、寿山丸という輸送船に乗っていて米国の潜水艦の魚雷が命中、どんどん火の海になっていく船内から逃げ出しました。

 海に飛び込み、上官から「海では絶対泳ぐな」といわれていた教えを守り、目の前に浮かんでいた板切れにしがみついて生き残りました。他の仲間は、済州島の明かりをめざして助かりたい一心で泳ぎ、ほとんどが途中で力尽きて死にました。戦友たちの断末魔は忘れられません。

 人間の生きると死ぬとは紙一重です。18歳で撃沈されて、今は90歳。子供の頃から体が弱かった自分がここまで生きられたのは、きっと北海道から九州まで遺跡を発掘して心身を鍛えられたからでしょう。スコップに赤とんぼが止まると秋を感じる。自然の中で汗水垂らしてやりたい学問ができたのは嬉しいことです。

 定年から20年経っても大学で生涯学習の講座を続けています。「その話は前も聞きました」といわれると困るから毎年テーマを変えて、現役時代より勉強していますよ。

 90歳になってなにをやりたいかと聞かれたら、講義テーマでもある天皇陵の調査です。古墳の研究は進んだけど、宮内庁が指定する天皇陵が本物かどうかは疑問が残る。日本の建国の歴史なのだから、墓を掘るまでしなくとも、せめて墳丘の調査はすべきです。現在の宮内庁の姿勢ではオファーが来る可能性は少ないけど、来たら燃えます。

 過去に宮崎県・西都原陵墓参考地に近づいた時は、宮内庁は調査許可すら出さないのに遠くで最敬礼をさせられました。僕はきちんと調べて、考古学的に間違いなく天皇陵だと証明できるだけで良いのに。90歳を超えても大人しくならず、自分の目と足と手で考古学的な事実を追求したいんです。“大塚はまだまだモノ申すぞ”ってポストに書いておいてくださいね(笑い)。

●おおつか・はつしげ/東京都生まれ。商工省特許標準局員時代に明治大学に入学。同大文学部考古学専攻卒業。登呂遺跡(静岡県)や綿貫観音山古墳(群馬県)など多くの遺跡調査を担当。日本考古学協会会長、山梨県立考古博物館館長などを歴任。

※週刊ポスト2017年1月13・20日号

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