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少年たちはなぜギャング団に入るのか? 世界一治安の悪い国ホンジュラスで起きている事

ジャーナリストの工藤律子さんが執筆し、開高健ノンフィクション賞を受賞した『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社刊)は、ホンジュラスと若者ギャング団「マラス」への取材をもとに書かれた一冊だ。

本書の中で工藤さんは、マラスから抜け出した人、マラスを半分引退しつつも影響力を持っている人、さまざまな人たちにアプローチをしているが、そのすべてが壮絶な物語である。

インタビュー前編では「アンドレス」という、マラスを逃れてメキシコにやってきた青年について工藤さんにお話をうかがった。彼は国境を越えるという手段を使って、マラスの呪縛から離れられたわけだが、そうではない方法でマラスから抜け出す人もいる。

それが「神に仕える」という方法だ。

 ◇

――工藤さんが取材した中の一人、牧師補佐のアンジェロは、元ギャングのリーダーで、犯罪をやり尽くしたあげく、殺人まで犯して刑務所に入ります。その中でも高い人心掌握力を発揮し、囚人たちのトップまで上り詰める。この人は根っからのギャング気質なんだなと思いながら読みました。

工藤:カリスマ性がありますよね。

――アンジェロの口から、さまざまなエピソードが語られるじゃないですか。牧師のイメージと全く合わないというか、どうしてこの人が教会に入ったのだろうと不気味に思えました。取材をしていて怖さは感じなかったですか?

工藤:怖くはないですよ(笑)でも本当にすごいカリスマ性の持ち主だと思います。

格差の激しいラテンアメリカでは今でも「革命が必要だ」と思っている人はたくさんいて、物事をひっくり返せば何かが変わるだろうという意識が強いと感じます。ただ、自分にはそれができないから、それを実現してくれそうな人に憧れるわけですね。

貧富の差もそうですし、「これはおかしいぞ」というものばかりを見せられて育ってきたから、「(社会を)変えるべきだ」という意識はすごく強い。だからアンジェロのような人は魅力的だし、ついていきたくなるんだと思います。

牧師としても説教はとても上手です。言っていることも正しい。彼の話は、キリスト教徒ではない私たちが聞いても「なるほど」と思えます。だから彼が話してくれたギャング時代や刑務所時代のことは、にわかには信じられませんでした。

――アンジェロと同じように教会に入ることでギャングを抜け出し、教会に入ってボランティアをしながら、ギャングの若者たちに語りかけるラップミュージックを作っているネリという若者も出てきます。やはり中米諸国においてキリスト教は強い力を持っているんですね。

工藤:そうですね。私たち日本人はご飯を食べるときに「いただきます」と言いますが、それに近いくらいの習慣的な存在かもしれません。生活の中にキリスト教の考え方が根付いていて、彼らからは「神さまはいつも見ている」という言葉が普通に出てくるんですね。

そして、何か成し遂げることができれば、本気で「神さまのおかげでできた」と言う。それは人間だけの力では無理で、何か大きな力が働かないとできなかったに違いないと考えるからでしょう。そういう力を信じているからこそ、救われている部分もあると思いますね。

――マラスは組織から抜けたら追ってきます。でも、教会に入ると「マラス」たちは追ってこないのはなぜなのですか?

工藤:それはギャングにとっても神の存在は大きいということだと思います。悪党に救いの手を差し伸べられるのは、最後は神しかいない。「神に仕える」ことは全てを超えて正しいのです。だから全身全霊を神に捧げようとしている人に危害を加えることはできないのではないでしょうか。

ただ、もちろん「マラスから逃げたいから教会に入ります」というのはNGです。本気で神に奉仕していなければ、すぐにバレてしまいます。結局狭いコミュニティの中でつながっているので。

――教会に入ること以外でギャング団から抜ける方法はあるのですか?

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