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出会いは最悪だった!? 鈴木敏夫VS石井朋彦 アニメ界の大物「仕掛け人」師弟が公開トーク

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​ スタジオジブリの名プロデューサーである鈴木敏夫さんと、株式会社クラフター取締役の石井朋彦さんが12月6日(火)、トークイベントを行った。なお、このイベントはライブ配信サービスのLINE LIVEにてリアルタイム配信された。

 2016年6月に著書『ジブリの仲間たち』(新潮新書)を刊行した鈴木敏夫さんといえば、元編集者にしてスタジオジブリの名プロデューサー。その手腕でジブリを世界的な存在へと押し上げ、ジャパニメーションの世界進出に貢献した日本アニメ界のレジェンドだ。

 その対談相手となったのは、初の著書『自分を捨てる仕事術 鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」のメソッド』(WAVE出版)で注目を集める石井朋彦さん。スタジオジブリ時代に鈴木さんのもとで仕事を学び、ジブリ退社後もアニメ制作会社Production I.Gにて多数の作品を企画・プロデュースするなど、今も偉大な師の背中を追いかけ続けている。

 長年に渡り、宮崎駿さんのパートナーとして常に第一線で活躍を続ける名プロデューサー・鈴木敏夫さん。その愛弟子であり『スカイ・クロラ』『東のエデン』などの話題作を手がけてきた石井朋彦さん。アニメ界を代表する「仕掛け人」師弟は、どのような話を聞かせてくれたのだろうか。

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 公開対談イベントの会場となった新宿区のDNPプラザには、開場前から多数のファンが詰めかけ、大入り満員。鈴木さんと石井さんは、割れんばかりの盛大な拍手に迎えられて会場入りした。

 冒頭、鈴木さんが「今回のイベントの主役は石井さんである」と語り、今回は『自分を捨てる仕事術 鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」』についてトークを展開すると宣言した。とはいえ同書は、鈴木さんからのアドバイスを記録した膨大な量のメモを整理してまとめたもの。弟子が師の教えを書き記した『論語』的な側面が強い一冊となっているため、必然的に鈴木さん、そしてジブリの方々にまつわるエピソードが中心となった。

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■石井さんと鈴木さんの出会い~初対面で口論に

 石井さんと鈴木さんの最初の出会いは、ジブリの採用面接。『となりの山田くん』制作時に、ジブリの中途採用に応募した石井さんは、およそ数百倍という難関をくぐり抜け最終面接にこぎつけるが、そこに立ちはだかったのが鈴木さんだったのだとか。自己アピールを片っ端から否定され、腹を立てた石井さんは次第にヒートアップ。面接終了後に「これは落ちたなあ」と落胆していたところ、採用通知が届いたのだそうだ。

 一方、鈴木さんが石井さんを気にかけるようになったのは、しばらく後のこと。石井さんが、ジブリに制作進行として入社して3~4ヶ月経った頃だったようだ。当時の制作部長から「石井は皆と上手くやっていけない。鈴木が下に引き取るか、クビか。選択肢は2つ」と言われた鈴木さんは、仕方なく石井さんの教育係になったのだそうだ。

 これに対し石井さんは「200パーセント事実です」「当時は世界が間違っていて、僕が正しいと思っていたんです。周りはたまったもんじゃないですよね」と苦笑していた。

■鈴木再生工場~石井さんの再教育

 伸び悩むプロ野球選手を復活させる野村克也監督の采配「野村再生工場」ならぬ「鈴木再生工場」を自認していた鈴木さんは、まず石井さんに「自分の意見を捨てろ。自分が何か言おうとしていると人の話が入ってこない。まずは人が言うことをノートに書き留めて読み返せ。その議事録を俺に送れ」とアドバイスしたのだとか。教えを忠実に守った石井さんは、自分にこだわるあまり視野が狭くなっていることに徐々に気付いていったのだそうだ。

 次に石井さんが命じられたのは、アニメを作る上で宮﨑、高畑両監督が特に重要視している絵コンテに書かれているセリフの暗記。この仕事を通して、石井さんは鈴木さんの外部記憶装置としての役割を果たす様になり、同時に人の言ったことを理解し、正確に伝える能力を身に着けていったのだそうだ。

 さらに鈴木さんは、石井さんが最も力を発揮した『千と千尋の神隠し』制作時に、せっかちな宮﨑さんや知識人である高畑さんと話す時のコツを教えたという。

「分かってなくても斜め上を見て3秒考えているふり」というアドバイスを実行したところ、高畑さんに評価してもらえるようになったというエピソードでは会場が笑いに包まれた。

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■4つのキーワードを通じて知るスタジオジブリの仕事術

続いて話題は、鈴木さんの仕事術へと移っていく。今回は、4つのキーワードを通して、石井さんの著書の内容について語っていくという展開となった。

〜その1「仕事は公私混同」〜

「日々の出来事は仕事に結び付いていくのだから、日常と仕事を分けてはいけない」そう聞くと、昨今話題のブラック企業的な印象を受ける。が、これは長時間労働を推奨しているのではなく、「いつでも仕事について考えていろ」ということなのだとか。日常的にやるべきことについて考えていれば、仕事の効率が上がって勤務時間が短縮されることもある。仕事の「オンオフ」という感覚を重視しすぎることで、逆に疲れてしまうというケースもあるのではないかと鈴木さんは語った。

 また鈴木さんは、アニメのことを全く知らないにも関わらず、親友に付き合う形で東映動画に入社した高畑勲さんのエピソードや、暗いマンガばかり書いていた宮﨑駿さんが偶然見たアニメ映画『白蛇伝』のヒロインに恋をしてアニメの世界に足を踏み入れたエピソードを披露。「人間の生き方は二つ。目標を決めて到達するために努力するタイプ。もう一つは目標を定めず目の前のことをコツコツやる事でどこかに到達するタイプ」と語り、人間は目標や夢のことばかりを考えすぎると、高すぎる理想に押しつぶされてしまうと持論を展開した。

〜その2「仲間を増やせ」〜

 かつては「なんとしても自分でやろう」「負けるもんか」と考えるタイプだった石井さんだが、鈴木さんから受けた「仕事は仲間を増やすほど面白くなる。自分の得意技を作り、自分にないものを持ってる人と組め」とのアドバイスに触発され、大きく成長したのだとか。

 これに対して鈴木さんは、『となりのトトロ』『火垂るの墓』制作時のエピソードを披露。宮崎さんと高畑さんが切磋琢磨した結果、作品のクオリティが上がり、さらに60分の予定だった両作が80分以上に膨らんだエピソードを通じて、ライバルの大切さを語った。

〜その3「他人に必要とされる自分が自分」〜

 石井さんは「やりたいことをやるために仕事を辞めるなんて馬鹿な話はない」と語る。かつて鈴木さんから「誰かに必要とされて自分がいる。頼まれたことをやればいい」と教えられた石井さんも、最初は言葉の真意が理解できなかったという。しかし次第に人から貰った仕事の方が上手く行くことに気付いていく。自分で決めて、自分でやろうとすると、自分で責任をとらなければならない。人に望まれ、依頼されてやってるうちは責任がないし、楽しいし、一生懸命できるというわけだ。

〜その4「俺がやったと言わない」〜

 物事が上手くいくと「あれは俺がやった」という「アレオレ詐欺」な人が、雨後の筍のように現れる。若かりし頃の石井さんも「僕が言ったことじゃないですか」とアピールするタイプだったが、鈴木さんに「どうでもいいじゃん。そんなこと」と諭されたのだとか。以後、必要以上に自らの手柄を誇ることがなくなった石井さんだったが、その上を行っているのが宮崎さんと鈴木さん。お互いに自分が言い出したことを、相手のアイデアだと信じ込んでいたりも。

■まとめ

 稀代の名プロデューサー・鈴木さんは、自分ひとりでは何も出来ないこと、そして決して責任を負い切れないことを知っている。だからこそ周りの人を巻き込んでいく。そして集めたスタッフの中に、それぞれの得意技を見出し、結果としてプロジェクトを成功させてしまう。

 鈴木さんの核にあるのは「禅」の考え方だという。石井さんは「僕は考えて自分を捨ててるけど、鈴木さんは違う。境地に達している」と語る。今回のトークショーでは「今、目の前にあることを一生懸命やっていれば、どこかに辿り着く」「過去や未来のことを考えず、今に集中する」という禅を思わせる言葉が繰り返し語られた。聞けば鈴木さんは仏教教育で知られる名門中高・東海学園の出身。お寺が身近だった学生時代の経験が考え方のベースになっているところもあるという。余談だがタレントで予備校講師の林修さんも同じ東海学園の出身なのだそうだ。これには一同「やっぱり”今でしょ”なんだ!」と納得していた。

【書籍情報】
『自分を捨てる仕事術 鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」のメソッド』(WAVE出版)
『ジブリの仲間たち』(新潮新書)

<プロフィール>
鈴木 敏夫
1948年生まれ。慶応義塾大学卒業後、徳間書店に入社。『週刊アサヒ芸能』などを経て月刊『アニメージュ』の創刊に携わる。同誌の編集を行いながら、1984年公開の劇場版アニメ「風の谷のナウシカ」を製作。1985年、スタジオジブリの設立に参加し、以後「天空の城ラピュタ」「となりのトトロ」「火垂るの墓」「魔女の宅急便」を製作。1989年以降はスタジオジブリ専従となり、以後、全劇場作品及び、三鷹の森ジブリ美術館のプロデュースを手がける。2016年6月に著書『ジブリの仲間たち』を上梓。

石井 朋彦
1977年生まれ。アニメーション映画プロデューサー。1999年スタジオジブリ入社。「千と千尋の神隠し」からプロデューサー補として、鈴木敏夫氏のもとで仕事を学ぶ。ジブリ退社後、多数のアニメーション作品を企画・プロデュース。現在は、株式会社クラフター取締役プロデューサー。2016年8月発売の本書が初めての著書となる。

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